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ウサギとカメ 2015

作者: 佐藤コウキ

「おい、カメ。俺と勝負しようぜ」

 ウサギは川辺で日向ぼっこをしていたカメに向かって言いました。

「僕と勝負? どんな種目だい?」

 甲羅から首を出して、カメが問いかけます。

「かけっこさ。ここから、あの丘の大きな木まで、どちらが早く着くか競争だよ」

 カメは首をひねって丘の方を見ました。

 今の場所を下ると平地があり、そこから丘を登っていくと、その頂上にゴールの木があります。

「ああ、いいよ、競争しよう。僕は負けないよ」

 カメの言葉にウサギは口の端を曲げて笑います。

 ウサギはカメに負けるなどとは思っていません。軽く走ってカメに大差をつけて勝つつもりでした。足の速いキツネなどには勝てませんが、カメなら余裕で勝つことができる。のろのろ歩んでくるカメをゴールでバカにしながら眺めて愉快になるつもりでした。

 地面に線を引いたスタートラインから、よーいドンというウサギの掛け声でかけっこが始まりました。

 ウサギは跳ねるようにして坂を駆け下りていきます。

「楽勝だ」

 ウサギは勝利を確信して後ろを振り返りました。

 すると、坂道を何かが転がってきます。

 カメでした。甲羅の中に首や手足を引っ込めて、車輪のように回りながらウサギの後ろに迫ってきたのです。

 ウサギがあわてて横にそれると、カメはゴロンゴロンと追い越していきました。

「しまった」

 カメを必死になって追いかけますが、転がっていくカメに追いつくことはできません。

 カメは坂を過ぎて平地を転がり、その勢いで丘を登っていきます。

「あんなノロマに負けるなんて」

 仲間からバカにされる……、ウサギは世間体を考えて白い毛を逆立てました。

 カメのスピードが落ちてきました。勢いが上り坂でゆるくなり、とうとう坂の途中で止まってパタンと倒れてしまったのです。

「なんだ。心配することはなかったじゃないか」

 ウサギは止まって、小さな木の下で横になりました。荒い息をしながら上のカメを見てみるとジタバタと手足を動かしているようです。

「あまり油断しているとまずいかな」

 そろそろ動こうかなと思ったとき、何かが転がってくる音がしました。

「何だ」

 見ると、甲羅の中に首などを引っ込めたカメが転がり落ちてくるのです。

 それは加速しながら、ウサギに向かってきます。危険を感じて進路から外れましたが、急に軌道を変えてウサギめがけて衝突しました。

 頭の中で何かがはじけるような感覚がして、次には目の前が真っ暗になりました。そして、気がつくと目の前にカメがいました。

「この卑怯者……」

 ウサギは赤い目を細めてカメをなじります。

 カメは薄笑いを浮かべて、フン、と鼻で笑いました。

「勝負というものは勝たなければ意味がないぜ。戦争でも人生でも勝った方が正義なのさ」

 そう言うとカメはノロノロと頂上方向に向かって歩き出します。

 しばらく倒れたままカメをにらみつけていましたが、やがてウサギは気を失ってしまいました。


*** おしまい


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― 新着の感想 ―
[一言] マリオですね
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