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「魔術屋のお戯れ」外伝です。
四条院 杏里がその男に出会ったのは、本当に偶然だったと思う。
杏里は家族との繋がりがかなり希薄である。
ただ、血が繋がってるだけ。だから義務が生じて養っているだけ。
勿論、妻だって「戸籍上」妻だから養っているだけだ。
そんな家族に「海外旅行に行きたい」と我侭を言われ、面倒になりとあるテーマパークのチケットを融通した。
そんなもので納得するわけのない、己の家族はかなり文句を言ったが、「兄家族と一緒に行けるぞ」と付け加えたら、あっさり喜んだ。
無理もないか。
杏里は思わず笑ってしまった。
兄夫婦のところは特殊だ。義姉は「落ちこぼれ」と名高いため、妻は虚栄心を満足させられる。甥っ子は本家の跡取りとして既に注目されている。
娘のどちらかでもお眼鏡にかなえば、もう一つの虚栄心をも満足させられる。
そんな家族の行動が、杏里には滑稽で愚かに見えた。
帰りに下の娘が体調を崩したのだ。
数日東京に足止めを喰らうことになった。
「東京で仕事できるようにしとけ」
家族を愛してやまない兄、樹杏が杏里に言った。
「俺は別にいいよ。向こうのデスクでやったほうがはかどる」
「……お前にしか頼めない仕事がある。だから残ってくれ」
そんなもの、おそらく言い訳だ。
何故か昔から杏里は兄に逆らえない。
仕方なく、杏里は東京に残った。
子供や妻にとっては「幸いにも」長期休暇中、杏里にとっては最悪の一ヶ月になりそうだった。
今回は短かったですが、次は長いです。
区切れませんでした