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蕨は当たり前だというように、ふんと声を出した。空羅は見るからに悲しそうな顔になっていた。
「蕨は連れてっちゃ駄目なの?」
悲しそうにこちらを見つめる空羅に雲神は困った顔をした。
「だって、蕨君は神様じゃないし…なんと言っても、君は死界から来た山犬だろう?」
それを聞いて峡夜は声が出なかった。死界は神界とは真逆の位置にある魔物や死神の住んでいる場所である。以前、空羅はずっと昔に蕨と出会ったと言っていたのだ。そこにいた犬を連れているということは、空羅が攫われていたのは死界である事を意味していた。
空羅は黙ったままだった。
「空羅……お前……」
「黙ってて…ごめんなさい…」
峡夜は空羅の事を知っているつもりだった。この百年ずっと一緒に過ごしていたのだ。攫われた時のことは無理には聞き出さなかった。それが空羅の為だと思っていたのだ。雲神にも何も言われていなかった。ただ無事にいきてやっていたとだけ。どこかの神様が面倒をみていたとばかり思っていた。自分が情けなかった。空羅のことを何も知らないで知った気になっていたのだから。
「ごめん、空羅は峡夜にその事を隠していたんだね。」
「うん、知ったら悲しむと思ってたから。」
「なんだよ、雲神さんも知ってたのかよ…」
「私は全ての報告を受けないといけないからね。こう見えても今は一番偉い神様なんだよ。」
「それは知ってましたけど…でも前に無事だったって…」
「無事に生きて帰ってきたじゃないか。」
「…………一人にさせてくれ。」
「峡夜……」
峡夜は簾を持ち上げて、外に行ってしまった。
残された二人の空気は重かった。




