#13
翌日――。
ついに「なろう文庫編集部」として、はじめての編集会議が始まろうとしている。
その編集部の会議室には編集者達が緊張した表情を浮かべながら徐々に集まり始めていた。
栗林と早見がそこに入ってくると、すでに到着していた新垣がにこやかに手を振っている。
彼らが気づき、彼女の近くの空いている席に着くと、「栗林さん、早見さん、おはようございます」と挨拶をしてきた。
栗林達は「「お、おはようございます」」と挨拶を交わす。
「緊張しますね……」
「わたしもです。ところで、早見さんは大丈夫なんですか?」
「実は俺も緊張してるんっすよね……」
「益子編集長と同じ編集部だったのに?」
「そうなんっすよ……特に栗林さんなんっすけど……」
「ハイ?」
「益子編集長は心臓に悪いっしょう?」
「うっ……た、確かに心臓にはよろしくないですね……説明は分かりやすいですけど」
「何年か一緒にいる俺でも慣れない人っすからねー」
今は楽しく話している栗林、新垣、早見の3人ではあるが、これから始まる編集会議ではそれどころではない。
編集者にとっては同僚でありながら、最初に出版することができる5枠を取り合うライバル。
その枠を賭けて編集長へ自分達が選んだ4作品のアピールをしなければならないのだ。
「今日は頑張りましょう?」
「全員は無理ですが、その5枠に入れるといいですね!」
「そうっすね!」
編集者達は今まで準備にかけてきた時間をこの会議でお互いの作品についてぶつけ合う――。
*
次の瞬間、会議室の扉が開き、益子が入ってきた。
「おはよう!」
「「おはようございます!」」
彼らが一斉にパイプ椅子から立ち上がり、一斉に挨拶をする。
一方の彼は驚いた表情を浮かべ、「みんな揃ってどうした!?」と言いたくなるような緊張感が漂う会議室。
益子は全員の顔を見回し、編集者達の心情を探ろうとしていた。
彼が彼らの緊張を解そうとして「なんで緊張しているんだ?」と問いかける。
「もー……編集長、とぼけないでくださいよー」
「今日は編集会議の日ですよ……」
「緊張するのは当たり前です!」
「編集長は空気が読めないのですか?」
益子が思っていた反応よりも編集者達からの反応は厳しいものだった。
緊張を解すよりも逆にピリピリした雰囲気を作り出してしまったようだ。
「すまないすまない。みんなの緊張を解そうとしたのだが、逆効果になってしまったようで……」
「そうですよ」
「ありがた迷惑みたいな感じです!」
「それは本当に失礼した。申し訳ない!」
益子は彼らにペコペコと頭を下げながら謝る。
編集者達の中には少し苛立ちを覚える者や呆れたような表情を浮かべている者などがおり、彼の額から一筋の冷や汗が垂れていた。
「編集長、まずは汗を拭いてください……」
「栗林さん、ありがとう」
彼は栗林からハンカチを受け取り、額から垂れていた汗を拭き取る。
「変な茶番は終わりにして……これから編集会議を始める」
編集者達の戦いの火蓋が今、幕を開けようとしている――――。
2017/07/24 本投稿




