13(日でもないしきんようびでもないひ)
私が、はああ、と深いため息をついて、背もたれに深く寄り掛かると、やりたいのはこっちだとでも言いたげに楓が私を見る。
「それで鳶緒さんはお怒りってこと?でもあの人女癖の悪さで有名じゃない?」
そうだ、グループ1のプレイボーイで、週刊誌に載るのはもう日常、三流雑誌や根の刃の無い噂なら、堕胎させた経験も何回もあるはず。そんな彼が、自分以外のメンバーに怒れる立場なのだろうか。
私の呆れかえった声色に、楓も同乗する。
「あー。その話は長くなるんだけど。」
そう言って楓が話始めたのは、鳶緒と譲の因縁だ。
彼らは端麗な容姿の持ち主で、しかしダンスや歌の実力は鳶緒のほうが圧倒的であり、人気も彼の勝ちであることは、デビューも今も変わらない。
しかし、彼の端麗な容姿は、全て作り物なのだ。
ネットで検索すれば、彼の卒業アルバムや学校行事の写真を見つけることは容易だ。
その画像に映っている、彼と同じ名を持つ「東大寺 鳶緒」は、今とは似ても似つかぬ容姿なのだ。
骨格と脂肪により大きすぎる顔と、潰れた鼻、口元は開いてだらしなく、目は小さい。それに分厚い眼鏡を掛けているパンパンに太った少年。それがまぎれもない「PlutoのG」の子供時代のありのままの姿だ。
この件は有名な話だが、何故かテレビでは語られず、メンバーの子供時代の写真が出てくる企画でも不自然に彼だけそれがなく、ファンも悟らなければいけないことを強要されている。
しかし、整形というハンデを抱えて尚、彼の表現力には人を魅了するものがあり、彼の愛が欲しいと身を滅ぼすまでに執着する女は絶えない。
そんな彼の、死ぬほど欲しかったもの。生まれつきの美しい容姿を持っているのが、香山譲、「Plutoのジョー」だ。
容姿でスカウトされた譲が、デビューメンバーに残るとは、鳶緒を含め誰も思っていなかったそうだ。しかし、彼は黙々と練習をこなし、神童ハリーの指導を受け、他メンバーには劣るが、ステージに出れる結果を手に入れた。
鳶緒は内心恐怖した。デビュー後は、自身が道化を演じることで、譲の印象を薄くし、カットを減らそうと暗躍していた部分もあると聞いた時は、流石の私も、女子のいじめかよと女々しさに呆れかえった。
「でも、東大寺さんは譲さんのこと嫌いなわけじゃないし、むしろ好きなはずだ。」
なぜか切なそうに、そう言った楓に、もしかして惚れてる?と冗談めかして聞いたら、ぶすっとした顔で私の頬をむにむにと触ってきた。
普通なら払いのける手を、なぜか私は受け入れて、されるがままになっていると、楓は話の続きを始めた。
変化が現れたのは、譲に魔法少女の洗脳が掛かり、結婚宣言したときから。
以前から、魔法少女から恋愛相手にされる洗脳をメンバー全員が受けた事があった為に、きっと譲の場合も魔法少女側がすぐ消えて、いつも通りになるはず、目の障害は無視してやっていくしかないが、そんな感じで軽く考えていたが、譲の相手の桜子は、歴戦の魔法少女で、その仲間も強かった。
そして、『桜子と出会ったことがきっかけ』で共同戦線が張られることとなり、いろいろあって『鳶緒がヤリ捨てたスタッフによる自爆に巻き込まれた桜子が生死をさまよった』ことで、2人の絆は強固なものとなり、そのとき行方不明になりかけた譲を、尚美と明日奈とともに探したことで、ハリーは2人と親密になって、そして2人とも自分のものにした。
鳶緒が計画していた引き離しは失敗し、2人と魔法少女の絆は強固となった上に、去年ハリーと譲が出演した私の母原作の漫画実写化映画の撮影中に起きた竜巻災害が、実は魔法少女と害獣による戦闘だった。
「その時、魔法少女達とハリーと譲さんに何があったのかは、俺も知らない、2人もあいつらも話したがらないから。」
楓がごそごそと机を覗き、棒状のものを渡されたので、流石に制服着ているときに煙草は吸えないと断ろうとしたが、よく見ると単なる棒キャンディーだった。
有難く受け取り、口に含む。
彼はきっと見抜いたのだろう、竜巻災害、私の母が死んだときの話に入った時に、私の気分が悪くなったことを、そういうことが分かるから、この人を求める女は絶えないのだなあと、どこか冷めた気持ちで彼を見る。
「ただ、あの日から2人は変わった。譲さんは一層俺たちを見なくなって仕事以外の会話は消えた。ハリーの前は例外だけど。ハリーはハリーで、メンバーが仲良しこよししていないと音もなく泣き出す。魔法少女2人にはもっと酷いな、呼び出したときにすぐ返事がないと何かあったって発狂するし。前から引きこもりオタク趣味なとこはあったけど、最近はヒス起こす以外はよくわかんないソシャゲやっててブツブツ独り言を言ってる。」
「対応しようにも、仕事は2人とも完璧だし、何があったか誰も話さないから、俺たちにはどうしようもない。東大寺さんは、ある意味その状況を変えようとしているのかもな。やり方が極端すぎるけど。まあ、お前に人殺しは俺はさせる気はないよ。」
楓は最後に、私にそう言って、話を締めくくった。
楓の言葉は、竜巻災害・・・・いや害獣戦闘によって母が死んだという答え合わせだ。
つまり、害獣が犯人で、その害獣は魔法少女が消し去った。だからこれ以上関わるなという忠告なのだ。回りくどすぎるけど。
「でも、私は見たのよ。母が刺されているところ。」
そうだ、確かに私は見たのだ、母が害獣ではなく男と女、人に殺される所を。
だから、楓の言うことを聞くわけにはいかない。鳶緒に屈するつもりはないけれど。
私は、私の納得する方法で、真実を知りたいだけだ。
顔を上げると、楓はいつも通り気だるげな表情で、、口に咥えたキャンディーの棒を指で弾いていた。
「俺はいつも、あんたたちを止められないんだな。」
でも、もう見てるだけのことは絶対しない。
楓は小さくそう呟いて椅子を私に近づけた。咥えていたキャンディーを思い切り噛み砕き、棒を捨てて口の中の飴を飲み込む。
私の方を見て、近づいてくる、白くきれいな肌と表情の読めない顔面。
そして、自然な所作で私の顎指で上げると、そのまま自分の唇を合わせた。
「さっき言ったの本当だから。お前は今日から、俺の女だ。」
だから、勝手なことはさせない。
私からゆっくり離れて、顔を背けると、また新しい棒キャンディーの包み紙をはがし、咥えた楓の耳は赤く、白い肌に一層際立っている。
かと言う私は、何が起きたのかを、口の中にいつの間にかあった、自分の舐めていた味とは違うキャンディーの味を知覚したときに初めて実感が押し寄せて。
思わず口を覆って、無駄に座り心地の良い椅子に思いきり背中を沈めることしかできなかった。




