(あーる)18
「昨日彼氏ができてキスして嫉妬したら他の女の連絡先入ったスマホを車ですりつぶした。」
「お・・・おぅ。」
珍しく私から話したのだが、レンはドン引きした表情で何とも言えない返事をした。
ちなみに今は翌日。あれから寝れるわけなどなく、入浴して、ついでに仕事を片付けて、そういえばそろそろコンクールに何か出さないと学校がうるさいかと、適当な油絵に取り掛かったところで朝日がさしてきたので、キャンバスを持って登校してきた。
美術教師は、久しぶりに目の前に現れた私に酷く感動してくれ、美術室の使用許可をすぐ出してくれた。
正直に言う、これが私の狙いだった。
クラスメイトが私を呼び、訪ねて来た人間の顔を見る。
風谷尚美と桃井明日奈。2人は口元に微笑みを浮かべているが、目の奥に光はなく、こちらへの敵意を隠そうとしない。
「昨日はお見苦しいところを申し訳ありませんでした。お詫びがしたいのですが・・・。」
従順な後輩を装った言葉を紡ぐ尚美を手で制する。
「放課後、下校時間後に美術室に来て。もちろん、香山さんもいるよね。」
私の言葉に、尚美は引きつり無言のままだったが、明日奈が引き継ぐように頷いた。
そのまま、予鈴が鳴って、2人は何か言いたげな様子を隠さずに、しぶしぶ教室に帰って行った。
「なーにー?彼氏と上手く行ってないから後輩イジメ??」
席に着くと、にやにやと笑いながら近づいてきたレンだったが、私は無視して準備を続ける。
「いじめどころか、私は素晴らしい先輩になる予定だよ。」
分かってるくせに。
私がそう言って視線を上げると、レンは苦笑した。
「でもぜったい恨まれるよ。」
レンの言葉に、私も無言で苦笑するしかない。
確かに私のやろうとしていることは復讐と呼べばかっこよく見えるかもしれないが、要はただの八つ当たりみたいなものでしかない。
ただ、本人たちの口から言葉を聞ける機会はそうそうないだろう。
放課後のことを考えて、まあいつも真面目に聞いたことなんてない授業を適当にこなし、体育をエクササイズ代わりにして、いつも通り過ごしていたら、すぐに放課後はやってきた。
自分の席でPadを取り出し、原稿データを呼び出して仕上げをする。
完成したものを、赤崎宛に送信した後、SNSを確認すると、DMに画像が送りつけられていた。
一つは楓で、最新式スマートフォンが2台写されている。確かPlutoがCMを担当していた機種だ。
『俺たち2人だけの連絡用にしよう。』
なんて、メッセージも送られてきていたが、
「仕事用の連絡先入れて。後、事務所の人にはちゃんと教えて。」
と、最低限のことはして欲しいと、無粋なメッセージしか送れなかったが、ちょっと、心がときめいたのは、自分が末期なのだろうか。
もう一つのメッセージは鳶緒からで、数字の羅列と、線の入り組んだ画像。
私はため息をついて、図書館に向かう。
狙い通り、わが校の近隣含めた空撮地図が大きく飾られていたので、スマホで撮影して、帰りたがる図書委員の子の視線を流しながら、数字と照らし合わせて見る。
思った通り、彼の数字と合致する場所は、旧校舎。
以前PlutoがMV撮影に利用し、そして当校生徒によってケガをさせられた場所。
人気の少なくなった道をゆっくり歩き、旧校舎にたどり着く。
まだ女学校時代だったときに利用されていた礼拝堂。祀られる聖母の視線の先の長椅子の下を覗き込むと、場にそぐわぬブランドの紙袋が、違和感丸出しで置かれていた。
私はためらわず、紙袋を引っ張り出し、中身を見る。
三本の出刃包丁と、そして、厳重な包みの中には、黒光りする実銃。
彼は、一般的女子高生は弾の入れ方も知っていると思っているのだろうか。
それは楽器ケースに暗殺武器を隠す少女達だけだと、自分のなかでぐちぐちと考えながら、しかし、銃弾の込め方は知っていたので。難なく装填して、安全装置をしっかりかけて、また紙袋に戻す。
礼拝堂の外に出ると、どこかから見ているかのように、スマホが振動して、鳶緒からのメッセージが着信した。
『おめでとう。これで君は好きな人とハッピーエンドだ。』
私が逃げることはないと分かっているかのような、そのメッセージ。彼は本物の悪魔なのだろう。
夕焼けがグロテスクなほど赤い中、私はようやく美術室の前に立った。
深呼吸して、ドアを開ける。
そこには、窓辺の風に揺られながら、校庭を眺める香山桜子の姿があった。
ジャンパースカートが風でゆらぎ、見えるふくらはぎや膝は、欝血後や深く切り裂かれた。まるで一度もぎ取られた場所から無理矢理再生しているように、ぼこぼこした肉の塊が、生々しく見えた。
桜子がこちらを見て、微笑む。
私も、ゆっくりと微笑み、扉を後ろ手で閉める。
扉が閉められた瞬間、誰もいない校舎に、銃声が響いた。




