第101話、創造主のさだめで、きっと少女は少女のままで
Girls SIDE
「ただいま~」
「「「「おじゃましまーす」」」」
「にゃぅん」
剣聖の暮らすガイゼル邸や、ハナの故郷サントスール国にも似た独特な雰囲気もありつつ。
ユーライジアスクールやガイアット王国にも似た、馴染みの雰囲気が融合しているかのごときラルシータの居住区。
その土地を隠すかのように。
これ見よがしにでんと聳える時計塔ならぬ棟……その最上階に校長室があるというのに話を逸らしながらも避けている様子なリアータの気持ちを汲んで。
文字通り勝手知ったるリアータを先頭に、ふさもこの竹箒やらそれにより集めた草葉の山を抜けて玄関ホールへと足を踏み入れると。
「はーい! おかえりなさいっ、おやおや。今日はお友達たくさんだねぇ」
「……うん。みんな、お休みの日にこっちに来たいって言うから。【虹泉】があるから来るだけならすぐだし」
近くにいたと言うか、どうやらその竹箒と草葉の山は彼女の仕業だったらしい。
年の頃は、ハナ……ミィカと同じくらいだろうか。
ミィカよりも明るいはちみつ色の髪を後ろ手にまとめポニーテールにしていて、ミィカとは色違いフリル違いなメイド服を身につけていて。
正しくリアータと家族であることをよくよく示すように気安い様子でそんなやり取りをしている。
「リオ姉さんはいる? 休日だしこっちにいるかなって思ってたのだけど」
「あー、ざんねん。タイミング悪かったねぇ。今日リオちゃんはトウエイ村に行ってるよ。
ちょうど朝起きたら『あたし』だったから、お家の家事のすべてはあたしがやってるのよ」
「ふーん、そっか。もしかして今日のおやつは焼き芋の予定?」
「そ。他にも持ってきたよ。マシュマロとかね」
「あら、だったらタイミングばっちりじゃない。みんなの分、ありそう?」
「もちろんよぉ。出てきた時点で何だかそんな予感がしたからね。色々お菓子、持ってきたよ、チョコとか」
「チョコに火はだめじゃない?」
「それがー、そうでもないんだよねぇ」
元より会話に遊びが少ない性質であるのか、リアータは連れ立ってやってきた友達の紹介よりも早く本題に切り込むが。
対する妹めいた少女(リアータには下のきょうだいはいないと聞いているが)は。
エプロンのポケットから正しくも魔法のごとく次々と紫いもや煌びやかな包装のお菓子を取り出しつつ。テールを揺らしてお友達紹介してよぉ、とばかりに催促してきて。
「姉さんがここにいないのなら、なるべくここに長居はしたくないのだけど、仕方ないか。
ええと、紹介が遅れてしまってごめんなさい。うちの母さん……よ」
「その微妙な間が気になっちゃう感じだけど、まあいいわ。こう見えてリアータの母のマリアでーす、よろしくねっ」
大小様々なれど、対する皆のリアクションは一様にえぇっ!? などといった感じで一貫していた。
マニカの母しかり、クルーシュトの母しかり、親世代においては幼い感じがブームなのか。
実はそんな事をいいつつここにいるみんなのお母さんはきょうだいに見えるくらいに若い感じなので。
ハナがもしかしなくてもママのようにこれ以上ボクって成長しないのかもってダメージを受けていたり。
どいつもこうつもみんなしてロ○コンじゃぁないですかと、眉間にシワを寄せてミィカが小さくぼやきつつも何だかんだで順を追って自己紹介と相成って。
「ハナちゃんにミィカちゃんに、マニカちゃん、ムロガちゃん、でもってうん。ウィーカちゃんはお久しぶりだね~」
「なうん」
ハナの父には及ばぬと言うか少々ジャンル違いではあるが。
マリアはユーライジアに名の通った従霊道士、式神使いでもあって。
猫で魔精霊なウィーカの扱いにも慣れたもので、流れる動きで背中を撫でていた。
「あれ? ……クロさんは?」
「あ、本当だ。さっきまでいたのにどこ行っちゃったんだろ」
ちゃん付けはちょっと、などと言うよりも早く。
それまでムロガのリュックを中心に辺りをふらふら警戒するみたいに飛び回っていたクロの姿が消えていた。
「クロさん? 他にお友達が来ているの?」
「ええ。ムロガさんつきの魔精霊で、【闇】の子なのだけど」
「私や姫様よりも自由であるとは、やりますねあの新しい子も」
「いいんちょんちの子だけど、契約はしてもらえたから呼べるけどボクが呼ぼうか?」
「あら、ハナちゃんって召喚魔法が使えるの? もしかしてリアより優秀なんじゃない?」
「気にしてない……とは言えないからあまりいじめないで。まぁ、事実だけれど」
今では言葉ほどではないが、どうやらリアータは容姿は母『たち』によく似ているが、魔法などの才能などは父の血が濃いらしい。
回復魔法を初めとする召喚以外の魔法は結構扱えるのに従霊道士としてはお義理とやさしさでウィーカが付き合ってくれているくらいで。
なんとはなしにむぅとなって、母からかっさらうようにしてウィーカを取り返すと、マリアはそれに気にした様子もなく。
「契約済みなんでしょう? だったらスクールの敷地外に出ない限りは大丈夫じゃないかな。どうせセンパイが目を光らせてるだろうし。ってか、リアってばもしかしなくてもセンパイスルーしてこっち来てるでしょう?」
「……うっ、いやその。何ていいますか。恥ずかしくて。っていうか、その呼び方も恥ずかしいんだけど」
「えぇ、なんでー? センパイはセンパイじゃないの」
再び、二人……親子にしか通じないかもしれない、そんなやりとり。
リアータが恥ずかしくてお友達を紹介するのも億劫で。
マリアが未だにセンパイの語尾にハートマークが付く勢いで呼んでいるその人物こそが。
この、ユーライジア・スクールの長にしてリアータの父、マリアたちの夫であると。
詳らかになるのに、そう時間はかからないはずで……。
(第102話につづく)
次回は、6月20日更新予定です。