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雲神はこの話を聞いて違和感は感じなかったが、蕨が本当の事を言っているかは分からなかった。何せ考える時間は百年あったのだから。ましてや死界から来た怪しい山犬なんぞそう簡単に信じられるはずもなかった。とは言っても、今の空羅に聞いてもきっと覚えていないだろう。その為、保留とする事にした。
「一度、死界に帰りなさい。」
雲神は冷たく言い放った。蕨は悲しそうな顔になり、
「俺がいないとアイツは暴走するかもしれない。それでもいいのか?」と言った。
「そしたら、私が止める。それだけだ。一度お前達を離すべきだと判断した。空羅の力もやっと安定してきている。分かったら今日中に死界に行け。」
雲神の顔は険しかった。神界を脅かす存在は排除しなければならない。もう同じ失敗は出来ないのだ。神界を守る存在としての言葉だった。それを蕨は分かっていた。
「分かりました。空羅をお願いします。でも俺は必ずアイツとまた会いますよ。」
「空羅も峡夜も私が守る。分かったらさっさと出ていけ。」
蕨は静かに頷いて、走り去って行った。
蕨が見えなくなってから雲神は大きく溜息をついた。
「空羅に泣かれるかな。」
雲神も、蕨が空羅にとって大切な存在であることは知っていた。でも、今の空羅は蕨とヒュノスのことを知らない。いつか殺してくれと頼まれているのかもしれない。力が安定したら空羅の指輪を取れと言われているのかもしれない。そんな状態で、私の目が届かない人間界に行ってしまったら何が起こるか分からないのだ。
とりあえず、峡夜と空羅は神界で様子を見て、蕨だけ遠くの死界に追いやる。これが一番だ。
この時はそう思っていたのだ------




