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G×G 神様と私  作者: むあ
5/17

儀式2週間前に

 




「はぁ…」





 また1日と時はたち、遙がまた一歩、儀式に向かって足を進めていくのだ。

 そしてもちろん、巫女としての仕事を果たすために、舞の練習は毎日欠かさなかった。

 簡易の巫女装束を纏い、遙は神社の裏にある池に向かう。








 *




 池は静まり返っていた。

 もうすぐ日は完全に空からいなくなる、赤い光が池の水を不可思議な色に染めていた。


 シャン


 榊の葉につけられた小鈴が音を出す。

 舞はすぐに覚えてしまった、でも、自分の心を落ち着かせるため、こうして彼女は毎日練習をしていた。

 右足、左足、そして両足で。

 軽やかに、水しぶきを立てないように。すばやく、美しく跳ねる。

 左手に持つ扇が、池の水をさっと引き上げ、それが小さなしずくとなりあたりで光に反射する。

 儀式の日ではない、でも、遙は真剣に舞っていた。





 ――《儀式じゃないのに、その舞を見せるのか、小娘。》



「!」



 誰かの声と気配に、遙は目をすっと細め、あたりをにらみつけた。舞はもちろんやめた。








「…誰っ?」

「おーおー、勇ましい娘だな。おい、名はなんという」

「雨宮、遙」




 茂みからでてきた誰かは、木陰からようやく姿を現す。

 男だった。そして彼は、優雅な身のこなしで池のほとりまで歩いてくる。







「…貴方、まさか」



 遙はとっさにわかっていた。

 いや、心臓の高鳴りで、彼の正体など容易に見破っていた。



 銀色の長い髪が、風で揺れ、その瞳の奥にたたえられた金色の色は強い意志の光を秘めている。しなやかな体つき、それでも筋肉質なそのバランスの取れた体格。そして、人とは思えない、その美しさ。

 老若男女みなが惚れるというそれ…




「からすま、さま…」

「ほぉ、わかるのか」


 切れ長の目を細め、口の端に微笑を浮かべ、色気を撒き散らす男。

 遙はすぐに巫女装束であるのもかまわず池の中で跪いた。


「烏摩さま!儀式の前だというのに、なんというご無礼を」


 遙は高鳴る心臓をおさえるために、なんとか謝罪という言葉で自分の心を押さえつけようとした。しかし、男は妖艶に笑ったまま、そんな遙の腕を持ち上げる。


「遙、といったな。あの巫女の、孫か」

「は、はい」

「…陽は勇ましい巫女だったが、お前はまだまだ、青臭い小娘だな」


 腕を持ち上げまま、遙はなすすべもなくその彼を見つめていた。




 ふと。神は口を開いてたずねた。


「神に会って、どうだ?」

「…えっ?」

「ただの男だと思い安心したか?」

「っ…!?いいえ、そうではなく…」



 遙は祖母と母の言った言葉を思い出していた。しかし瞬時にその考えはやめ、ゆっくりと慎重に言葉をつむいだ。

 とはいえど、彼女の気は既に動転しており、まともなことが言えるはずもなかったのだが。



「ただ、かっこ…」

「かっこ?」






「…かっこいいなぁ、って思っただけで…」




 ぶっと吹き出す音と同時に、遙は腕の力から解放される。

 神であるという男はただ笑い声を上げている。


「面白い、ほんと、変な女だ」

「あ、娘から女に昇格した」


 遙のツッコミがますますつぼにはまったのか、神の威厳も忘れ、男はただしばらく笑っていた。



 そして…



「お前が巫女だな」


 真顔に戻った男は、遙を上から見るかっこうでそのまま口を開いた。

 遙が無言で頷くと、くしゃりと遙の髪の毛を手で触った。


「お前の中の、とてつもない力を感じた。で、昼寝してたが中断して下に下りてきてみればこれだ。儀式はまだ2週間先だと言うのに」

「私は…ただ練習をしていただけで…」

「まぁ、いい」


 男は空を見上げてふっと笑った。


「退屈していたんだ。儀式が無事に終わり上に帰らねばならなくなる日まで、ここでしばらく滞在することにしよう」


 春の嵐を予感させる風が、2人を襲う。



「しばらく、部屋を借りれるかな?巫女」

「…は。」






「礼は、これでいいか」

「は?え?な…」






 池の上で、遙は暗い影が自分の頭上を覆うのを見た。




 2つだった影が、一瞬だけ1つになって。

 遙がわなわなと震えるその目の前で、そっと笑ったのは、神様だった。






















「神様だといえど、最悪です!!!」


 怒りをあらわにしつつも、ないがしろにはできない神に対し、仕方なく遙は彼を連れて神社に戻る。


 あの後腰が抜けてしまった遙は、しっかり池の中につかり、水に濡れた身体は春の風によって冷やされていった。涙目になってわなわなとふるえていた遙を、神は笑みを浮かべながら見下ろしていた。


「う~…さむっ…」

「寒いのか」

「…誰のせいだと、思ってるんですか?」

「ならば俺の横で歩けばいい。少しはあったまる」

「いやです」


 プライドが、それだけは許さない。

 遙は神社に着くと、父親に神を預け、私室に閉じこもった。






「ちょっと、遙!いったいどうしたのよ」


 しばらくすると、姉の優が遙の部屋の扉を外からたたいている。


「巫女のくせに、神様儀式よりもさきに降臨させちゃったんでしょ!どうすんのよ」

「…勝手におりてきた」

「はぁ?そ、そうなの…」



 優はしばらく沈黙すると、中に入るよ?と優しい声色で言葉をつむいだ。






「遙、キスされたんでしょ?」








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