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第102話、泣かないはずだとのたまっても、涙ちょちょ切れる時はきっとある




SIDE:マーズ

 


さて、切り替わった視点などでお気づきの方もいるだろうが。

今回、マニカを含めた護るべきみんなが、リアータの故郷にしてもう一つのスクールであるラルシータスクールへ向かうにあたって。


ガイアット王国の時のようにマニカ母の『おぷしょん』の都合がつかず(詳しくは聞くのも憚かられたが、端的に言えばマニカ父がダダをこねたらしい)、マーズ自身の身体をマニカに預けたこともあり、今やムロガの従属魔精霊であるクロに、一応元マスターであったのをいいことに、純粋な【エクゼリオ】の魔精霊としてお休みしてもらい、その身体をいつぞやのようにマーズが借り受けた次第である。



主であるムロガや、後輩扱いしているウィーカ辺りは中の人……内なる世界にマーズがいることに気づいていただろうが。

何だかんだでみんなが心配で、そんな方法を使ってでもついてきた一方で。

堂々とそこに居合わせている女の子たちの触れ合い戯れ合いを見守っているのならばともかく。

変なところでへたれ……オニ真面目なところのあるクロの皮をかぶっているわけでもないが、それにも等しいマーズは。


これ以上黙って見守っているわけにはいかないと。

正確に、厳密はこっそり身を隠してついてきているような状況で。

リアータ母ズに見つかったら目も当てられねぇと。

みんなが居住区へ入らんとするタイミングでばっさばっさとようやっと慣れてきた翼使いにて抜け出し飛び出していた。




(あー、でも聖おっさん師匠のとこには顔出しとかねぇとな。うっかり退治されかねん)


持ちし能力と立ち位置などは完全に大聖女のごとき存在であるが。

奥さんと娘さんには目がない(それはどこのオヤジでも一緒だが)いい年したお茶目なおっさんなのでマーズはそう呼んでいる。


他にもなげやり師匠とか馬鹿真面目太眉とか、あだ名から二つ名までいっぱい持っているが。

最初の呼び方の時の反応が一番面白いので、もちろん師匠に対する尊敬の念を微塵も忘れずそう呼ぶ事にしていて。




(しっかし。ものの見事に避けられてたなぁ。……俺なら泣くな。せめて優しくしよう)


ラルシータスクールの中心、ユーライジアスクールからの直通便な【虹泉トラベル・ゲート】のど真ん前にそびえ立っている時計塔、その頂上にある『校長室』に向かって風に流され蛇行してふらふらしつつも、ここまでの流れを思い出し笑いかけてほろりとする。



詳しいことはマーズからは語らないが。

マーズは、このユーライジア……生まれ故郷へ戻ってくる前から当然のごとくリアータのことは知っていた。

スクールへ通いだし、同じクラスになったこともあって、ある意味で似た境遇であったこともあり、何かしらの『事件』が起こるよりも早く、リアータの悩みを解決……したかどうかは彼女のみぞ知るところだが。



『微笑みかけてもらっただと!? お父さんな私でさえそんな機会なんぞとんと無いと言うのに!?』

 

普段の聖職者めいた仮面なぞあっさりと剥がし、そんな風に聖おっさん師匠に詰め寄られたことも記憶に新しかった。

その、重く強い愛情がそうさせるのか、一様にどこのお父さんも可愛い娘には敬遠されがちで。 

(マニカには幸いまだその気配はないが、顔を合わせたことすらないのだからそれ以前な問題ではある)


そんなオヤジたちの気持ちが何故だか無性に身に沁みてしまったマーズは。

優しくというよりは、あまり下手に刺激して怒らせないようにしようと。

どうせ、みんなしてラルシータスクールへ遊びに来ていることなど七色の水を超えたその瞬間から把握しているはずだからと。

きっと準備万端で、おもてなしの用意をしている公算が高いであろう聖おっさん師匠に。

どのような気の利いたいいわけをすべきかとかぁかぁ考えつつも勝手知ったる校長室の窓をノックしようとして拳がないことに気づき、ここっつっと、なんとも不器用に嘴をもって窓を叩く。




「……かぁ?」


しかし、しばらく経っても反応はない。

いつもと姿形、魔力の感じが違うからマーズが顔見せに来たと思われていないのか。

愛娘が帰還すると分かっていて、準備万端待っていないだなんて、聖おっさん師匠に限ってはありえはいはず……。



(いや、そうでもない、のか? ここの子たちは昔から特別だって言うしなぁ。もしや俺が来るよりも早く何がが外で起こってるのかも)


それこそ、最強親世代がまだ雛鳥であった頃よりも昔から。

特別な血筋……世界そのものでもある根源に連なる一族であるラルシータの者達は、多くの悪意、邪なるものに晒されて来たと言う。


ラルシータスクールとその敷地外の境には、守護結界なるものが存在しているが。

外……フィールドはその限りではなく、異世界からの侵略者から始まって、古代の生ける遺物とされる、魔物とも少々異なる化生の類までもが跋扈していて。

守護結界が完璧なものではない以上、厄介そうなものが現れたのならば先手を打って間引きする必要があった。


しかし、それならそれで連絡の一つがあってもいいじゃないのかと。

その暇すらなかったのかと首をひねっていると。


きぃ、と。

恐る恐るといった様子で開け放たれる窓。

こちらからは中が見えなくなっている仕様だが、それでも僅かに見える深海のごとき流れる青い蒼い髪。



「……」

「……か、かぁっ!」



じぃぃーっと。

氷柱に貫かれて穴が空いてしまいそうなほどに見つめるは瑠璃色の瞳。

聖おっさん師匠よりもよっぽど『聖女』の肩書きが似合いすぎる魔法の法衣を纏った……

どこからどう見てもリアータによく似た、彼女が大人になればきっとこんな感じだろうなと思えるお姉さんがそこにいて。


流石に愛用の得物である円月輪や仕込み錫杖などは装備はしていなかったが。

無言で見つめられて、実はちょっとだけ何も言わずこっそりみんなの側にいる腹積もりであったことがバレたのかと戦々恐々でおはようございます? と言ったつもりで一声鳴くと。




「…………大丈夫。危害は加えない、から」


警戒して怯える小動物を優しく諭すかのような。

どう見てもマーズだと気づかれていなさそうな。

だけどひんやりとしていそうなセリフが降ってきて……。



       (第103話につづく)









次回は、6月25日更新予定です。

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