第一章 金の髪の少女。
小さな画面に表示されているのは、自分の父親と言うには、まだ若い男。
少し銀髪も混じっているが、もともと薄い金の髪なのであまり目立っていない。それよりも、彼の力強い青い瞳が何よりもその年齢を感じさせないだけの光に満ちていた。映像の中、彼を突き動かしているのであろう、信念に基づくその力が、彼の老いなどなかったように、オーラとなって彼を輝かせていた。モニターの彼の声は、周囲の誰も聞こえていない。イヤホンを通して聞こえてくるその声は、映像の彼の印象と違わず、堂々と、威厳のある、そして朗々とした声だった。聞くもの全てに訴えかけ、そしてその心にズシリと響く声。一片の後ろ暗さもない。そう、彼の語る言葉は、自分に真実を伝え続けていた。
「聴け!! 我らの叫びを。悲しみを!! 怒りを!! 我らの祖先は、命をかけてこの火星を新たな大地とした。母なる地球と違い、この星には何もなかった。水も空気も、生命を育む実りの大地も。しかし、遠く祖先たちは何世代もかけて、この火星を素晴らしき大地へと作り変えた。素晴らしく偉大な祖先である。それに比べ、あの地球に暮らす者たちはどうか。全てが存在する大地で、ただ安穏と享受しているだけではないか。地球の恵みを享受するだけならいい。我々とは別の世界の話だと思えば、許すこともできよう。しかし!! 彼らの強欲は地球だけにとどまらなかった。我らが、我々の祖先が創り出したこの大地にまで、その貪欲な手を伸ばしてきている。これは、なんたることか。他人が苦しみながら、開拓して得た畑の麦を強奪するような真似を、我々は許してよいのか。いや、許されない。だからこそ、我々は正しきことを求めて何度も立ち上がった。何度も、何度もだ。しかし、残念ながら力及ばず、我々の怒りは、傲慢なる彼らを糺すことはできなかった。それどころか、彼らを増長させ、我々への弾圧とさらなる搾取を許してしまった。けれど、考えてほしい。なぜ、何度も我らが戦いを挑むのかを。負けても倒されても立ち上がる、この怒りの源泉を、地球に暮らす者たちは、真摯に考えねばならない。
我々は開拓者である。地球に搾取される奴隷ではない!! 断じてない!! 我々は我々のために生きているのであって、地球の者たちを肥え太らせるために生きているのではない!!」
気がつくと、自分の乗っていたトラムが、宇宙港に着いていた。慌ててイヤホンを外しポケットに放り込んで立ち上がる。真新しい制服のポケットは、小型タブレットを入れると、さらになじまなさを体に伝えていた。まだパリッとした制服。学生の制服ではないので、サイズが大きいとかブカブカというわけではないのだが、なんというか、お仕着せの印象が強い。いつか、この制服に違和感がなくなるぐらい、立派に働けるのだろうか。
そんな軽い不安と緊張を覚えながら、トラムを降りる。
宇宙港は、火星表面にある、居住区コロニーと呼ばれるドーム型の空間からやや離れた場所に作られている。居住区はその性質上、重力が必要となるが、宇宙港にそれは必要ない。火星本来の40%しかない重力のほうが、宇宙船の離発着にはコスト面からも有利である。
そんな宇宙港の中を、人混みに逆らうように進む。トラムを降りたほとんどの人が宇宙港へ、宇宙へと向かうのに対して、自分が足を運ぶのは宇宙港に隣接して建てられた工場群のある方向だった。
ステーション出口に差し掛かった時、その先に自分と同じ制服の男性が立っているのが見えた。先程モニターで見た人物。実際の彼は、映像よりも若々しく、力に満ち溢れていた。
「やあ、よく来たね、ユリウス君」
「グランツさ…いえ、グランツ中佐。ご無沙汰しております」
自分の言い直しに、その男性、グランツ中佐は少し笑った。
「グランツさんでいいよ。君から中佐なんて呼ばれると、なんだか、おかしなかんじだ」
「いえっ!! そういうわけにはっ!! これからは、中佐とお呼びいたします。よろしいでしょうかっ」
「ならば、私も君のことをユリウス君ではなく、ヴェルナー少尉と呼ばなくてはならないな」
「はっ、恐縮ですっ」
