最期の詞
「緋倉さまっ」
「……だ、大丈夫だ。これしきのこと」
儀式から3ヶ月、異変は起こった。
境内で倒れた烏摩は、青白い顔をしていた。
すぐにその顔に赤みは戻ったのだが、原因不明の病のようなものに、烏摩は日々冒されていっているようだった。
突然の高熱。
記憶を一時的に失う。
突然神の力に似たもので、あたりをめちゃくちゃにする。
そのたびに陰陽師の末裔でもある優の夫が彼の力を一時的に封じ込める封じ札を使うのだが、神社へのダメージを完全に消すことは出来ない。
それ以上に、巫女であった遙の身体に異変は起きていた。
身体が重く、授業でも成績を維持できなくなり、日々弱っていった。高校も中退するほかないと、教師からも話をうけた。
2人が弱っていくのを、姉は見るに見かねて、街の占い師に内密にと相談する。
しかしその相談により、純潔の巫女であった遙が神と許されぬ恋に落ちたことが、地域の人々の耳に入ってしまうことになる。
――その日は突然やってきた。
嵐の前日、どんよりした曇り空の日に、大勢の農家が神社の前にやってきた。
「既にこいつはただの男だ!引き出せ!!!!」
力づくで境内の石畳に引き摺り下ろされた彼は、ただ愛する女の身だけを案じていた。
「遙は…遙には何もしないんだな!!」
「そうだ、彼女は巫女だったから。少なくとも、神社の人間には手をださない。だが、お前は例外だ」
「っ」
「やめてっ!!!」
木の段の上から、遙は叫び続ける。
「お前は巫女であった遙殿を汚した!その命をもって、罪を償われよ!!!!!」
土にまみれた鍬が、烏摩緋倉という、かつて神であった男におそいかかった。
神の力をすべて失っていた彼は、何もすることなく、その長いような短いような人生を終えた。
遙の視界一面に赤がほとばしる。
大きく見開いた彼女の視界一杯に、赤い世界が広がった。
遙の目に、その赤い光が映った時、あってはならない感情が、彼女の中で噴き出した。
どく…んっ…