伝承と未来へ
今から100年も前の話となるが…
代々とある地域の神を祀っていた雨宮家の巫女が地上に神を呼んだ
降り立った神は、老若男女問わずその美しさにほれ込むほど美しかった
彼は烏摩、数千年も前からこの土地を守ってきた神の1人である
巫女が、この地域にいるよろずの神の中で彼を選んだ理由は、彼が最強の神とうたわれていたからだった
『お前の、願いはなんだ』
「私の願いはただ1つ、あなたを、獣を統べ自然と呼び合う烏摩さまに、この街を守ってほしいのでございます」
当時、村の田畑も人々も…まさに死ぬ寸前であった
突然訪れた謎の煙、
それは後に戦争時に使用された火薬の有毒ガスだったのだが、それによって多くの者が死んだ
植物もひとつ、またひとつと枯れていき、
人々は飢餓と、その謎の煙でいつ消えるかわからない命に震え慄いていた
恐怖と、その焦りから、人々の優しかった思いやりの心もすさんでいく
---そんな現状を説明した後。巫女は静かに言った
「世の中は、理不尽であります」
『理不尽、か』
「神は所詮、天にいて見つめる存在であることはよく存じています。
神頼みとして儀式を行っても、神は恵みの雨くらいしか降らしてくれないですから」
若い男の姿の神はふっと口の端をゆがめた
『ただの女が、おもしろいことを言う』
「…私は、首切り人の家系…雨宮家第18代当主、雨宮陽といいます」
男の瞳に、曇りのない彼女の瞳がうつり、時はほんの少し流れる
「私は、雨宮の家系は代々人殺しの家系だと聞いております。もちろん、今もそれは変わりません、悪を罰する役目があります。
しかしながら、それとこの、理不尽ともいえる煙とはなんの関係もない、死ぬはずのない人を殺すつもりは毛頭ない。
だからこそ、命の源である自然と渡り合う烏摩さま、あなたの力を貸していただきたいのです」
強い中に、隠れる不安の光、それでも彼女は神に対峙し続けた
『よかろう』
男は口を開いた
『お前の願い、これから100年の間、かなえ続けてやる。お前も、その心を忘れるな』
死ぬはずのない人を、殺すことのないような世の中を作れ
そういって神は人々に力を貸した
近隣の村が煙により壊滅する中、この村だけは烏摩の恩恵を受け、ガスが無毒化された
ガスはいつしかなくなり、そのころ戦争も終わっていた
平和の時代が、訪れる