頑張って習いたての敬礼をするのだが、グランツは、ほほえましそうに見るだけだった。
グランツ中佐は、笑うと右の口もとにえくぼの出来る、やさしい顔になる。演説の時のような猛々しい印象は消えてしまう。その温厚そうな印象は、昔から自分の知るグランツさんでしかなかった。
「君が、こうしてここに来てくれる日が訪れようとは。あの頃はまだ小さかったのに」
グランツが自分の腰のあたり、何かを撫でるような仕草をした。
「自分は、もう成人しましたので…」
グランツが撫でたのは、おそらく過去の自分。幼かった自分の頭だ。そのことに気づくと、なんとなく顔が赤くなった。自分の幼い頃を知る人物と会うというのは、それだけでなぜか気恥ずかしい。
「そうか、君が成人か。私も年を取るはずだ」
グランツがまた笑う。年を取ったと言うが、その表情に老いは感じられない。
「君がラルスに引き取られて…」
「15年になります」
話しながらグランツが移動を始めたので、ユリウスは彼の後に続いて歩き出した。歩く、は、正確ではない。重力の少ないこの場所では、普通に歩くだけで身体が飛び上がってしまう。うっかりすれば、空中で一回転してしまう。それを防止するために、壁面にあるレバーにつかまり移動していくのが、ここでの正しい歩き方だ。
「あの頃は、ラルスがいつも自慢していたよ。いい息子を得たってね」
「そんな…」
どう答えたらいいのかわからない。
「ラルスも、今の君の姿を見たら、さぞ喜んだだろう。立派に育ったと言ってね」
「中佐…」
言葉を失くす。こういう時、どう返事をしたらいいのか、ユリウスにはわからなかった。
上手いこと返事したいのだが、自分が話し下手で、どうしようもないことを痛感する。
「ラルスが亡くなった時は、私は、宇宙に出ていてね。何も君の力になれなかった。すまなかったね」
「いえ、中佐は再び孤児になった私のために、弁護士を紹介、して、くれて…。感謝、してます」
グランツが曲がり角で新しいレバーに手を伸ばした。ユリウスも後に続くが、グランツほどスマートにレバーは握れなかった。会話に頭を使っているせいで、もう少しでレバーを掴みそこねるところだった。おかげで、会話も途切れ途切れになってしまった。
「こうして、ここまで来ることが出来たのも、中佐のおかげです」
「そう言ってもらえると、うれしいよ」
先を行くグランツが、振り向いて笑った。
やはり、この人は素晴らしい人だ。ユリウスはそう思った。
先程見た堂々とした演説もさることながら、こういう端々に現れる温厚でやさしい性格。人を惹きつける表情、仕草。どれをとってもユリウスの理想の人物だった。
そんな彼と自分を引き合わせてくれた、亡き養父に心の中で感謝する。
「先程、中佐の演説を見せていただきました」
ユリウスは、ずっと言いたかったことを口にした。
「その…、とても素晴らしかったです。自分もぜひ、中佐の理想の実現のためにお役に立ちたいと思っています」
本当は、もっと上手く自分の感動を伝えたい。だけど、今のユリウスにはこう言うだけで精一杯だった。歯がゆいけれど、いい言葉が出てこないのだから、どうしようもない。
「本人を前にして、あまり褒めないでくれ、照れるじゃないか」
レバーから手を離し、グランツが立ち止まった。
「あ。申し訳ありま…」
「いやいや。怒っているわけじゃないよ」
謝罪はあっさりとさえぎられた。
「さて、着いたよ」
鈍色の扉の前で、グランツに倣ってユリウスも立ち止まる。しかし、そこまでの推進力があるから、ピタッと止まるのは難しい。慣れない自分がこけたりせずに止まることが出来たので、小さく胸をなでおろす。
グランツが、何やら認証番号と、カードを通した。ピーッという軽い電子音の後、その扉が開いた。プシューと音を立てて、空気が扉の中から漏れ出す。
「さあ、入りたまえ」
グランツに促され、足を踏み入れる。通された先は、大きな、天井の高い空間だった。微かに漂うオイルと鉄の匂い。機械から発せられる独特の匂いと熱。明るい空間なのだが、周囲に様々なパーツと機械、それを取り囲むようにめぐらされたキャットウォークなどのせいで、空間全体の印象はグレー、灰色だった。
