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2話連続投稿です。こちらが後になります
「前、いいでしょうか?」
食堂でまた声をかけられた。妻と娘はホテルのレストランに向かったようだ。
「おうよ。あんたに色々聞きたいことがあったからな」
逆を言えば、ずっと待っていた。おそらくここに来れば、いつかは藤崎が来るだろうと思って。
「院長から話は聞きましたよ。アユちゃんの手術にお金を出そうとしたとか……」
「もう知ってんのかよ」
「えぇ。手術経過を先ほど院長に知らせてきましたから」
「あんたとの出会い料だ」
「受け取れないんですよね。アユちゃんの両親には話してありますし。俺が立て替えて、月々支払ってくれるように」
「『説得』ってそれだったのかよ」
「えぇ。本来してはいけないことなんですがね。金がないから、受けれる治療に差があるのが、俺は辛いんです」
保険適用外の手術など、医療格差があると藤崎は指摘する。金があるから、助かるのなら、金がない人を少しでも助けたいと。
「子供って病気が進むの速いんですよ。だからどうしても見ていられない。俺は小児科医に向かないのかもしれません」
「いんや、誰よりも向いてるぜ。……ただ、ここの病院以外では無理だろうなぁ」
「そうでしょうね。院長のお陰です。就職する時にこの話をしたら、院長だけが許可してくれましたから」
流石は「変人」と名高いだけはある。四条院本家の圧力を嫌い、東京へ来たのだ。
「だったら、海外に行くとかは無理だろ」
そして、他の病院でも無理だ。即座に首にされるタイプの人間だ。
「アメリカとかは自由診療ですから。金額を抑えれば何とかなるかなって」
「借金返せねぇじゃねぇか」
「そこが問題なんですよねぇ」
「……一つ提案だ」
「何でしょう?」
「あんたは俺から金を受け取らない。そうだな?」
「えぇ。それは変わりません」
「俺と兄貴でとある基金を設立する。兄貴が頷かないなら、俺一人で設立する。そこにお前が今まで負担した治療費を移せ」
藤崎が驚いた顔でこちらを見つめてきた。
「俺は正直に言うと、身内に金を残したくないんだわ。あいつら無駄遣い以外しねぇからな。それだったら、個人資産の運用として『小児病基金』を設立する。子供の病気に関する手術・入院に関わる金を一時負担する仕組みだ。無期限・無利息・無担保で貸し出す。そのかわり、少し査定を入れるが」
「どうしてそこまで……」
「普通に無駄遣いされるより、税金対策になるんだよ、こういうのは。だから俺から出る税金を少なくするために俺に利用されろ」
その言葉に初めて藤崎が笑った。
「そうさせてもらいます。基金が発足したら院長通じて俺に教えてください」
「院長にも言うが、あんたにも言うさ」
「一応、商談仮成立という事でいいですか?」
疑りぶかいと感じたが、そういった話はどこからか何度かされていて、騙されているのかも知れないと思った。
結局、兄の承諾は得られなかった。だから、一人で設立した。
設立後、妻には散々ののしられたが、そんなものはどうでも良かった。個人資産を使った法人を設立したのだ。
藤崎に持っていき、話をしようとしたら、院長に止められた。
基金の理事に院長も加わると。だから、藤崎を理事に加えるなと。
「加えねぇよ。あいつが持ってる医療に関わった借金を移動させるだけだ」
「……そうでしたか。ですが、理事には加えてくださいね」
「食えねぇ奴だな。相変わらず」
「いえいえ、杏里様ほどではありませんよ」
にっこり笑って言う、院長は本当に食えない。
結局、理事には武満とあと、桑乃木以外の病院の経営者が数人加わった。