な(しくずし)な(かんけい)
ホテルから家に帰ると、スマホが振動して、画面を見るととびおからの着信だった。
「やっほー!あいつかっこよかっただろー!!!」
とびおの口調は、テレビで見る人気アイドル「PlutoのメンバーG」としてのもので、背後のざわめきと人の声から仕事先からわざわざ電話を掛けてきたことが分かった。
「貴方たちのR18なお仕事を、健全な青少年の私に見せないでもらえる?」
私の言葉は自然と硬くなる。
このタイミングの良さだと、楓の気だるげなお仕事の後に私に会うしかないスケジュールと分かっていて、楓に気づかれるように動いたのかと邪推してしまう。
「なーんだ。やっぱ見慣れてるよね。彩はるかの娘なら。」
あえて母の名前を出してくるところに煽りを感じたが、いちいち乗っていては漫画家なんてとてもやっていけない。掲示板やSNSでレスバしない自分本当に偉いといつも自画自賛しているぐらいだ。
「誤解してるとこ悪いけど、母は娘の私の前ではそんな様子出さないようにしてたわよ」
母は、性欲を隠せないあなた達とは違うから。
私の煽りも、
「いやぁーヒップホップの世界だと誉め言葉だよ。それ。」
となぜか喜ばれてしまい、煽りがいがない。第一貴方たちはアイドルだろうという話だ。
「それで、用件は。」
冷たく返す私に、とびおは軽いことのように提案してきた。
「かーくんと付き合ってよ。んで、俺とも。」
私は無言で通話を切る。テレビの人外キャラを、プライベートまで引きずるようになったのかとあきれていると、ラインのメッセージが何件か送られてきた。
「いいじゃんいいじゃんイケメンの彼氏が二人だよ!!」
「ていうのもないわけじゃないけど。かーくんのように俺のことメンバーが探ってくるからさあ。」
「俺に脅されてるって名目でかーくんに近づいて、それ見たら他メンバーも魔法少女も安心して君に近づく。んでその情報を俺に流してくれればおけ。」
とびおの提案は、交際ではなく二重スパイでしかない。なにがしたいのか分からない私へのメッセージはまだ続く。
「君も今日見ただろうけど、魔法少女達はガードが堅い。自分たちと彼氏しか信用していないから、校内で友人関係としてつながるのは時間がかかる。」
「時間をかけられれば、それで良かったんだけど、緊急事態で早くケリをつけたいからさ。」
とびおのメッセージは含みを持たせたもので、私は意味が分からないと素直に送る。
「君も見たでしょ。あの子達の傷。このままだと戦闘じゃなくて、彼氏に殺されるよ?」
彼のメッセージに、私の背筋は凍った。
しかし、彼氏に殺されるのはだめで、私が殺すのが良いなら、やっぱ私を殺人の手先にしてるだけではないかと思い直す。なんだかイライラしてきて、いっそブロックして聞かなかったことにしようとボタンを出したとき、一つのメッセージが飛び込んできて、私の体は凍った。
「もし君が殺してくれれば、赤崎さんだっけ?その人の今の奥さん寝取ってあげるよ。」
この悪魔のような男は、いったいどこまで知っているのだろうか。