ここは、本来の重力空間ではないらしい。いつもどおりの重さが、体に戻ってきた。
目の前には、一際目を引く暗い鉛色の巨人の姿。資料として見たことはあるが、実物は初めてだった。その奥にもやや明るめのこれまた鉛色の巨人、そして、同じ形ながら鉄色のままの巨人。腕をつけていない巨人もある。それらの足元には見慣れぬパーツと、諸々の機械。
「これが、HMBA-02、ヴァンガード…。それにHMBA-04、05。あのパーツは、HMBA-CDの、いや、07-CDSのか!?」
ユリウスは、それらの見上げながら呟いた。士官学校でも習った、教科書にも必ず記載されるような機体。
通称HMBAと呼ばれる、巨大な人型機動兵器。HMBA=Humanoid Maneuver Battle Aircraft。
10mを超す大型の兵器で、その源流は、この火星のテラ・フォーミング計画の際に、活躍したモビル・マシナリー・ロボット(通称MMR)にあるのだという。
本当は、飛び出していって、その巨体に触れたい。間近で眺めてみたい。だけど、グランツの手前、そんな子供っぽいことも出来ない。こういう時、この空間に重力があって本当に良かったと思う。でなければ、自分は興味のおもむくままに飛び上がっていただろう。
「本当に、機械に興味があるのだね、君は」
気がつくと、隣でグランツが苦笑していた。飛び上がりはしなかったものの、十分に子供っぽいところを見られて、恥ずかしくなる。
「さて、皆に紹介するとするか」
グランツがこの広い工房、整備ドッグ内に響くよう、壁に備え付けられたブザーを押した。音を聞いて、今までどこにいたのかと思うほどの人々が三々五々集まってきた。みんな、工具だの書類だの持っていたり、オイルや焼けゴケのついた作業着を着ていたりした。男性が多いが、中には女性もいる。
「さて、みんな仕事の忙しい中、集まってもらって申し訳ない」
グランツが彼と同じような年代の彼らに声をかけた。若干、グランツより若い世代も混じっているが、それでも、ユリウスよりはずっと年上である。
「新しく配属されることになった、彼が、ユリウス・ヴェルナー少尉だ」
グランツに紹介されて、ユリウスは一歩前に出た。
「ユリウス・ヴェルナーであります」
背筋を伸ばして、敬礼をする。緊張で、少しだけ声が震えた。
「今日より、この研究所に配属されました。若輩者ですが、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」
何度も練習してきたセリフだったので、言いよどむことなく口から出てきた。
が、あまり相手の人たちは表情を変えてくれなかった。形通りの口上なので、仕方ないと言えば仕方ないが。ただ、自分の示した敬礼には、敬礼で返してくれはしたが、それだけだった。どっちかと言えば、そっけない。
「彼は、士官技術学校を首席で卒業した素晴らしい人材でね。その上、彼の御両親はあのラルス・ヴェルナー少佐だ。かなりの逸材ではないかと、私は思っている。皆、仲良くしてやってくれ」
グランツの手放しの称賛にユリウスは戸惑った。首席で卒業したことは本当だし、そこを言われてもさほど思わないが、亡き養父の名前を出されると、困ってしまう。自分は養父ほど立派な、優秀な人物ではない。
しかし、その居並ぶ研究所員たちは、一瞬ざわついた。首席卒業に、ではない。養父の名前が出たことに対してだ。ラルス・ヴェルナー。養父はここではかなり有名な人物であったようだ。亡き養父の名に恥じないだけの、仕事をしよう。そうすれば、ここの人たちにも、自分の事を気にかけてくれている、グランツに対しても、何かしら貢献できるというものだ。
養父の跡を、彼の残した研究を継ぐために自分はここに来たのだという思いを一層強くする。まだ自分にそれほどの力があるのかどうか、自分でもわかっていなかったが。だが、その心意気は大事だと、ユリウスは思っている。
「さて、他にも君に紹介したい人物がいるのだが…」
グランツが周囲を見回す。
ここにいるのが、この研究所の人員すべてではないのか!?
