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ただ毎日をなんとなく過ごす事こそが僕らにとっての普通で、日常で、その先を考えろだなんて急に言われても、全然ピンとこなかった。ぼけっとしていれば時間は勝手に過ぎてくれるから、今まで僕はずっとそれに寄りかかって生きてきたのに、進路という二文字が現れた途端、周りの態度や環境まで変わり始めたから驚いた。いつの間に取り残されてしまったんだろう、と過去を振り返って見ても、やっぱり僕がおかしいとは到底思えない。僕は自分に正直に、平凡で自堕落な毎日を送ってきた。それは皆だって同じだったはずなのに、最近になって突然顔色を変え始めて、やれ受験だの、やれ大学だのと人が変わった様に付き合いが悪くなった。別にそれを責めているわけじゃなく、というよりむしろ尊敬しているのだけれど、どうして皆はそこまでして興味のないことに対し必死になれるのか、さっぱり僕には理解できなかった。就職難だとか騒がれている時代だけれど、選ばなければきっと仕事はあるんだろうし、僕はそれで良い。贅沢は望まない。ある程度ゲームを買えて、外にラーメンを食べにいけて、風呂トイレ別のそこそこ広いマンションに住める経済力があればもうそれで十分だし、これ以上お金があっても逆に使い所に困ってしまうだろう。僕は昔からあまり貪欲じゃないんだ。


今日もとにかく親がうるさくてしょうがなかった。もうすぐ夏休みになるんだからそろそろ予備校へ入れだの、ちゃんと勉強しろだの、大学どうするのだの、土日だからっていつまでも寝てばっかりいるなだの、とにかく耳障りな話題ばかり出してきて心底うんざりだ。そこそこの進学校に入ってしまったのがいけなかったのか、エリート思考の親を持ってしまったのがいけなかったのか、ひょっとすると両方原因なのかもしれない。


受験、進路、将来……もう学校で腐る程聞かされたワードだ。去年の冬休みにも「高校二年の冬休みは三年生ゼロ学期だ! 」なんて担任は豪語していたし、こういう説教はもう耳にタコなのに誰もが口を揃えて同じ言葉を繰り返す。そういう奴らに限って将来の夢を打ち明けるとそれを頑なに否定し、「夢見てないで勉強しろ」なんて身も蓋もないことを言い出すのだ。それなら最初から大学までを義務教育にすれば良いのになぁ、なんてのんびり無責任な事を考えながら、僕はやっぱりまだ布団の中だった。



将来の、夢。

もうとっくに忘れたつもりだった。正直、忘れられるはずもなかったのだが、それでも必死で封印するために、もうかれこれ一年近くギターケースには触れていない。左手の指の先はもうふにゃふにゃで、今ギターを弾いたらきっと痛くて、すぐに豆ができるだろう。こんなことを考えているとまた後悔が襲ってきそうになるから、必死に思考を閉じようと、僕は布団を深くかぶった。音楽、夢、将来。もう終わったことなんだと自分に何度も言い聞かせ、僕は人生の全てを諦めていた。



あんな偶然が起きるまでは。





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