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ない(ものねだりもいい)ん(じゃない)

コーヒーチェーン店のカップから伸びるストローを、力なく加えて味の分からないフラペチーノを流し込んでいた私を見て、楓は無言で私の手を取ると、とびおから付けられた鎖を、いとも簡単に外してしまった。



「俺と会う時に、他の男の物をつけられると不快だから。」


苦虫をかみつぶしたような楓に手を引かれ、デパートをぐるりと回った後は、シンプルだがお値段の張りそうな大き目TシャツとGパンのなんともカジュアルな服装に私は着替えさせられて、少しだけ満足げに微笑む彼の前で、回らないお寿司を食べている状況である。


しかし、あのブレスレットがとびおからの贈り物だとよくわかったと疑問に思ったが、



「あのブランドで全身固めるのは俺の周りだと東大寺さんしかいないから。」

顔が良いから全部似合っているの本当ずるいよなあ。


そう言いながら、好きな物を頼んでと慣れた様子で寿司を食べる彼は、私とそう年が変わらないはずだがこの出費は良いのだろうかと首を傾げてみたが、



「今のPlutoの曲はほぼ俺が作ってるし、それ以外の依頼もあるから。」

グループ内だと俺が一番収入は手堅いぞ、譲さんや東大寺さんの俳優業の収入は知らないけど。



と、勝手に説明してくれた。

成程、著作権がしっかりしていれば、お金には困らないのは、生前母が権利関係で強く主張したおかげで、今もバイトもせずに私立に通えていて大学学費も問題ない自分と照らし合わせて納得である。

まあ、母はこういう散財を家ではしない人だったのだが、娘よりボーイフレンドたちにお金を使っていたのは仕方ない。



「ここは、彩先生が教えてくれたお店だったけど、まさか君が来たことないとは思ってなかった。」



苦笑しながら、懐かし気に話す楓は、本当に母の事が好きだったのだろう。

Plutoのチャーリーといえば、ガチ恋製造機の異名を持ち、ファンも同業者も彼を狙って戦争が起きるほどのモテ男と聞いていたが、一人に固執する気配がなかったのは、もしかして母に本気だったのか。



そこまで考えて、なぜかちくりと胸が痛んだのを、あえて無視することにして、彼と向き合う。



「東大寺さんがああなってしまったのは、俺たちにも責任があるから。」

というか、俺たちが魔法少女を見ないふりしていたら、いつのまにかここまで浸食されていたて話だな。




彼の口から語られるのは、恋の相手を見なかった男たちと、初めて恋に執着して崩壊しかけた組織、なんとか壊れるのは防げたが、変わってしまったメンバーたち。




「俺たちって、まったく仲間意識が無いんだよ。昔も、きっと未来も。」



楓の言葉は、週刊誌の記者が聞いていたら、飛びつくレベルのスクープだ。

仲良しBL営業を売りにしていた時期からは脱却して、ラブシーン有の俳優業や、ミュージシャンとしてアーティスト性が高まってきているPlutoだが、それは彼らのアイドル性による人気が前提であることは今も大きく、スキャンダルがご法度なのは今も変わらないはずだ。



「それでもいいじゃん?みんな仲良しこよしなほうが不気味じゃないか?て俺は思うんだけれど、ハリーがヒス起こした時があって、そこから前よりもみんな気を使うようになって。」

結果、無理に合わせようとする、生ぬるく苦しい空間が生まれたわけだ。




楓はそう言って、タコのお寿司を口に放り込んだ。




楓がその後話してくれた内容によると、今も寮で共同生活設定は続いているみたいだが、以前は滅多に帰らないメンバーも多かったのに、今はハリーのご機嫌伺いのように皆帰宅してくるらしい。

確かに、最近ますます憂いを帯びた神童センターことハリーは、母の原作映画での俳優デビューもなかなかの評判で、ハリウッドのオファーもあるとかないとか囁かれている。ビジュアルダンス歌演技全て平均以上の彼にできないことははたしてあるのだろうか。



「なんつーか。神童様ありきのグループに前よりなってる気がするんだよな。」

以前より、みんな自分個人の仕事もあるのに、率先して機嫌を窺っている。




そうやって、ぐちぐちと話す楓は、確かハリーと一番年が近く仲も良かったはずだ。その彼が問題視するのだから、よほどのことなのか。

しかし、赤崎の話だが、仕事で会ったハリーにおかしい様子はなかったと言っていたが、と問いかけると、



「当たり前だろ。仕事はしっかりやる男だよあいつ。それ以外の話。」



その後もぐちぐちと話が続きそうなので、私は食事を終えると、服代を含めた現金を机の上に置いた。

彼の驚愕の表情が面白くて、笑いそうになる。



「私も一応稼ぎのある人間だから。」


そう言って立ち去ろうとしたが、引き留められた。


「いや、俺のプライドへし折らないでくれよ。」


急に情けなくなった彼に、なんだか可哀そうになって座り直す。



「愚痴聞いて欲しいなら、最初からそう言えばいいのに。」

お詫びを先制するように、着飾らせてプレゼントをくれなくても、おいしい物を出されなくても、ファーストフード店の片隅でも私は良いのに、勘違いした楓になんだかむかついたのかもしれない。

母と私の感覚を、一緒にされたことにもだろうけれど。



そんなことを考えていたら、彼は静かに首を横に振った。



「あー・・・確かに愚痴言いたかったのもあるけど。何が伝えたかったかといえば、こんな感じで俺たちクズの集まりだから君には関わって欲しくなかったというか。東大寺さんのやったことにイラついたのもあったというかうん。」


言葉を切って、私を見る。



「参った。君といたかっただけなのに、余計な事ばっか言ってるな。」





そう言ってさわやかに笑った彼だが、私は動けず、ただ動かない頭をなんとか働かせて言葉を探す。



「その割には、君としか呼ばないわね。」



私の口から出た言葉も大概でいますぐ突っ伏して叫びたいくらいだ。




「悪かったよ。結花。」






いきなり呼び捨てかよ。と叫びたかったはずの口は、なんとも形容できない声を上げて、私は今度こそ本当に席に突っ伏したのであった。












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