第100話、満を辞して太眉馬鹿真面目主人公タイプ、避けられる
Girls SIDE
そうして。
ハナたちはリアータの故郷、ラルシータ大陸にあるラルシータスクールへとやってきて。
【虹泉】の奔流に晒されるようにして運ばれる最中では。
濡れることも息ができないこともないのだが、水が苦手なマニカがそれなりの時間迷った挙句。
何とはなしにお互いの間にあった柵のようなものが取り払われた証左なのか、リアータに手を握っていて欲しいなんて呟いたから。
年下のきょうだいのいないリアータにとってみれば、甘えられるのも存外悪くないものよねと、手放しで喜ぶだけの一幕があったくらいで。
特に問題なく、時の狭間の怪物ことクリッターが現れることもなく(別の意味でマニカが呼べば飛んできてはくれるだろうけれど)。
ラルシータスクール内にある、【虹泉】の間へと辿り着くことができた。
これまた世界中に普及しているマジックアイテム【連絡機】と同じように。
決められた一対の場所を繋ぐ、一般的な……よくよく飼い慣らされた【虹泉】。
今回入り込んだのは、ユーライジア・スクールとラルシータ・スクールを繋ぐもので。
ある意味特別なルートであるからして、あってないようなものな玉座(校長室のもの)の裏手、地下に【虹泉】は据え置かれている。
玉座の後ろに地下へと続く階段が隠されていて、それを下った先に何かしらがあるのは。
ラルシータスクールの校長であり、リアータの父曰く、ロマンだそうで。
そう言えば、マーズもそんな事を言っていたっけ、なんてことをリアータは思い出して。
年甲斐もなくマーズと顔を合わせるたびにけんかしてしまう、友達感覚なラルシータ校長との鉢合わせを何となく避ける腹積もりで。
上へと続く階段は使わず。
ユーライジアと同じようにダンジョンめいて広くなっている地下(と言っても魔物などはおらず、宝箱や罠の類も無く、スクール用の倉庫として使われている)へと歩を進める。
「ラルシータのがっこへやってきた! ってことでいいのか?」
「こちらもスクールの地下は似たようなものなのですねぇ」
「……うぅ、やっぱり虹泉は慣れないです。あれだけ苦労して移動していなかったら悲しいです」
「うんにゃ。みた目はおなじようにゃけど、においはけっこうちがうにゃ」
「ダンジョン……って言うより、大きな地下の倉庫? ひんやりしてるね。こういう所に『ズイウン』とか置いていたりしないのかな」
「かぁっ」
「あぁ、確かに言われてみればそうかも。後で聞いてみるわね」
時間にしたらものの数分程度だったのだが。
寝物語で聞かされてきた影響などもあって、何だかんだでマニカに限らず瞬間移動のストレスのようなものはあったようで。
一息ついたところで各々が喋り出すのを制しつつ。
そのまま校長室へ向かった方が手間がなくてよかったかしらとは思いながらもリアータは先行して地下と地上、二階ぶんのスペースを取ってあるという、『体育館倉庫』……所謂授業に使うための器具、武器防具マジックアイテムなどが保管してある場所へとやってくる。
「おぉ、さすがラルシータ。いい備品が揃ってるねぇ」
「かあ」
「ふむ、そのおっしゃりようですと、ユーライジアよりこちらの方がその、レベル的には……?」
「うん。一般的にはこっちのほうが授業内容とかも厳しくて、実戦向きとは言われているね」
「ほほう。そーなのかー。でもボクとしてはユーライジアくらいのレベルがちょうどいいかな」
「確かに、目移りするくらい細かに色々なものが揃っていますね」
「そうかにゃぁ。なんていうか、とくに武器? 竹刀じゃなくて、ええとこれは、竹やり?」
「授業用の投げ槍(竹のスピア)ね。父さんの趣味……というか、父さんの愛用の得物がスピアなのよ」
こちらの方がスクールとしてグレードが上であるのならば。
リアータは何故こちらに通わずユーライジアで寮生活をしてまでユーライジアにこだわるのか。
それは、勉強ばかりのこちらより、もっと大事なことを学べる(生涯付き合える友達とか)というのが一番の理由だが。
何故か昔から、世界を、守り支える英雄になりうる存在は、ユーライジアの方が多く輩出していて。
前の世代、ラルシータの校長も含めて、ここにいる少女たちの親たちは、皆ユーライジアに通っていたと言うのもあるだろう。
慣例、そう言うものだから。
敢えてユーライジアに通うのだと。
そんな父の言葉をリアータは疑ってはいなかったし、事実ユーライジアに通うことによってリアータの内に燻っていた悩みも解消されたし、こうして友達をたくさん連れてくることができたから、よかったなぁとリアータはしみじみ思って。
「休みはユーライジアと同じだし、生徒さんたちも基本は校内にはいないはずだから……リオ姉さんは居住区の方ね。行ってみましょう」
「あ、はい。お願いしますね」
マジックアイテム棚に目を奪われかけていたマニカは、そもそもの一番の目的を改めて思い出し、皆と連れ立って地上階へと出る。
「おー、こっちはがっこというよりお城みたいなウチにちょっと似てるかも」
「みたいってゆーか、城そのものじゃにゃいの? きまったひとりの王のいないユーライジアとちがって、ここには王がいるんにゃもの」
「かぁっ」
【光】と【闇】、そして【月】の魔力に長けし大賢者。
ありとあらゆるものを癒し治す、大聖人。
前代の英雄の中でも二つ名を上げればきりがないだろう。
……そんな父を、友達に紹介するのは吝かではないのだが。
やっぱりまだ心の準備ができていないというか、恥ずかしいというか。
うわさをすれば文字通り出てきてしまいそうだったから。
「とにかく、まずは姉さんに会いましょうか。この時間ならお掃除中でしょうから」
極力、校長室には近づかないように迅速に。
口にはせずとも、急かすリアータのそんな心の内が透けて見えるようで。
断る理由もないし一同は改めて、いっそうお城感の強い居住区なる場所へと向かうのであった……。
(第101話につづく)
次回は、6月16日更新予定です。