#11
あれから1週間が経ち、ホワイトボードには各編集者が選んだ個性豊かな作品が出揃っていた。
男性向けは異世界転生や転移系の作品はもちろんのこと、アクションものも何作品かあり、女性向けは婚約破棄や悪役令嬢転生などの作品が中心である。
他にも学園ものや新垣が選んだ詩集などの「小説家になろう」の全ジャンルがバランスよく選ばれていた。
栗林と新垣、早見の3人がそのボードを見て疑問を感じている。
「ところで、これだけ作品を並べて編集長は何を考えているんでしょう……?」
「さぁ……担当したい作品を被らないようにするためとかじゃないですかね……」
「「なるほど……」」
「そこから、編集会議をやって、今月はあれとそれと……って決めるんじゃないっすかね……」
編集者達は益子が一体全体どういう経緯で作品の羅列を行わせたのか分からない。
先ほど新垣が言ったように作品を被らないようにするためだと思われる。
「新垣さんと早見さんは鋭いね」
「「編集長!」」
彼女らが後ろを振り向くと益子が微笑みながら立っていた。
「ごめんごめん。驚かせてしまったね。なぜ、このように作品名を書いてもらったのは早見さんが言ったとおり、編集会議のためだよ」
「やっぱりな。そういえば「なろうブックス」の時も似たようなことをやってましたよね?」
「早見さんはよく覚えていたね」
「今まで編集長と一緒のところだったので、覚えてますって!」
「あはは……そうだったね」
「編集会議……?」
栗林は「編集会議」については全くはじめて聞いたため、どういう意味か分からず、首を傾げている。
「確か、栗林さんははじめて聞くんだっけ?」
「ハイ」
*
編集会議――
それはこの月にどの作品を出すかを決める重要な会議である。
その会議で出版される作品と発売日時が決められてしまうので、作者にその締め切り日を告げなければならないのだ。
はじめて書籍化が決定した作者は余裕をもって、本来の締め切り日より早めに締め切るのが、出版大手の「なろうブックス」の基本となりかけている。
ちなみに、益子と早見が勤務していた「なろうブックス」は1月につき5~6冊、年間60~72冊も刊行しており、新垣が勤務していた「なろうL文庫編集部」は「なろうブックス」より少なめの4~5冊、年間48~60冊くらいだったらしい。
「1年間にたくさん刊行していたんですね!」
「そうだよ。栗林さんがいたところは約1ヶ月遅れての刊行だから把握し辛かったと思うけど、たくさん刊行していたんだよ」
「そういえば、1人につき4作品選べというのは何か意味があるのですか?」
栗林が益子に問いかける。
彼は「実はあるんだよ」と彼女らに鋭い視線を向けた。
2017/03/18 本投稿




