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一時間目はもちろん始まっていたが、後ろから入って音をたてずに座れば、教師も私を一瞥するのみで、そのまま授業に戻った。


そもそもが、私の通う学校は、近年の少子化対策で多種多様な生徒を受け入れるようになった結果、スポーツ選手や芸能人、外国籍を持つ帰国子女や外国人、はてまて普通の学校になじめないドロップしかけの生徒まで受け入れた結果、皆が我が道を行き、他人に関心のない教室が出来上がった。


その為、体育祭や文化祭なんかはぶっちゃけ地獄で、部活や委員会をやっていない生徒は寄り付かない。


かという私も、一応美術の特待枠で入学していて、何回かコンクールで賞を取っていることで、出席日数や授業態度を多目に見てもらっている。卒業後は美大か海外コンクールが期待されているエリート様らしい。自覚はないけれど。



まあ、私が周囲から腫物扱いされているのは、一年前に親が自然災害による事故で死んでいることも大きい。



あの日、生まれて初めての古都に浮かれて、母との待ち合わせ場所に向かった私の記憶は、今思い出そうとしても、酷いノイズがかかる。


他の遺体に囲まれて、私の母親も並べられていた光景が、直後の記憶で、私はどこか冷静な気持ちで、瓦礫が突き刺さり、絶命する母親の身元判断をした。



元々父親もおらず、親戚は絶縁で、遺産目当ての親戚やら母の昔の男やらが接近してきたが、懇意の弁護士が身元保証人になってくれて、取引のある出版社の編集や、母の手伝いをしてくれていたアシスタントさんたちが色々してくれたおかげで、私は今も、母を失う前と同じ生活ができている。



そんなことを考えていると、授業がいつの間にか終わっていたのか、教師が私の席に近づき、遅刻の申請はするよう進言だけすると、教室から出て行った。



プリントは入室したときに、机の上に乱雑に置かれていたので、取りに行く必要もなさそうだ。



「今日は帰りどっか行けそう?」


机の下から声がして、前を向くと、モデル級の美少女が私を下から見て、微笑む。


「うん。てか、うちくればいいじゃん。レン。」


私が、彼女。この学校、いや、世界でただ一人の親友、レンに笑いかけると、いつも通りにすげなく断られた。



「私を放り出して仕事入るからきらーい。」



彼女曰く、我が家にいると、私が前触れもなく漫画を描きだすのが気にくわないようで、むやみに秘密を知られないために仕事道具を出せない場所にしか一緒に行きたがらない。


とっくに二時間目の時間で、教師の視線が痛いので、ひらひらと手を振って、お互い席に戻る。


彼女との約束は、もう一つの待ち合わせには十分間に合うだろう。


私はスマホを取り出して、一般女子高生にしか見えないツイッターアカウントを起動して、DMのページに飛ぶ。


数日前から送られてくる一つのメッセージ、いたずらかと思うそれだが、なぜか私の心を離さない。





「彩はるかは事故死じゃない。殺した人間は君の近くにいる。」




そして送られてくる、数件の画像、どこかのテレビ局のスタジオ、飼い犬らしきポメラニアン、太陽、そして、ひまわりの花が描かれた世界で最も有名な絵画。そして、

今朝送られたloveのシンボルマークオブジェと映り込む時刻。



私を試すかのような断片たちは、一つの道しるべを確かに作り、あとは、私自身がその道を歩き出すかそれとも無視して今まで通りの道をまた歩いて行くか。


全ての選択肢は私に委ねられている。


私を恨む人間のドッキリでも、同業者のいたずらでも、この際なんでもよかった。



あの古都で私に焼き付いた、殺される母の映像。この一年ずっと、色々な精神科医やカウンセラーすら消せなかったその幻覚を、私から燃やし尽くしてくれるなら、例え悪魔の手だったとしても、私は握り締めて離さないと、それくらい私は追い詰められていた。




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