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第10話、本人が違うと言い張るイコールを、何故か頑なに信じていて




ユーライジアスクール下町。

本当は別の名前があるという話が聞くが。

広大なスクールにくっつくようにしてあるその町は、当たり前のようにそう呼ばれているので、

他国からやってきたハナ達にとってみれば、それが正式な名前であるという認識は強いだろう。



三人は、空の橙が完全に茄紺色に変わる頃には、町の中心にある仕事斡旋所……通称冒険者ギルドへとやってきていた。

ただし、中には入らず遠巻きにその入口の見える場所、道脇に備え付けられし植樹帯の影に隠れるようにしてしゃがみ込んでいる。

ミィカが何故を問えば、リアータはひとつ頷いてみせて。



「『夜を駆けるもの』は、基本的にギルドで受け付けてもらえなかった仕事を請け負ってるみたいなの。

断られた人がギルドから出てくるのを見計らって『彼』は突然現れるから、私たちはそのタイミングを狙うってわけ」


饒舌に、まるで自分の事のように二人に説明する。


「彼、ですか。 『夜を駆けるもの』は男性だと?」

「えぇ~。ちがうよー。かわいい女の子でお忍びのお姫様、でしょ?」


失言と言うわけではないが。

リアータは、『夜を駆けるもの』=『彼』=『マーズ・カムラル』だと疑っていること、いま説明すべきか正直迷っていた。 


しかし、変に意識して警戒されて逃げられでもしたら意味がないので、言葉のあやと言う事にしておくことにした。

ミィカは、そんなはぐらかしたリアータに対してやっぱり訝しげに。

ハナは単純に意味がよく分かっていないのか、お姫様じゃないといやだとだだをこねていたけれど。




そんなやりとりの中、巨人族でも屈めばくぐれそうなギルドの入口の扉が開き、一人の男が出てきた。

遠目なので声はよく聞こえないが、あからさまに不満そうで、何か悪態をついているのが透けて見えるようで。

ここまで分かりやすい人が出てくるとは、ついているかもしれない。

リアータは二人に目配せし、男の後を追うように立ち上がる。



「え~。あのもぶっぽい人が『夜を駆けるもの』なの?」

「あの人は依頼人よ。あれだけあからさまならきっと……」

「リア、姫さまっ。上ですっ」


そんなわけないでしょうとハナを諭そうとして、はっと空を見上げたミィカが鋭く二人を促す。



「……来たわね」

「お~、かっくいい!」


元々は黒系だったのに、無造作に塗料でもぶちまけられたかのような、血のような飛沫痕で彩られしマント。

極彩色の、やっぱり元は白かったであろう仮面フルフェイスマスク


軽快に屋根の上を駆けるその体躯は、リアータの予想希望からすると大分小さい気もするが。

十二の魔力がうっすらと光り覆っているのを見るに、マントか仮面のどちらか、あるいは両方に『認識阻害』の魔法がかかっているのだろう。

事実、あんなに目立つ格好なのに、リアータ達のように気づき騒ぎ立てるものはいなかった。



「ミィカ凄いわ。よく気づいたわね」

「いえいえ。メイドとしてのたしなみです」


素直に褒めるリアータに、どや顔で胸を張るミィカ。


「あたらしいよめこうほ、げっとだぜ~」

「ちょ、ちょっと!」


しかし、そんなやりとりも一瞬。

前のめりに転がる勢いで、駆け出していってしまうハナに、二人は慌てて追いすがる。

駆け出しながら見上げると、ちょうど『夜を駆けるもの』は裏路地に入った男を追い越し、立ちはだかるようにして屋根から降り立った所だった。



惚れ惚れするような身軽さ。

それに感嘆しつつリアータは、頭からまろびそうになっているハナを捕まえ抱き込んで。

しっかりついてきてくれていたミィカとともに、男と『夜を駆けるもの』のやり取りがかろうじて見える所で身を伏せた。





「ぐぉわぁっ、び、びっくりした。ま、またアンタか!」

「それはこっちのセリフさ。ワタウ君。また無茶なお願いをギルドにしたんだろう? 私に直接頼めばいいと言っているのに、同じことを繰り返し怒りを覚えるなどと、理解に苦しむね」

