今ほど中二病を後悔した事はありません
***どことも知れない空間***
俺の名はクロスロード・メギ・ザッハ
今俺はどこまでも続く白の空間に佇んでいる。
「それでは山田一郎さん、手続きを開始します」
「おいおい、それは偽りの名だぜ」
肉体を捨てた今の俺には魂の名、クロスロード・メギ・ザッハこそがふさわしいのだ。
「ああ、どうでもいいので。後使えているので早めにお願いします」
自称神である目の前の女性、翼がわっさと広がっていて後光なんかも差しているが、どうにも先ほどから愛想が良くない。嫌われているのか!? それはノーだ!!
なぜなら俺は神に愛された存在。きっと照れてしまっているのだ。
「山田さん」
急かしているように聞こえるのも、恥ずかしがっているからだ。
「願いを三つか」
詳しい話は忘れたが、神が俺に頼みごとをするために力をくれるというのだ。
まぁ俺ならそんなものなくても不可能なことはないのだが、相手を立てることも必要だ。貰っておいてやろう。
「そうだな」
三つと言われるとほしいものが次々と出てきてしまうな。
「まずは鑑定スキルだ。見たら何でも分かるやつ。それとアイテムボックスだ。これくらいは頼みを聞くのだからサービスでつけろ。あぁ、どんな敵でも一捻りで倒せるくらいの力もだ。あからさまなのはダメだぞ。リスクがあってこそかっこいいのだからな」
まぁ自分についてはこのくらいでいいだろう。そういえばなにか制限があった気がしたが、大したことでは無かったのだろう。
「マスコットにあと仲間だ。全力の俺ほどと言わなくても敵をばっさばっさ倒せるくらいでかわいい子とかがいいな。あとはもふもふ要素だ。もふもふをしらんだと? こう、手触りのいいふっさふさの毛があって、その要素があるだけで女子に大人気なんだぞ」
最初は俺のあまりの謙虚さに驚いたのか、顔をしかめていたが途中から笑顔で作業をし始めた。
「それでは山田さん、いってらっしゃい」
***異世界 降り立った土地***
青い空、緑の草原、白んだ山々
そんな異世界に降り立ち俺は今、何かに喰われかけている。
「グッッギョウッ」
俺を飲み込もうとしている奴が鳴き声だかえずいているのだが分からない音を上げる。
「ほっほっほっ。やまちゃんは懐かれておるな」
傍らでよぼよぼの爺さんがいい笑顔を浮かべてやがる。
「ふざっっっ、けんな!!!」
ぎゅぽんと何かの口から体を引っこ抜く。
「てめえはなんだよ。それにこの、この…ペリカンっぽいのも?」
俺を飲み込もうとしていたのはおかしな鳴き声を上げて、今にも俺に喰いかかろうとしているが見た目はペリカンだ。サイズは俺の身長くらいあるが…
「ペリカンとやらは知らんが、こいつはペリカルーンという神鳥じゃ。懐かれるなどさすが異世界からの勇者じゃな」
「ペリカルーンとかしらねぇよ。それよりお前誰だよ。それに俺の仲間はどこだよ」
「儂は大賢者と呼ばれておる者じゃ。女神に頼まれてここに来た。気軽にケンちゃんとよんでいいぞ」
「うるせぇよ、誰が呼ぶかクソじじい。それで俺の仲間はどこだよ」
サムズアップを決めるじじいを無視して辺りを見回す。
人っ子一人いやしない。
「ヤマちゃん、わしが大賢者だからって遠慮はいらんぞ。共に世界を救おうではないか」
「うるせぇよ。俺が頼んだかわいこちゃんはどこだよ」
ペリカンもどきがとびかかって来たので必死に引きはがす。
「ほれ、女性がはしたない真似をするのではないぞ」
じじいがペリカンもどきをどうどうと諌める。
「ヤマちゃんもいきなり抱きつかれて照れたとはいえ、抱きとめるくらいの器量が無いといざという時に困るぞ」
「鳥に照れた覚えなんてねぇ。ていうか、もしかして…」
「ほれ、このつぶらな瞳にこの模様、憂い奴よの。将来は絶世の美鳥になるぞ」
「ガッテム!!」
俺の叫びが青い空へと吸い込まれて行った。
***異世界 初めての街***
最初の場所から2時間近く歩いてようやく街にたどり着いた。
途中でお姫様が盗賊にでも襲われていないかと期待したが生憎とお姫様どころか誰とも合わなかった。
「おぉーこれが異世界の、街?」
