修羅堕
巫女は、否、巫女だった彼女は、赤く爛々と光る瞳をかっ開き人々をにらみつけた。
黒い長い髪は、来る嵐の風になびき、色白の肌の頬を見れば、透明な水がつたっている。
人々はそこでようやく、彼らの犯した間違いを気づくことになる。
彼は既に力を失っていた。
そして、そんな彼以上に、その彼を降臨させこの地に平和をもたらした巫女は。
――力を有していたことを。
「どうしてよ」
「っ」
「どうして、殺すの?彼のせいじゃない。私も、悪かったのに。どうして私も殺してくれないの?」
「貴女は…」
「巫女だからっ?だったら緋倉さまも神様よ!!あなた方は神を、殺したのよ!!!!」
「しかし」
「神の力がなくなったからといって、神ではないわけではないの。そしてそんな私たちを、放っておいてくれなかったあなたたたち……」
バス停だったあの場所に、強風が吹き荒れ、バス停の印は力なく吹き飛ばされた。
高校の校舎の避雷針には、すさばじい轟音と共に雷が鳴り響き。
雨が強く、地面を打ち始める。
「て、天が怒った、天が怒っている…」
「おとなしく、していたのに。2人で静かに、していたのに」
幼馴染2人が、そんな乱れる髪もかまわずに叫ぶ彼女を呼ぶ。
「遙ー!!!」
「遙ちゃーん!」
「健一、琴美……」
一瞬だけ赤い光が弱まった彼女は、近づいてきた彼らの肩をそっと抱きしめ、頼みがあるの、と告げた。
「……ごめんね?…2人はどうか……"この子"を連れて、逃げて」
そういって、彼らの懐に忘れ形見を残し、彼らに雨の中、走らせ。
2人が視界から消えたその瞬間。
阿修羅神と化した巫女は、ただのろいの言葉を口にする。
「お前ら皆、死ぬ。皆、ここは滅びる。畑などなくなって、ここはただ住宅の立ち並ぶ街になる!!私は、そこで悔いの残った迷い人となった魂を救済し続ける。お前たちは皆、消える。消えればいい。こんな世界。烏摩さまを殺し、神を殺し、強欲に、そして自己中心的に私を守ったふりをした貴様らなど……要らない」
「巫女!でもそもそもは貴方がたの行いこそが自己中心的だったのではないのですか」
「……だから?」
「っ」
巫女は微笑みながらこう言った。
妙に落ち着いた、感情を感じられない声色は、人々を唖然とさせ。
「私たちはその罪を、貴方がたに押し付けた事はありませんし、貴方たちの世界は守られていたじゃありませんか。私たちは自らの力で、この罪を償うつもりだった。貴方がたに、私"たち"は一度でも危害を、被害を加えた事はありましたか?」
「……それは……」
「遙っ」
「黙れっ!!!!」
説得もまったく意味を成さないことを悟った父親はへなへなと地面にへたり込み、姉は泣き崩れる。
姉の肩を抱き、その夫は必死にやめるように遙に声をかけ続けた。
しかし、嵐はやってきた。
巫女の予言通り、嵐はすべてをなぎ倒し、辺りのものは…神社を残し、すべて消えた。
わずかに生き残った人々は、彼女を巫女として神社に祭ることにした。
表向きは、巫女として。
本当は、阿修羅神となりあれはてた巫女のなれ果てを、鎮めておくため。
巫女は今も、罪を負い、苦しみの中で身体を、ただ、時の流れにゆだねる。
彼女はずっと、鳥かごのなかに、とらわれ続けるのだ。
いつになれば、この輪廻は壊されるのだろう。
巫女は半永久的なこの世の中を見下ろしながら、ずっと、彼への想いだけを抱き、羽ばたき、旋回し続ける…




