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妄想の帝国

妄想の帝国 その27 痴漢撲滅日和

作者: 天城冴

大学入試共通センター試験の当日は痴漢のし放題と、卑劣な欲望を抱いて電車に乗り込んだカンチ。女子高生を物色しつつ、犯罪を犯そうとしたそのとき!

「はあ、はあ、いい混み具合だな」

カンチは満員電車のなかで、ほくそ笑む。

都心を走る環状線は土曜日だというのに、いつも以上に混んでいた。

それもそのはず

「きょ、きょうは大学入試共通センター試験だもんな。女子高生は痴漢にあっても我慢するしかないから騒がれたりしないし、くくく」

卑劣悪質、女性の人生を破壊する犯罪行為をやる気満々のカンチ。

「もう少しまとうかな、でも」

なんとなくムラムラとしてきた上に

「おお、セ、セーラー服の女子高生が、前に。いや、ブレザーの子も、今日は女子高生率がやたら高いな、よりどりみどりだ」

太り気味の中高年男性も少なくないが、制服姿の女子高生とおぼしき姿が圧倒的だ。

「くくく、そ、そうっと」

とカンチが女子高生のスカートをまさぐろうとした途端!

ビビビビー

一斉にブザーがなり

「痴漢発見!」

「確保、拘束、移送中!」

「逃走!至急マーク!」

と声がとぶ。驚くカンチの腕に手錠が嵌められた。

「わ、あわあ、なんだよ、これ!」

「あんた、今痴漢しようとしたでしょ」

と振り向いた女子高生ならぬ中年女性。

「ひ、ひいい詐欺だああ」

「詐欺とは何よ、おとり捜査よ。ちなみにアンタの痴漢をやる気満々のつぶやきもばっちり録音してあるからね」

慌てふためくカンチに女性はミニレコーダーをつきつけた。

気が付けば女子高生や男子高生のふりをした男女が痴漢行為を働こうとした中年男性を追いかけ、捕まえ、移送している。逃げ回る中には痴女とよばれる女性もいた。

「な、なんで、こんな、女子高生は、し、試験はー」

「ふん、アンタみたいな卑劣卑屈卑小な男の手の届かない安全な場所にいるわよ!さあ来なさい!私の人生狂わせた痴漢にたっぷりと仕返ししてやるから」

「わー、それは俺じゃないよー」

「うるさい!同類のくせに!だいたいアンタ常習犯のようね、別の若い子の人生滅茶苦茶にしかねない犯罪やったこと思い知らせてやる!」

セーラー服女性に引きずられながら痴漢常習犯カンチは電車から痴漢専用拘置所に移送された。


「ふふふ、本日の“痴漢撲滅作戦”は上手くいったようですな、文部科学大臣」

都内の官公庁ビルの一室。二人のトップが今日の作戦の成功を祝っていた。

「警視庁長官、思い切った手ですが、成功してよかったです。先ほどの報告では概ね受験生は安全に試験を受けられたようです。そのかわり痴漢天国と呼ばれたザイキョウ線などの痴漢は人生最悪の日を味わったことでしょう」

「当然の報いですな。女性が訴えにくいことをいいことに自分の欲望を満たす輩など罰を受けて当然です。しかし、今までのやり方だと冤罪がでかねないという批判もある。いっそ車両すべてに監視カメラをつけるという手も考えたのですが」

「それだと予算がかかりすぎる。鉄道会社の負担にもなります。しかも、今日、この日、学生の運命を左右する日に、このような犯罪が増えるとなると、優秀な学生がどれほど損害をこうむるか」

「社会的にも大損失です。女性の能力が活かせないばかりか、恋愛や結婚にも恐怖を抱くようになりかねない。もちろん、男性被害者も同じです、すべてを滅茶苦茶にされてしまう。被害者の人生そのものに影響を与える恐ろしい犯罪なのです、痴漢は」

