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不完全燃焼ですが、とりあえず完結です


 あれから数年経過していた。

「はい。今日も元気だね。明日には退院できるよ」

「ホント!?」

 喜ぶ子供の顔を見る藤崎の笑顔は本当に満ち足りていた。

「あれ? 藤崎医師、その写真どうしたんですか?」

 新任で来た小児科医が藤崎の手帳に挟まれた写真を見つけて驚いていた。

「娘だよ。可愛いでしょ?」

「藤崎医師、お嬢さんいた……」

 看護師長がその医師の頭をはたいていた。

 にこやかに笑う、藤崎の顔。



 この笑顔の裏に、闇は潜む。



 ただひたすら、怠惰な日々が続く。妻や娘との関係は相変わらずで、どうしようもなかった。

 杏里は、この苦しみから逃げたくなった。


 だから、妻へ離婚を言い渡した。


「ふざけないでください!」

 相変わらず妻は「四条院 杏里の妻」という立場に拘っていた。

「四条院の姓を使いたければ使っていい。ただし、これ以上俺に迷惑をかけるな」

「え?」

「お前のその浪費で、俺がどう言われてるか分かってんのか?」

 何に使えばここまで使えるのか、という金額。

「これ以上お前らに俺の財産使われたくないんだわ。慰謝料と養育費はお前の言い分でいいから離婚に応じて欲しいんだわ」

 家族という括りを一度に取ってしまった。杏里が娘たちに贅沢をさせないと言えば、あっさりと娘たちは妻についていった。

 目先の欲しか捉えられない、我が子に思わず呆れた。


「離婚、したんですか?」

「あぁ。やっとな」

「おめでとうございます」

 にこりと笑って藤崎が言った。

「俺も、やり直せるのでしょうか」

「調べるか?」

「いえ……時間を見つけて行ってみます」


 それが偽りだと気付けばよかった。

 動かぬ藤崎に、杏里はこっそり調べたのだ。



「……嘘……だろ」

 これが現実なのか?

 藤崎の「娘」は杏里が思う以上に地獄にいた。


 何故、養母は動かない?


 何故、娘は藤崎に助けを求めない?


「ねぇ、姫。新しい服買ったんだ。是非……」

 思わず欲望の塊の男に術を放った。

「逃げろ」

 それだけで娘は逃げた。ストーカーという恐怖。そしてそれを知りつつ、誰も庇わない絶望。その中に娘はいたのだ。

 表情のない顔。全てをあきらめきった顔。

「尚近」

「かしこまりました」

 杏里がしてやれることなど限られている。

 側近の伝手で一人の女を傍に置いた。ただ、娘を守ってくれるようにと。



「杏里さん!」

 一年後、とうとう藤崎にばれた。

「何故、……教えてくれなかったのですか!? 夏姫が……うわぁぁぁぁぁ!!」

「大丈夫だ! まだ最悪の事態になっていない!」

 そう、言うしか他になかった。

「俺が……俺が連れてきていれば……あんな卑劣な欲望に……十子!!」

 そのまま藤崎は女に詰め寄っていた。


 そして、それが決定打になった。


 女は別の男を捕まえ、娘を生贄にするつもりらしい。

 それを聞いた藤崎は、全ての復讐の為にサンジェルマンと手を組んだ。


 それを止める術を杏里は知らない。ただ、必要な情報を藤崎にやるだけだった。

 そして、藤崎は復讐の一環として元則とも手を組んだ。


 おかしいことに、元則は藤崎のことを覚えていなかった。


「初めて知ったが、紫苑と付き合いあるんだな」

「は?」

 狂う藤崎を止めたくて、杏里は声をかけた。

「紫苑のところに世話になる予定らしい」

「紫苑?」

「俺の従弟。あの女の甥っ子らしいぞ」

「そう。ですか」

 だが、紫苑は動かなかった。


 宿無しになりそうな娘をどうするか迷っている間に、娘はとある男の庇護に入った。


 そして、兄を通じて娘の調査をして欲しいと依頼が舞い込んできた。



 だから、教えてやった。

 藤崎とのつながりを、そして藤崎がサンジェルマンと繋がっていることを。


「杏里さん、ありがとうございます」

 教えたことが分かったのだろう、藤崎が礼を述べてきた。

「俺を止めるつもりだったんですか? でも俺が夏姫にしてやれることなんて限られてます」

 狂った微笑みのまま、藤崎は杏里と向き合っていた。

「これ、全てが終わったら夏姫に渡してもらえますか?」

「武満が主治医だろ? 遺言を武満に頼んだんだ……」

「彼じゃ無理です。きっと夏姫の手に渡った瞬間、他の人の手に渡るでしょう。俺はそれを避けたい。だからあなたに頼むんです」

「そっか……分かった」

「それから、これはあなたにです」

 既に死期を悟った男の顔だった。

「今になって思います。後悔する人生も悪くありませんね」

「……まったくだ」


 それが藤崎と最期に交わした言葉となった。


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