表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9


 出張で東京に行くたびに、杏里は藤崎と会った。

 基金の件で話をするという名目だ。だから小さなオフィスだった。

 従業員は、桑乃木総合病院から最初は借り出されていた。


 そのうちに、基金専用の従業員も増えてきた。



 銀行からも監査が入る。それは仕方ない。

「おかげさまで、俺も寮を出ることができました」

「……お前……今まで……」

「はい。寮でした。俺自身の金なんてほとんどありませんでしたし。やっと頭金が用意できたので、マンションを購入するんですよ」

「『娘』のためか?」

「そうとも言えるし、そうでないとも言えます。今の状況なんて俺調べてないんで分かりませんよ」

 おそらく嘘だ。調べていないのは本当かもしれないが、立地条件や間取りを考えると、どうしてもいつか頼るかもしれない娘を想っているのだと分かった。

「お前も大概不器用だよな」

「あはははは。杏里さんには言われたくないですねぇ」

 互いに不器用、それがある意味二人の共通事項だ。


 藤崎の仕事柄、酒を飲み交わすことはなかった。藤崎の住むマンションで杏里が一人、酒を飲んだとしても、藤崎は一切口に入れないのだ。「緊急のコールが入ると悪い」ということで。

「ワーカーホリックめ」

「そうですか? ……まぁ娘と会わなければ外科医になってたかもしれませんけど」

「さり気なく娘自慢しやがって」

「未だに昔の写真持ち歩いている親馬鹿ですよ、俺は」

「持ち歩いてんのかよ!?」

「はい。一番のお気に入りの写真は持ち歩いてますよ。病院内でも俺の話は有名です」

「……けっ。さり気なくアプローチしてくる奴を潰してんな」

「今更、ですよ。借金が無くなってからアプローチしてくる女性(ひと)に興味はないですから」

 昔はかなりの借金があった。その時には「腕はいいがあえてハズレを選ぶ必要はない」と散々言われ続けたらしい。

「今だって、住宅ローンを支払っているんですから、ある意味借金なんですけどねぇ」

「車は?」

「都心部に住んでいるなら、特に要らないですね。免許は一応持ってますけど」

「持ってたのか!?」

 ちょっと意外な感じがしてしまう。常に出歩く事を嫌っている男に見えたのだ。

「そりゃ、インターンで行った場所が場所でしたから。バスもほとんどなくて、買い物も不便でしたし」

「それで車か」

「えぇ。こっちに来る前に譲渡しましたけど」

 それ以上は聞かない。今は必要な時に車があればいいですよ、そう笑う藤崎とは本当に気があった。


 こんな会話をしたのは、出会って二年目のことだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