つられてユリウスも辺りを見回した。
「カールッ!!」
甲高い声とともに、金色な何かが目の前を横切った。
その勢いにユリウスは、半歩下がる。
「おかえりなさいっ、カールッ!!」
その金の塊は、うれしそうに、グランツの制服に甘えるように頭をこすりつけている。グランツも、少し驚いたものの、その金の髪を優しげに撫でてやっている。そう、金の塊に見えたのは、少女の髪だったのだ。
「やあ、元気そうだね」
「うんっ、元気だよ。でも、カールがいなくって寂しかった」
「そうか、それはすまなかったね」
グランツとその少女の会話を聞きながら、ユリウスは戸惑っていた。
誰だ!? この少女は。
女性と表現するのはまだ幼いかんじの少女。自分よりもいくらか年下だろう。グランツの娘とかだろうか!? にしては、グランツをカールと名前で呼ぶあたりに、少し違和感を覚える。他の研究所員と違って、軍服も作業着も着ていない。薄い白のノースリーブのワンピースを身につけていた。
「最近は宇宙にいることが多くてね。すまなかったね」
「ううんっ、こうして来てくれたからいい」
その甘え方も気になった。親に甘えるというより、ペットのネコがすりよるような…。
「君に紹介したい人物がいるのだが」
グランツに促されて、少女はやっとグランツの胸から体を少しだけ離した。肩のあたりで無造作に切りそろえられた金の髪が揺れ、こちらを振り返る。彼女の薄い青の、水色の瞳が、ユリウスを捉えた。さっき目の前を通り過ぎたのに、初めて見る、初めて視界に入ったとでも言いたげな表情だった。グランツ以外、この少女の瞳には映っていなかったということか。
「紹介するよ、彼はユリウス・ヴェルナー少尉。君の世話をしてもらう人物だ」
「えっ!?」
「ええっ!?」
彼女とユリウスは、同時に声を上げた。
「えっ、ちょっ、中佐っ…」
ユリウスはとっさに言葉が出てこない。
「ええ、イヤだ、こんなのっ、アタシ、カールのそばがいいっ!!」
少女の方が、ハッキリと意見を言った。
「ねえ、しばらくはこっちにいられるんでしょう!? だったら、アタシ、そばにいたいの」
「そんな無茶を言うものではないよ」
やさしくグランツが諭す。
「でも、こんなのは、イヤ」
少女のユリウスを見る目は、まるで因縁の宿敵でも見ているかのような眼差しだ。空色の瞳に、ハッキリとした敵意を浮かべている。
なぜ、こんな名前も知らない、初対面の、それも年下の少女から敵意むき出しの目を向けられなければならないのか。最初は驚いただけだったが、次第に怒りが沸き起こってくる。
それに、こんなのって。かなり失礼だぞ、それ。
「ヴェルナー少尉、紹介しよう、彼女がアーケスティア。この作戦の要となる、HMBA07-IA、イーオケアイアのパイロットだ」
「えっ…」
この子どもが!? あの機体の!? アーケスティア!? 年下だとは報告書で確認していたが、まさかここまでとは。顔が幼いとか背が低いとか言うわけではないが、なんというか、行動がガキくさい。大好きな人には、あからさまな好意を持って接するのに、そうでないと、このような悪意を容赦なくぶつけてくる。
言いたいことはいっぱいあるけど、ユリウスはそのどれも口にすることは出来なかった。
「アーケスティア。君が優秀なパイロットであることは、私が一番知っているよ。だけど、君があれをさらに上手に使いこなすためには、彼の協力が不可欠なんだ。わかるね」
「…うん」
アーケスティアと呼ばれた少女がうなずいた。グランツの制服に、しがみつくようにしていた手を力なく下ろす。けれど、納得しているわけではなさそうだ。
「彼はね、あのラルスの息子なんだよ」
「ラルスの!? 全然、似てないよっ!!」
「まあ、彼の養子だからね。でも、この作戦に必要なだけの知識と技術は持っていると、私は思っているよ」
「ふーん…」
アーケスティアの、容赦ない値踏みの視線がユリウスの上に浴びせられる。遠慮なく浴びせられたユリウスは、居心地が悪い。
「最低…。センスなさそう」
「なっ!!」
アーケスティアの言葉に、怒りで言葉を失った。初対面で、自分を見ただけで何がわかるっていうんだ、たかが小娘のくせに!! それにセンスってなんだ。軍の制服にセンスもなにもないではないか。
「中佐、あの、私は、ここでのHMBA07-IA開発に携わるという辞令を受けてきたのですが。その、彼女の世話など、伺っておりません」
怒りをそのまま口にすることは出来なかったので、それとなく反論した。
「ばっかじゃないのー!?」
アーケスティアがチャチャを入れる。その口調は、腹立たしかったが、今は無視しておく。
