最後の夜
ばらばらに、でも同じ部屋で、同じようなことを考えていた2人は、どうしても寝付けなかった。
目の前に、お互い想いがあるのに。
掴もうとすれば、それは、許されざる罪に変わる。
「遙」
――最初に声を発したのは、烏摩だった。
「なんでしょうか」
「明日、だな」
「……」
遙は沈黙する。
烏摩はかまわず、調子はどうだ?とたずねる。
「絶好調です。烏摩さまも、帰るの、楽しみでしょう?」
「……そう、だな」
「烏摩さま?」
部屋の中に流れていた雰囲気が変わったことに遙も気づいて、向いていなかった烏摩のほうに寝返りをうった。
そして、次の瞬間。自分が烏摩のその厚い胸の中にいることを知る。
「か、烏摩さまっ」
「俺のまことの名は、烏摩緋倉だ」
「ひぐら、さま、ですか?」
潤む瞳に、自分の姿がうつるのを、烏摩は見て、遙のその頬に手を触れた。
「雨宮を捨てて、お前が烏摩になってくれたらいいのに」
「それは……どういう意味で」
「どういう意味もなにもない」
「……まさか私が……烏摩様をお慕いしていることを……」
「知ってる」
「!?」
身体を強張らせた遙に、彼は微笑みを深くし、彼女の肩口に顔をうずめた。
遙は、今まで隠し通せてなかった自分の想いに恥ずかしさが爆発する。
「でも、烏摩さまも、私のこと、少しだけでもおもっててくれたとおもうと、少し、報われた気がします」
その言葉を聞いた烏摩は、その小さな肩を抱く力を強めた。
もう、離すことなどできない。
「遙、知ってるか?」
「なんだ?」
「離さないぞ」
「……神様が言う離さないっていうのは、一体どのくらいの長い間になるんでしょうね」
――2人は約束を交わす。
離しはしないと。
「か、らすま、さ、」
「緋倉、と呼べ」
「ひぐらっ…さま」
「遙…」
「ひ、ぐらっ…さまぁっ…」