「いやいや、だってなんだよ。アンタのくれた連絡用の住所、よりにもよって四王家じゃねぇか! どうしたって門前でつっかえされるわ!」

「……そうだったかね。そんな事はないと思うが」



初めの驚きっぷりはともかくとして。

二人は初対面ではないのか、どこか気安い空気がそこにあった。



『夜を駆けるもの』の声色は、どちらかと言うと女性的な、だけど低い耳に残る声で。

実の所『夜を駆けるもの』=『マーズ』だと疑うようになったのは、その声にあった。

『認識阻害』の魔法をかけている以上同じ声ではないのだが、それでもリアータには同系統のものに聞こえたからだ。



「あるんだよ。実際門前払いにあってんだからな!」

「ふふふ。大方邪な気持ちでも抱いていたのだろう。今回の依頼だってろくなものじゃあるまい」

「あー、まぁ、その通りだけどよお。そのろくなもんじゃない依頼をまさか今回も請け負ってくれるってのか?」

「話の内容次第、だね。まぁ、一方では私が断る程の依頼を君が口にできるとは思ってないが」


男は、悪巧みをしようとするも意気地がなくてできなさそうな、まさにモブ顔。

見透かす『夜を駆けるもの』に脱力し、ため息一つついてみせて。


 

「前回と同じだよ。この『キャメーラ』で自然なカンジの『絵』を撮ってきて欲しい。新たなターゲットはサントスールから来たって言う魔王の娘、ハーティカナ・S・サントスール。そして、四王家筆頭、闇の一族エクゼリオの一人娘にしてハーティカナ姫の侍女をやってるミィカ・エクゼリオの二人だな」



思いも寄らぬ所で名前を、肩書きを呼ばれ、反射的にびくりとなって顔を見合わせる。

実の所、リアータが『夜を駆けるもの』と出会うきっかけになったのも同じ依頼だったので。

これはこれで都合がいいのだが、二人にしてみれば何のことやら、だろう。

聞きようによっては暗殺や誘拐依頼にも聞こえなくもない会話である。


似たような事を想像したのかぷるぷるしだすハナに、説明しようとするリアータであったが。

そこで今の状況が分かっているみたいに、耳に残る声色で『夜を駆けるもの』が口を開いた。



「ああ、転入学一日目で大層噂になってるお姫様達だね。承ろう。……しかし、私が言うのもなんだが、『学校で配る新聞作成のために一枚立ち姿を撮らせてくれ』とでも嘯けば済む話ではないのかい?」

「あん? 今更それを訊くのかよ。オレみたいなのがおいそれとお偉方に声をかけられるわけないだろう?」

「ふむ、そんな下手に出なくても身分などあの場所ではあまり意味を成さないのだから気にすることないんじゃないかな。新聞部の仕事の一環なのだと誤魔化せるのだから尚更だ」

「なんか、言葉の端々に悪意を感じるんだが……」



新聞部とは名ばかりの、人気者を付けまわしゴシップを吐き出す愉快な野郎ども、というのはマーズの談である。

そんなマーズが言うほど否定的ではなさそうなのは、『夜を駆けるもの』との小粋なやりとりでよく分かって。

逆に何度も会っているのにも関わらず自分にはつれないのよね、なんてリアータが内心で独りごちでいると。




「……そういう事じゃねぇんだよ。察しろよ。単純にオレが恥ずかしいんだよ。それに、あくまで『キャメーラ』を意識しない自然体な『絵』が欲しいんだ。お前だって自分でそう思っただろ? 『月水の魔女』の自然なあの笑顔、最高だったじゃないか」

「うむ。それは確かに同意をせざるを得ないね」

「……っ」



月水の魔女。

皮肉にも、ここに来たばかりの頃。

近づくもの皆信じられなくて結果付けられた、鉄仮面女と並ぶリアータ自身の二つ名だ。


今となっては、単純にその身に宿す魔力属性と生い立ちによるものもあるだろうが。

二人の言う『最高の笑顔』に心当たりがなくて、かっと顔を赤くさせるリアータ。

 

そもそも、隠し撮りではなく『夜を駆けるもの』が直接現れての交渉だったので、自然も何もなかったはずなのだが。

そんな風にリアータが混乱しているうちに、二人の依頼するもの受けるものとしてのやり取りは終わったらしい。



「まぁ、今回も期待してる。よろしく頼むぜ」

「ああ、全身全霊をもって依頼を全うしよう」


そんな会話を交わし、ワタウと呼ばれた男がリアータ達の方へ。

『夜を駆けるもの』はまた屋根の上へと舞い飛んでいってしまう。




「リア、こっちです」


いつの間にやら移動していたミィカ達に促され、ご機嫌で通り過ぎる男をやり過ごすと。

リアータはすかさず『探知』、『探索』の風魔法を展開する。


そのまま、魔法発動の文言フレーズを口にしようとして。

焦るハナ達とともに、上空に現れた気配にはっとなった。



    (第11話につづく)








第11話はまたあした更新いたします。

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