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ろ(っ)くじゃありません

私にいきなりメッセージを送った謎の人物は、とびおのように気取ったヒントも出さず、ただ待ち合わせの場所と時間を送ってきた。


もし私が行かなければ、その人はずっとそこにいるのだろうか。そう思ったら、なんとしても行かないと行けない気がするので、相当なやり手の予感がして、今度の作品の登場人物のモデルにでもしようかなと、放課後、スケッチブックとpadだけ鞄に詰め込み、レンの誘いも今日は断って、学校を出る。


桜子を含む3人には、あれから校内で遭遇できず、まあチャンスはいくらでもあると気を取り直して、待ち合わせ場所に向かう。


一度は名前を聞いたことが皆あるだろう高級ホテルの、人気のない喫茶店で、同世代のいない中、特に緊張もせずに座れたのは、出版社のパーティーや母の知り合いの芸能関係のパーティーで何回か来たことがあったからだろう。



コーヒーのメニューが無駄に専門用語的で、初心者殺しに見えるが、アイスコーヒーの一番大きいサイズと言っておけば、店員の内心は知らないが、望みのものが出てくるので、無知なガキを前面に出して、今回も注文して、相手を待つ。



padを出して、クラウドに保存したデータを呼び出し、仕事の再開をすべく準備をしていると、人のいない喫茶店だった為か、近づく気配がすぐ分かり、顔を上げる。


Plutoメンバーにして、天才作曲家でラッパーと呼ばれる、チャーリーこと、本名「張湖 楓(はりこ かえで)



困惑気な表情で、店内を見渡し、私を見つけても、どうすればいいかわからないとでも言いたげに見つめてきた一人の男。

年は私達に近いだろうか、しかし気だるげな雰囲気が妙に色気があり、とびおほどの美形ではないが、確かに目を引く存在だ。


きっと私を呼び出した人間だと目星をつけて、私が目線を合わせると、一瞬躊躇した後、近づいてきて反対側の席に座った。



「遅刻してごめん。」


同じく注文をして、アイスコーヒーが運ばれてきた後、スティックシュガーを何本か封を切りながら、彼はこちらをちらりと見て、そう言った。



私としては、待ち合わせに遅刻したことも気づいていなかったので、何も気にすることはないので、ひらひらと手を振って、目線をpadに戻し、描画ソフトを起動して、目の前の彼のスケッチを無許可で始める。




「俺が言うのもあれだけど、よく来たね。」



何も言わない私に、困惑しながらも彼は話し出す。



「顔を見れば分かる。とびおの仲間よね。」


私の言葉に、彼は苦笑する。


「変装してるつもりなんだけどな。」


確かに見目は昨今流行りの量産型男子大学生に見えるが、細い体や病的なまでに白い肌、無駄のない服装。

彼が意識しているかは不明だが、全ての容姿と行動が、女の心を掴んで離さない、そんな印象を受ける。



「よかったの?相手の人と別れて。」



私が、指摘するか迷ったが、しかし気になりすぎるので、表面に出さないように、彼の首に残る鬱血跡をそれとなく指さすと、彼は今初めて気が付いたのか、苦々しい表情を隠さず、鞄からストールを出して首に巻いた。用意がいいということは、慣れきっている行動なのだろう。


「高校生の女の子に見せるものじゃないな。」

悪い。


また謝る彼に、私はどう返したらいいか分からず、窓の外を見る。


夕日が差し込むホテルの庭は、外国人観光客がこぞって写真撮影しようとしている平和な光景だ。


そうやって現実逃避していた私だが、彼が一向に話し出さない為、なんだか気まずくなって、早く帰りたいので話始めることにする。





「貴方たちの個人情報管理が心配になるわ。」

仮にもトップ人気のアイドルなのに。


どうしてこう、自分は嫌味じみたことしか言えないのか、自己嫌悪に陥りそうになりながらも、言葉を紡ぐ。



「今回は特例だよ。彩先生の娘さんを巻き込むわけにはいかない。」



彼の口から母の名前が出たことで、私の意識は一気に覚醒し、目の前の男をまっすぐ見る。



「君とは結局会わなかったけれど、ラッパーを取材したいて話が来た時に知り合って、結構可愛がってもらってたんだ。」

もちろん沢山いる中の一人で、肉体関係もなかったから、そこは安心してくれ。無理矢理酒も飲まされてはいない。



そう言って、彼が出す料理店は、確かに母のお気に入りのお店で、たまに遊んでいた相手が、私の年に近い男だったことを今更知り、なんだかショックを受ける。



「単刀直入に言う。東大寺さんとはもう会うな。」

彩先生の件は、俺も動いてるから、それを教えることは約束する。



彼の言葉は、予想通りだったが、それを受け入れるわけにはいかない。



「楓は知ってる?とびおから教えられた魔法少女の子達の体が傷だらけなの。」


私の言葉に、楓は思い当たる所があるのか固まって、それが更に私の確信を裏付けた。



「あの子たちの傷。戦闘だけじゃないのね。やっぱり。」



楓が何も答えず視線を逸らしたことで、私は理解した。



私を巻き込みたくないのは建前で、とびおと彼は隠そうとしているのだ。



P()l()u()t()o()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事実を。


とびおに指定されたのは、魔法少女の殺害で、メンバーのことはまだ何も言われていない。

つまり、全員に復讐するという提案そのものがフェイクで、自分の邪魔な存在を殺せそうな第三者を探しているだけなのだろう。



呆れかえって帰り支度をして立ち上がる私を、楓は制して言葉を紡ぐ、



「確かにそう思われてもおかしくない。東大寺さんの考えもそうかもしれない。それを俺は否定できない。でも俺は、君には危険な目に合ってほしくないと本気で思っている!」


楓の目は真剣だが、私は振り払い、こう言い放つ、



「じゃあ、私とメンバー、貴方はどっちの味方?」



彼は思考を悩ませると、小さく、こう言った。



「俺は、メンバーも、君も、みんな幸せになるべきだと、思っている。」

例え、どんなに歪んでいても、汚い手だとしても。





彼の苦し気な表情に、私は気おされて、立ち止まってしまう。



立ち去るまで書いていた、padの中の彼のスケッチが陳腐になるくらい、その表情は苦悩と悲しみで満ちていて、私の生まれて初めて見るその顔に、なぜだか、とても、強く惹かれた。















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