テンションを上げて門を抜けてみればそこには多種多様な種族が入り混じる活気のある街並み、ではなくぽつぽつとしか人がおらず、その人もみんな下を向いて歩いている。
「なんかテンション下がるなー」
「はて、ここソリュートは花の街として栄えていたはずじゃが」
上からじじいの声が降ってくる。昇天してくれたわけでは無い。
歩いている途中で腰痛を起こして、途中からペリカンもどきにまたがって来たのだ。
くいくい
「ああん?」
服を引っ張られて振り向くと一人の少女が俺の服をつかんでいた。
「旅のお方でしょうか?」
「ああ、そうだ。おれはクロスロード・メギ・ザッハ。世界を救う男だ」
俺の言葉に感銘したのだろう。少女が目をまんまるにする。そしてヒシとしがみついてくる。これぞ仁徳のなせる業であろう。
「お願いですクロスロード様、私どもをお助け下さい。両親が領主の館に連れていかれてから数日、私と弟はろくに物をくちにする事が出来ずに。どうか、どうかパン一つでも構いませんのでお恵み下さい」
さて困った。サインを書くためのマッ○―を取るためポケットに手を突っ込んだはいいが、俺のポケットには食べ物なんて入ってない。考えればこちらのお金すらない。
それなのに少女は期待した視線を向けてきている。
「おじょうちゃん。わしらも大したものは持っていないが、よっこらせっと」
ペリカンもどきから降りてきたじじいがおもむろに、ペリカンもどきに飲み込まれていく。
え、なに?お釈迦様の真似で自分を食べてくれって? けどあんたが食われようとしているのペリカンだぜ。。。
「うりゃぁぁぁ」
「うぎゃぁぁぁ」
さすがに少女の前でトラウマシーンはよろしくないと呑まれかかっているじじいの足をつかんで思いっきり引っ張り出す。じじいはすぽっと引き抜かれると面白いように飛んで、2,3メートル先にべしゃりと落ちた。
「だ、大丈夫ですか」
慌てて少女が駆け寄る。自分も大変な状況だというのにええ子や。
「大丈夫じゃ。伊達に長生きはしておらんわい」
心配そうに駆け寄る少女にじじいは笑顔を浮かべてパンを手渡す。
じいさんと孫と名付けたくような光景だ。
「って、じじいさっきまでパンなんて持ってなかっただろ」
突然現れた不自然すぎるパン、そんなものを少女に与えるなんて許せるわけがない。
「取り出したんじゃよ」
「取り出した?」
「ペリカルーンの餌袋は無限の容量があっての。いくらでも物が入るのじゃ。あれはヤマちゃんの初期持ち物として預けられたものじゃが、渡さんほうがよかったのか」
こちらを覗う様な目で見てくる。
見くびって貰っては困る。俺はそんなみみっちくは無いのだ。
「全く問題ない。彼女のためになるならどんどん渡してくれていいぞ」
ところで、取り出したパンが妙にテカテカしていたのって、あの鳥のだえ…止しておこう。
「さすがヤマちゃん、勇者じゃな」
「当然だな」
「お嬢ちゃん、少ないがこれでもちっとましなものを食べなさい」
少女に小さな巾着を渡すじじい。
あれ?この流れって…
「こ、こんなによろしいのですか!?」
中を確認した少女が慌てて確認を取る。じじいに。
「もちろんじゃよ。今ヤマちゃんも言ったとおりじゃ」
少女の視線がじじいから俺へと移る。
「ハハハ、トウゼンジャナイデスカ」
***冒険者ギルド***
路銀も食料も尽きた俺にとってお金を稼ぐ事は最優先事項だ。
そしてやってきました冒険者ギルド。
道を尋ねると誰もが怪訝そうな顔をしたが分かるぞ。大して鍛えてもいなさそうな俺がやっていけるのか心配なのだろう。
けれど安心したまえ、すぐにでも俺の名前は偉業と共に語り継がれることになるからな。
じじいと鳥を外に置いて俺は冒険者ギルドの門をくぐる。
中には飢えた目をした野郎どもがごろごろしていやがるぜ。
「冒険者ギルドに登録したいんだが」
生憎と受付はおばちゃんしかいなかったが、しかたない。
「あいよ。これに記入して」
乱暴に渡された記入用紙の項目は名前、年齢、性別、健康状態。
釈然としないが素直に書いて渡す。
「仕事の割り振りは朝二つの鐘が鳴る前だよ。あと三日に一度炊き出しがあるからね」
え?ええ?
