#12
栗林はそれはどのようなことをのかさっぱり分かっていないようだ。
益子は彼女にどのようにして説明しようか考えを眩ませている。
彼は腕を軽く組み、栗林達に向かってこう言葉を紡いだ。
「実は1人につき4作品というのは1年間で毎月約10作品刊行するとして……約120作品の作品をこの世に広めることができる計算なんだ」
「1年間で約120作品……」
「まぁ、同じ作品の続刊が出るかどうかは分からないけどね」
「そうですね。人気作になったら続刊や重版することもありますしね……」
「まずは10作品ではなく、5作品から始めたいと考えているんだ」
「なるほど」
「そうなんですね」
益子の話を聞いた彼女らは納得したかのように頷いている。
「まずはこのホワイトボードに書いてある120作品から5作品に絞る編集会議から始めようか? そうしたら、編集者経験があまりない栗林さんみたいな人も徐々に流れが掴めてくるから」
「……ハイ……」
栗林は少し不安そうに返事をした。
彼と同じ編集部から異動してきた早見は益子がやりそうなことをある程度は把握している(?)。
他の編集部からきた新垣は初心に帰って新たなやり方に少し期待しているようだった。
「それにしても、120作品中5作品は狭き門ですよね……」
「競争率が高そうですね」
「確かに言えまっすね」
「そりゃそうだよ。30人の編集者が少ない枠のために競う編集会議だもん」
「小説家になろう」に投稿されている作品の中から編集者達が選んだ作品は全部で約120作品。
そこから編集会議を経て、書籍化される作品は5作品なので、彼らによる自分で選んだ作品の「アピール合戦」をしないとならないのだ。
「編集会議って、怖いですね……」
「編集長、栗林さんが怖がってしまってるじゃないっすか」
「ごめんごめん。それは本当のことだから仕方がないのさ。創刊時は誰もが自分が選んだ作品を入れたがるからさ」
創刊時に作品を本として世に送り出す――。
それはどの編集者も同じ考えである。
文庫本編集者の初心者である栗林はもちろんのこと、編集者経験のある早見や新垣も――。
「そうですね……」
「わたしも少し不安になってきました」
「まぁ、1番最初に刊行させたとしても続編や重版が出ないと意味がないしね」
「それは重要ですね。ところで、編集会議はいつやるんですか?」
「一応は明日の朝から何日かに分けてやっていく予定だよ」
「「明日から!?」」
彼女らはもちろんのこと、デスクに向かって仕事をしている他の編集者達も栗林達の話を聞いていたらしく、パソコンのキーボード音が鳴り止み、話し声が聞こえてきた。
「おいおい、明日から編集会議って……」
「いくらなんでも急すぎるだろう……」
「僕、まだ自分で選んだ作品のアピールポイントをまとめてないから急いでやらなくちゃ!」
「わたしもやらなきゃです!」
突然の編集会議と告げられ、困惑する「なろう文庫編集部」。
今回の編集会議で創刊記念を飾る作品は一体どのような作品が選ばれるのだろうか。
2017/03/18 本投稿




