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 手術は成功したという。それは藤崎から「直接」聞いた。

――最近、その女の子が心を開いてくれました。両親が来ないのが残念です――

 その両親は八陽たちを脅迫していた。金欲しさに。


 歪な欲望は悲しみを生む。


「おじちゃんったら、そんなことも出来るんだ!!」

 久しぶりに寄った病院で、嬉しそうな子供の声が聞こえた。

あの子(、、、)です。例の」

「……あぁ」

 無邪気な笑顔、そして藤崎を慕う声。それに応える藤崎。まるで父子のようだった。

――娘と同じ歳の子なんですよ。だから、つい娘のように思ってしまいます――

 やめろ、その子と関わるのをやめてくれ。


 嫌な予感しかしない。


「八陽の家では来ておりません。……多少、責任というものを持って欲しいものです」

「来るわけねぇな。何せあの娘の親は、八陽を脅迫してやがる」

 その言葉に院長が絶句していた。

「悪ぃ、あの子をしっかり監視しといてくれ」

「出来うる範囲で、としか申し上げれません。もし、八陽側に京都がつけば、我々では……」

 言っていることは分かる。内側から崩れれば終わりだ。


 この嫌な予感だけは外れて欲しいと思っていた。



 その予感は、悪い意味で当たった。


 娘が最初に殺された。その後、その身内が行方不明となった。


「……俺の、せいかもしれません」

 久しぶりに会った藤崎が苦しそうに言う。

「どういう意味だ?」

「いえ。……京都から来ていた医師があの子が笑っているのが憎いと言っていたんです」

「……馬鹿な」

「だから、俺が、夏姫の代わりだと思って、優しく接しなければ、……こんなことには……」

「藤崎、それは違う。お前が罪を背負うことはねぇ」

 そんな言葉しかかけれない、自分に苛立ちを感じる。元則の狡猾さは知っていたはずだ。それを止めなかったのは、杏里だ。

「ははっ。俺の短慮で、俺は、自分の患者を……」

 殺してしまった……。

「藤崎!」

 こうなったら、藤崎の記憶を……。

「杏里さん、何もしないでください。俺にとって必要な記憶ですから」

 藤崎の懐の広さに、杏里はただ、脱帽するしかなかった。


 今までどおり、他の患者にも接する藤崎は、杏里にとってただひたすら眩しかった。


 そして、歪んだ苦しみは、狂いへと導かれていく。


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