「それなのに捕まえられない、冤罪にも注意しなければならないとは、お辛いですな長官」

「ですから、大臣のあの提案があった時は驚きました、受験生をひそかに受験会場に集合させておき、痴漢達を騙して囮の電車に乗せ、一網打尽にするとは」

「いや、前々から鉄道など交通機関の遅延の問題もありましたし、それならいっそ受験生の宿泊施設を受験会場の近くに設ければよいのではないかと」

「それですと、条件も一律、環境による差がでにくい。しかし宿泊費は」

「もちろん学校を通して政府が支給しました。国の未来を担う若者たちへの投資はおしまないのが現政権です」

大臣は誇らしげに語った。長官も満足げに

「そうですな、卑劣な性犯罪を見逃すような真似をした前政権と違いますからな。もちろん我々も真に市民の幸福を守る使命を存分に果たしたいと思います。にしても、凄い作戦ですな、発案者は?」

「わが党の女性部会からの発案でして、一人ではありません。女性だけでなく男性被害者からの意見も取り入れております。痴漢被害にあったという人々が協同で練った作戦です。いや、恥ずかしながら男性含め痴漢にあって嫌な思いをした人というのは多いのですな、この件で初めて知りました」

「いえいえ大臣。警察でさえ、前政権まで被害が把握しにくかったのです。我々も痴漢被害の恐ろしさをVRで体験するまでわかりませんでした」

「科学技術の良い使い方ですな。バーチャルとはいえかなりリアルな感覚が味わえるそうですな」

「どんなに嫌悪感を催すものか、ひどい屈辱を味わうのかよくわかりました。まるで、ゴキ、いやGが皮膚にはい回るような恐怖を味わいました。それで痴漢は是が日でも捕まえるべき、との方針になりましたが、具体的な方法となると今までと変わりない、そこへ」

「あの痴漢教唆のツィートですか。世の中が変化しているというのに、まだあのような愚かな行為をするものがいるとは。しかし、そのおかげで痴漢が集中する日時と電車が割り出せ、この作戦を立てることができましたが」

「ツィートの主はすでに警察側で確保済みです。マスコミにも受験会場の件は伏せておくようにと通達を出したので作戦が漏れることはありませんでした。そのかわり痴漢一斉逮捕の記事のための取材に応じるということで。鉄道会社の協力はかかせませんでしたし」

「鉄道会社も利用客を害するような輩は放ってはおけないでしょうね。しかし全車両に囮の女子高生や少数ですが男子高生を配置し、レコーダー、カメラをしかけた上、香り、アロマや色覚効果で痴漢を誘発するんですから、大がかりな作戦でしたね。一般客をうまく当該の時刻の電車に乗せないようにするとか、まあ痴漢常習犯の目星は鉄道会社でも、だいたいついていたそうですが」

「そうですな。しかし、香りの効果や色まで使うというのは、女性ならではの視点というか、目から鱗でした。ぜひ、発案者の方々に。その効果について警察で講習していただきたいものです」

「まあ、それは考えてみましょう。ところで痴漢達は」

大臣がたずねると、長官は

「自分たちがやったことがどういうことが、まずはたっぷり味わってもらっています」


痴漢専用拘置所、通称“Gの部屋”

「ギャー、き、気持ち悪い」

ゴキ…、すなわちニホンでは異様に嫌われる例の昆虫Gの群れがカンチの素肌をはい回る。列車と同じ細長い部屋には収容された痴漢達と天井まで届かんばかりのGの群れ。

「た、助けてー、死ぬう」

と看守に助けを求めるも

「うるさい、Gがはい回った如きで死ぬか!だいたいお前ら“ちょっと触るだけー”とかいって女性に痴漢してたくせに何言ってんだ!自分のやったことを思い知れ、まったく」

と、一向にとりあわない。

Gの足のとげとげが、Gへの嫌悪感とあいまってカンチに肉体的精神的苦痛が増していく。

「ぎょええええ、許してくださーい。ギャア、か、顔に登ってきたあ」

Gの群れに埋没しそうになりながら、カンチは今までの行為の報いをたっぷりと味わっていた。


痴漢は犯罪で、しかも人の人生を狂わせかねない卑劣卑怯な犯罪です。ちょっと触るだけ~などと自分の犯罪行為を正当化する輩にはGの部屋以上の制裁が必要かもしれません。

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