フードを被った現代人
僕の頭上を、電気で動く長方形の物体が、ガタンゴトンと大きな音を立てて通り過ぎた。
薄暗く、天井が低い。そして、道の端っこには黒く、何本も足があるような生き物がカサカサと動いている。
僕は、パーカーのフードを頭に被り、両手をポケットに手を突っ込んで、そのまま高架下のトンネルを歩いた。
高架下のトンネルを抜けると、そこには沢山の人が歩いている。僕は、一度立ち止まってその人の流れを観察した。ある人は、腕を振って元気に歩き、ある人は恋人と手を繋いで歩き、ある人は、俯いて歩いていた。
僕は、再び歩き始め、その人たちの流れを横切るようにして歩き始めた。
横切っている途中、男が僕にぶつかった。
「おい、痛えじゃねぇか! 」
男は、激昂し、僕の胸ぐらを掴んだ。
僕は、じっと彼の目を見た。
男は、最初のうちはイラついていたが、僕の目を暫く見ていると、怒りが治ったのか、胸ぐらを掴んでいた手を離して、その手をポケットにしまった。
「き、気をつけろよ」
男は、捨て台詞を吐いて、人の波に消えていった。僕は、暫くその場に呆然と立っていたが、人の波に乗っている人たちからの冷たい視線を感じたので、また再び歩き始めた。
人の波を抜けると、今度は目の前に大きな道路が現れた。
右から左に、左から右に車が流れていた。反対側に渡りたいと思った僕は、左右を見回して横断歩道を探した。
不思議なことに、横断歩道が見つからなかった。ここの人たちは、どうやって反対側に渡るのだろうか。反対側に人がいないわけではない。人は歩いている。お店だってたくさんある。
すると、僕のとなりから、反対側に向かって歩き始めた女が現れた。
僕は、驚いたが、僕の驚きなど見向きもせず、女は道路の反対側に向かって歩き始めた。
車は、相変わらずビュンビュンと通り過ぎている。僕は、きっと女は渡りきれないだろうと思った。
しかし、驚いたことに女が歩いている目の前を車が通りすぎるものの、女に車が当たる気配はない。まるで、車が女を避けているようである。
しばらくして、女は反対側についた。そして、何もなかったかのように反対側の道を歩き始めた。
僕は、開いた口が暫く塞がらなかった。右手を使って、口を塞いだ。
そして、もう一度左右を見回した。すると、驚いたことに横断歩道が見つかった。しかし、少し遠かった。さきほどの女のように渡るのも良いと思ったが、僕にはリスクが高いと思ったため、遠回りをして横断歩道まであることにした。
ポケットからイヤホンを取り出し、両耳にはめて、音楽プレイヤーの再生ボタンを押した。
両耳が、音楽で満たされた。僕は、気分が高まって、遠い道も気分良く歩けると思った。
少し、大きな音がしたと思ったが、僕は気にせずそのまま歩いた。僕の目の前にいる人たちは、僕の後ろ側で起こっている光景に目を奪われていた。
横断歩道の前にたどり着き、信号が青になるのを待った。
信号が青になり、渡ろうとすると、サイレンをけたたましく鳴らして、救急車が目の前を通った。イヤホン越しにも、その音は大きなものだった。
僕は、一瞬立ち止まった。救急車が通りすぎると僕は、ふたたび歩き始めた。
反対側に渡り暫く歩いていると、僕は肩を叩かれた。
「ちょっといいかな」
後ろを振り向くと、二人の警察官が立っていた。
僕は一瞬後ずさりをしたが、そのまま僕は逮捕された。警察官の人たちは、本部に「逮捕した」 との連絡をし、その後、僕はパトカーに乗せられた。