「ユリウス君。君の意見もよくわかる。君は技術士官として、辞令を受けた。君のやりたいことは、HMBA07-IAの開発であって、彼女の世話ではないと」
「はい」
グランツの言葉に小さくうなずいた。
「だが、思い出してほしい。君は、HMBA07-IAに関する報告書を読んだだろう!?」
「はい」
「HMBA07-IAは、従来の機体とは違う。どういう機体だったか、君も知っているね!?」
「…はい。特殊な能力の持ち主のための機体だと。機体に搭載されたAIと、パイロットがシンクロすることでその能力を完全に引き出せるという…、そういう構想の特殊機体だと伺っております」
HMBA07-IA。イーオケアイア。
その機体は、以前より使われている量産型HMBA07-CV、通称キャバリーがベースとなっている。しかし、その設計思想、仕様は今までのものとは大きく違う。搭乗者が、必ず特殊な能力の保持者でなければ、その真価を発揮できないという、そういう機体だ。だが、それが、彼女の世話という話に、どうやったらつながるというのだろう。
「そうだ。その機体に搭乗するのがアーケスティアだ。この子は力がある。しかし、その能力を最大限に引き出すには、まだまだ研究が必要だ。今のところ、重要なのは、彼女の、メンタル、精神的なところが安定していることが大事だということが、研究成果として報告されている」
そこでだ、とグランツがこちらを向き直った。
「彼女のメンタル面において、君のサポートが必要だと私は思っている。どうかね、これも立派なHMBA07-IAの開発だ。引き受けてはくれないだろうか」
「でも、なぜ自分が!? そういうのは、その、女性のほうが…」
言いながら、辺りを見回す。集まっている研究員の中にも女性の姿はある。世話係なら、彼女たちにでも頼めばいいではないか。
「いや。こういうのは年の近い者同士の方がいい。そういう研究データもあるんだ」
年の問題を指摘されて、もう一度、研究員たちを見る。そこにいる女性たちは、自分よりずっと年上で、他にいる男性研究員の中でも、自分と似た年格好の者はいなさそうだった。
つまり、この話が回っていたのは、自分が一番年下、ペーペーの新米だからか。諦めに似た感情がよぎる。
「それに、彼女の世話をする場合、HMBAに対する知識も必要となってくる。だからこそ君を見込んだのだが、やってくれないだろうか」
グランツが頭を下げた。
「えっ、そんなっ、わかりました。私でよければ、喜んでお引き受けいたします」
慌てて応じる。グランツに頭を下げさせるなんて、とんでもないことだ。
「そうか、やってくれるかね。君ならできる。私はそう信じているんだ」
グランツが笑う。ユリウスも、それに応じるように、微笑み返す。こんなふうに頼まれたら、これ以上拒否はできない。彼の役に立ちたい。ついさっき、自分が思ったことではないか。なら、この案件を引き受けるしかない。
「っ最悪…」
間に挟まれるように立つアーケスティアが呟いた。この態度に、理想のため、グランツのためにがんばろう、役に立ちたいという気持ちが大きく揺さぶられる。
出来るのか!? 自分に。このとんでもない、手に負えないネコのような女の子の世話など。
不安を感じながら、もう一度彼女を見る。
グランツに寄り添ったまま、イーッ!! っと露骨に嫌な顔をされた。
前途多難な予感がした。
SF世界に、こんにちわ。
いもあん。です。
今年の春、とあるアニメにドハマリしまして。そのアニメのキャラ二人を、別のアニメに引っ越させたらどうなるか…という挑戦をして。せっかくいい文章が書けたと思ったのに、その別アニメ、二次創作禁止なんだもん。ぶう。(不満) で、仕方がないのでその二人を、さらにオリジナル設定ワールドに引っ越させたのが、この作品となります。(長い経緯だ)
二度も引っ越したせいか、二人の関係性すら、元アニメの原型を留めなくなっている。(似てはいるけど…) 状況も、変わってるんじゃないかな。
…ってことで二次創作じゃないです。
たとえ、読後に、「なんかどっかで見たことある設定だ」と感じても、それは宇宙だからですよ。そういうことにしておいてください(笑)
そんなこと言いだしたら、地球のためにどっかの惑星目指したら、「Y」ってアニメに似てくるし!? ナンチャラ帝国が、ホニャララ同盟と戦ったら、「G・E・D」って小説にそっくりになるし!? 宇宙人と指くっつけて空飛んだら、それこそ「E」って映画だし!?
ということで、開き直ってます。
こんな作者の、こんな作品ですが、感想などいただけると幸いです。