#10
栗林や早見などの周りの編集者達は様々な作品を読んで気になった作品のタイトルをメモに取りながら拾い上げ作業をしている。
「むー……最後の1作品がなかなか見つからないんだよな……」
新垣はすでに男性向けや女性向けなど合わせて3作品決まっているが、最後の1作品がなかなか見つからず、作品一覧から上から順番に読んでいた。
「あっ、この作品、わたしは好きかもしれない」
そして、最後に見つけた作品は『華燐のほのぼの日常日記』。
彼女は女性向けの編集者だったため、ついそのジャンルに手を延ばしてしまうのかもしれない。
「ヤバい! 華燐ちゃんが可愛すぎる!」
実際に2、3話くらい読んでみた新垣が編集部全体に響くくらいの大きな声で叫んでおり、さらには椅子から立ち上がっていた。
「あれ、新垣さん。大声出してどうしたんすか?」
「どうしたの? 変な作品を見つけたんじゃないでしょうね?」
「おいおい、騒がしいぞー」
彼女が我に返ると近くの席で作業をしている早見はもちろんのこと、他の編集者達からも鋭い視線を向けられている。
「みなさん、すみません……お騒がせしました」
新垣が全員に向けて頭をさげると、速やかにホワイトボードに向かって歩き始めた。
*
同じ頃、栗林は残りの2作品を選んでいる。
彼女は『華燐のほのぼの日常日記』を読もうとした時に新垣の声が耳に入ってきたのだ。
「やっぱり、新垣さんにこの作品を譲ろう……」
栗林はその作品を最初から気になっていたが、新垣がかなり興奮していたため、泣く泣くその作品を彼女に譲ることにした。
「私もあと2作品だから頑張って選ぼう。あとは女性向けか学園ものから選ぼうかな」
彼女はいろいろと悩みながら拾い上げ作業を再開する。
数え切れない量の作品から選ぶことの大変さを感じながら――。
*
新垣はホワイトボードの前に立ち、彼女が選んだ作品は女性向け2作品、男性向け1作品、詩集が1作品とバランスの取れた選出だ。
「あれ、新垣さん?」
「へ、編集長!?」
「4作品すべて選び終わったんだね?」
「ハイ」
「元女性向けレーベルから異動すると全作品女性向けかと思ったら、ジャンルのバランスが取れてるね」
「わたしは今まで男性向けの作品を避けていたんです。自身が女性向けレーベルの編集者だったからということもありましたが……実際に拾い上げ作業をやっているうちに様々なジャンルに出会いたかったと言うのがわたしの本音であり、それが4作品に表れたのかもしれません」
「ほう……実際に選ぶ大変さも感じたのかな?」
「ええ。男性向けは特に」
益子と新垣がこう話していると、他の編集者達はホワイトボードの前で同じ作品がないかの確認をし、被っていない作品をそこに書き込み始めた。
2017/02/11 本投稿




