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「なんでここに…」
白い龍姿の峡夜はぼやいた。
「こら、申請もしないでダメじゃないか。それに二人とも神界で生活するっていう話になったはずだったよね?言う事聞いてもらわないと困るよ。」
そういう雲神は笑っていなかった。逃げそうになる獲物を捕らえるような目つきで、独特の威圧感を放っている。逆らえない。峡夜はそう感じた。仕方なく人間の姿に戻った。
「雲神さんはこれでいいと思ってるのかよ。空羅の自由を奪って、閉じ込めておくなんて間違ってると思わないのか?」
雲神は少し不思議そうな顔をして細く笑った。それを不気味だと感じている自分がいた。長年一緒に過ごしていた人にこんな感情を抱くなんて…心が締め付けられるような思いだった。
「いや、俺は正しいよ。この三世界をこの神界を守らなくてはいけないんだ。峡夜こそ空羅の力を分かっていないんじゃないか?外に出してはいけない力なんだよ。世界が壊れる事だけはあってはならない。」
雲神は神界のトップなのだ。何よりも誰よりも世界の平和を祈っている。それは分かっていたが、自分が大切な人を守りたい。これは峡夜の中で生まれた峡夜の意思だ。
それを感じ取ったのか、空羅も黙ってはいなかった。
「世界が平和になっても、僕の心は平和じゃない。心が豊かじゃない世界なんて俺は存在する意味が無いよ。」
雲神は顔を歪めた。
「そんなにここが嫌なのかい?欲しい物は大抵手に入るし、やりたい事が出来る。更に二人は神界では名声もある。ここは人間界とは比べ物にならないくらい幸せで恵まれた場所だ。これ以上なんて無いんだよ。」
空羅は黙って聞いていた。どんな人の話もちゃんと最後まで聞いて考えるこの姿勢は誰が見ても好印象を与える。空羅の綺麗な瞳が開かれる。
「幸せって決め付けないで。俺は俺のしたい事をする。それを決める権利は俺にある。」
その瞳に迷いなどなかった。空羅は自分のつけている銀色の指輪に手を掛けた。雲神が慌てたように急いで手を伸ばすが、一瞬間に合わなかった。
空羅はその指輪を外したのだった。




