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G×G 神様と私  作者: むあ
7/17

変わらない日常に

 


「おはよう、遙」

「っっぉぉぉぉぉっはよう、ござい…ます?」





 朝、どあっぷに烏摩の顔をおがんだ遙はいろんな意味で心臓の鼓動を抑えられなかった。

 し、心臓に悪い…とつぶやくと、烏摩は面白そうににやりと口の端を吊り上げた。


「烏摩さま」

「ん?」

「…着替えるので出て行ってください!!!!」



 …




「ったく、このクソ神がっ」


 台所で1人つぶやけば、聞こえている、と台所の入り口で彼は立っていた。


「げ」

「ふっ、神を平然と罵倒する小娘、口には気をつけろ」

「はいはーい」



「世話係。今日の予定はなんだ」

「学校です。私は学生ですし、学業が本業なので」




 暇そうにだらだらしている烏摩の横をすりぬけ、遙は学校に向かおうとすると。


 じたばたじたばた

 じたばたたたたた…


 足は空を切る。


「お放しください、烏摩さま」


 遙は自分を子猫のように首根っこを掴む彼に頼む。


「俺も行く」



 そう言った彼を、止める方法はない。

 ため息を1つ、そして遙は仕方なくバス停までそのまま連れて行かれることになる。






 バス停にて。

 健一が遙のげんなりした顔を見て爆笑する。

 琴美は幼馴染の心配をするが、遙はどうともいえない。

 神様がこいつだなんて、言えない。


「えっと、親戚の人で。結構有名な神職者の方なんだけど。ここら辺見て回りたいらしくて」

「遙、学校見学させてもらうからな。校長室にでも連れて行け」

「…クソ神」

「何か言ったか?」



 顔面に息がかかるほど接近した烏摩に、あわてて否定すると、いい子だ、と頭をくしゃりとひと撫でされ。


 ドクッ


 遙はなんともいえないこの感情に、改めて焦りを感じた。

 恐怖と、胸の中に生じる、小さな痛み。











 学校で、あっという間に話題になるのは、歩けば女を誘惑するあの男だった。


「…烏摩さま!!!!!」


 小声で呼び止めるが、両手に花状態の神は気づかない。

 仕方なく烏摩の耳をつかみ、女子生徒らから引き離し、念を押すために人気の無い場所に移動する。


「烏摩さま!もう今朝から何度言わせれば気が済むのですか!彼女たちにあなたの正体がばれては都合が悪いと言っているじゃないですかっ」

「あー。はいはい」

「まじめにやってくださいよ…」

「なら、お前が相手するか?神様の相手」

「……固く、お断りさせていただきま…すっ!」



 烏摩の足を強く踏み、これくらいはしてやる、と遙は彼を睨む。

 痛みにもだえるその姿に、鼻でふっと笑うと、遙は自分の教室に戻っていった。

 烏摩はそんな背中を見ながら、あらためて興味深い女を見つけた、とほくそえんでいた。




 ---遙においていたれた烏摩は、歩いても立ち止まっても、すぐに女子生徒に声をかけられた。





「あの!だれかのご家族ですか?」

「あー、まぁ、遙の親戚」

「遙さんの!?」

「おう、それが何だ?」



 遙が心配する必要もないくらいに、烏摩はうまく立ち回ってるつもりだった。

 女子生徒は少ししてからこう言った。



「巫女さんの遙さんですよね?」

「あ、あぁ」

「彼女、才色兼備で、ほんとこの学校の看板っていうか。そんな人の親戚っていうんだから、やっぱ、かっこいいですね」


 ---「才色兼備、か」

「さっきもラブレターもらってましたしね、彼女」



 傍らにいる噂が3度の飯よりもすきそうな少女の言葉に、烏摩がすっと眼光を強めたのを誰も気づかない。


「屋上に呼び出されてましたけど、どうするんでしょうね」

「…屋上に連れてってくれるか?」




 烏摩は別になんの気持ちもないはずだった。

 あいつは巫女。

 神職者であり、自分を光臨させるための儀式を控えている身で恋愛にうつつを抜かす場合ではないと考えているだけ。


 そう。

 烏摩はそんなことを心の中で考えながら、屋上にたどり着いた。







 ―――



「おい」


 告白の返事を待つ男子の前で、遙は身体をこわばらせた。

 冷ややかなその視線。

 そっとその睨みの方角に振り返ってみると、やはりそこにはいた。

 疫病神といいたくなるその彼が。


「からすま、さま」

「帰るぞ遙。小娘がこんなところで男に顔を合わせる必要はない」

「ちょっ、ちょっと待てよ」


 勇気のある、というよりも無謀なことをしていることに気がつかない男子生徒は、眉間にしわを寄せた。


「今雨宮さんにちゃんと告白の返事をしてもらうとこなんです!誰かは知りませんがしばらく待っていて…ひぃっ…」


 神様の一睨みで、彼は震え上がる。


「あぁ、それで?遙は告白を受けるのか」

「え?あの、ごめんなさい……お受けできません」





 遙の言葉を聞き、満足だと表情を緩めると、烏摩は彼女を、よっこいせという小さな掛け声と共に抱えた。




「1つだけ教えといてやる。これは俺の」

「え?」

「は?」



 再び、あの池のところで感じたものと同じ感覚がふってくる。



「っ!」

「こいつは、神様の使い。つまり俺のためにいる巫女だから…な」


 何を考えたのだろう。

 烏摩は、何事も穏便に済ませようとしていた遙へ、500倍以上の衝撃と共に裏切りをプレゼントした。





「きゃ、きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」









 屋上から、2人の姿は消えた。

 青ざめた男子生徒が、2人が消えたその屋上の柵から下を見ると、平然と歩いていく男と、その上でもがく想い人の姿があった。


「あ、あれは…なん、なんだ…?」







 こんな噂が、広まらないはずはなく。

 神様が早めに光臨したという事実は、この狭い地域の中で、あっというまに広がった。




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