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春色の・・・

02

僕は、小さい頃から、心が豊かな子だと言われて育ってきた。

はじめはそれが自分の長所なのだと思っていた。


だけれども、感受性豊かな僕は、感情が高まると自分の意にせぬ行動を起こしてしまい、その結果はことごとく、総じて、悪いものだった。


小学校高学年になるころには、感情をうまくコントロールできないことを自分の短所だと認識するようになった。そして、中学一年生のときに悲劇は起きてしまった。それは、僕が現在のような捻くれた性格になってしまった原因となる出来事である。


今思い出しても当時の自分をぶん殴ってやりたくなるのだが、とんでもないことに僕は、一目惚れした女の子に、その場で告白してしまったのだ。もちろん結果は撃沈。それだけで済めばまだよかった。


不幸なことに、その女子学生は学校一の不良先輩の彼女だったらしく、後日、僕は文字通りの痛い目にあった。不良グループに目をつけられた僕の中学生活は酷いものであった。


それ以来、僕は僕自身の感情を憎むようになり、これまで感情を押し殺すように生活してきたのだ。


トラブルに巻き込まれないように、平凡な生活を壊さないように。


わざわざ地元から離れたこの災高校さいこうこうへ入学し、1年間友達や彼女を作ることなく、なるべく静かに生活していたのもそのためである。


平凡な生活を守るために努力をしてきたつもりではあるが、芽生えてしまった感情を抑える術を、僕はまだ身につけていない。


それゆえ、これまで強い感情が芽生えないように細心の注意を払って生活してきたのだから。


それなのにっ!

不意打ち桃色おパンティ様なんて卑怯すぎるだろっ!!なんて日だっ!くっそぅ!!


僕に不幸をもたらすであろう桃色女子高生は、何かを見上げるようにして立ち止まったまま動かなかった。黒く長い髪が風になびいて、その可愛らしい横顔をチラチラと見せつけてくる。


彼女に魅了されてしまった僕は金縛りにあったかのようにその場から動くことができなくなっていた。


新入生だろうか、新しそうなツヤのある学生靴を履いている。程よく肉付いた脚線は黒のハイソックスで覆われ、白く滑らかそうな肌がスカートとハイソックスの間に見えている。成熟した腰回りはスカートを着ていてもその魅力的な形が容易に想像でき、しかも、その中身は春色のおパンティ様である。季節感を見事に取り入れた―――。


ドンッ


まじまじと女子高生を窃視している僕の視界の外から見知らぬ学生がぶつかってきたようだ。

結構強くぶつかってしまったのだろう、痛みはそれほど感じなかったが、装着したヘッドホンがズレ落ち、景色が二重になって見える。


「あ、す、すみません。大丈夫ですか?」


ぶつかってきた青年はモブキャラの僕から見ても、いかにもモブキャラというような小太りな冴えない男子学生だった。


「こちらこそすみません、僕の方は大丈夫です」と答えたものの、まだユラユラと視界が歪んでいる。


「怪我がなさそうでよかったです。それじゃあ。ほんと、すみませんでした。」

そう言うと低姿勢なモブ青年は校舎の方へいそいそと去っていった。


・・・あいつ、僕よりも人生の難易度高そうだな。

勝ち誇ったように、フッと鼻で笑う。


思わぬハプニングではあったが、これで桃色女子高生の呪縛からなんとか解放された。

モブ青年よ、僕の心が暴走してしまう前に止めてくれてありがとう。


去りゆくモブ青年へ向かって手を合わせると、急に頭がズキンと痛んだ。


――人を外見で判断するのは感心しないのぉ――


いてて、軽い脳震盪を起こしているようだ。


というか、今頭の中に老人の声が響いたような…。

これもぶつかったせいなのだろうか。


とにかく、これで僕はピーチイベント、いや、ピンチイベントを乗り切ることができたのだ。これ以上何か良くないことが起こる前にさっさと帰ってしまおう。



――時には――感情に流されるのも悪くないと思うがのぉ――それに――


いろんな意味でフワフワしている頭を押さえながら、再び帰路につこうと試みたけれど、やはり老人の声が響いて、頭がズキズキと痛む。


これって僕の心の声なのか?だとしたら絶対に耳を貸してはいけない声だ。この声はきっと僕を不幸にする。老人の声を振り払おうと強く目を閉じ、頭を左右に振った。しかし、老人の声は消えることなく僕の頭に響く。


――もう手遅れじゃよ――


その不快な言葉とほぼ同時に、僕はものすごい力で何かに引っ張られた。胸ぐらをつかまれているようである。驚いて目を開けると、十数センチメートルほどの距離に桃色女子高生の可愛らしい顔が現れた。


「張間君、お願い!協力してほしいの!」


驚くべきことに、僕よりも頭一つ分背の低いその女子高生は、華奢に見えるその腕の力だけで軽々と僕を持ち上げてしまっていた。

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