「あの、クエストとかはどこで見れば?」
「クエスト? 仕事なら朝一で親方連中が来るからそこで拾ってもらいな」
「魔物退治とかは」
「騎士団様が管理しているんだから素人が手を出すんじゃないよ」
「商隊の護衛とかは」
「それがやりたきゃ傭兵になるんだな。もっともよほどの実力が無いと無理だけどね。ここにいるやつはせいぜい荷車引きさ」
最悪の気分で冒険者ギルドを後にする。
コネがあり、身分がしっかりしている者は騎士団に入る。
実力のある者は傭兵団に入る。
冒険者ギルドに居るのはどちらにも入れない半端ものだった。しかも仕事も完全に日雇い形式。
ひどすぎる。俺の異世界はどこに行ったのだ。
「はい、あ~ん」
「あ~ん」
「グギェジュェ」
ギルドから出るとじじいと鳥は居なくなっていた。
さびしくなんてない。訳の分からん奴が居なくなってせいせいしたさ。
「やだ~。おひげふさふさ」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
「ギョョョエゲェ」
冒険者ギルド前の喫茶店。
テラスなんてこじゃれたもののある、ちょっとお高そうな店では昼間から店員と客がなにかやっている。キャバクラかよ。
「おじいちゃんのおひげ癖になりそう~」
「おー、特別に結わいてもええんじゃぞ」
「ジャエォグゲッ」
「くそじじいじゃねぇかよ!!」
渾身の制裁、とび膝蹴りを食らってじじいが吹っ飛ぶ。
「なんじゃ、最近の若者は急に癇癪をおこしていかんな」
「チッ、あっさりと復活しやがって」
「ひどい言われようじゃ。老人はもっといたわらんと」
「うるさい黙れ。金はさっき全部渡したんじゃないのかよ」
無銭飲食ならじじいと鳥を売り払おう。
「わしがヤマちゃんに食わせてもらうのも忍びなくてな」
ごそごそと懐から、先ほど少女に渡した巾着袋より大きなものを取り出す。
「ポケットマネーから出すので平気じゃ」
「だったらさっきお前の渡せよ!!」
***街中***
「ところでヤマちゃん」
掛けられる声を無視してずんずんと街を進んでいく。
もうじじいたちとは金輪際関わらない。
「ヤマちゃんったらヤマちゃん」
街は富裕層の住宅地に移ってきたらしく、家は豪勢になってきたが人の姿はやはりほとんど見かけない。
「ヤマちゃんヤマちゃんヤマちゃんヤマちゃんヤマちゃんヤマちゃんヤマちゃんヤマちゃんヤマちゃんヤマちゃんヤマちゃんヤマちゃんヤマちゃんヤマちゃん…」
「うっさい、わかった、わかったからなんだよ」
ありったけの憎悪を込めて睨みつけてやってもじじいは全く気にしない。
「くだらない事だったらぶっころすぞ」
「わしはいつでもヤマちゃんのためになることしか言ってないぞ」
イライライラ
「どの口がそんなことをいうかねぇ」
「親の心、子知らずとはこのことか。余の条理とはいえさびしいの」
イライライラ
「どうでもいいから早く要件を言えよ」
「…勇者の出番じゃ」
「へ?」
「ちょっと君たちいいかい?」
「「へ?」」
「ギョギュェ?」
***屋敷の地下牢***
補導されました。
高級住宅地で不審な者たちが言い合いをしているとご近所さんが通報したらしいです。
そして、ろくな話も無いままに地下牢に押し込まれました。
「じじい、どういう事だよ」
「ふむ、これは好都合かもしれんな」
「牢屋に入れられて何が好都合だよ」
「言ったじゃろう、勇者の出番じゃと」
勇者、そう、おれは勇者としてこの世界に来たのだ。その単語にはたぎるものがある。
それを言っているじじいは信用してないが、話くらいは聞いてやろうという気分になる。
「詳しく話せよ」
「ヤマちゃんが冒険者ギルドに プッ 言っている間に聞き込みをしたんじゃがの」
「おいじじい、今笑っただろ」
「何を言ってるんじゃ? 自意識過剰かの」
「クソッ。それでどうした」
「それでじゃ、どうもここの領主が不当に住民を集めて地下牢に閉じ込めているらしいの」
「それは事実らしいな」
今閉じ込められている周りの牢屋からすすり泣く声やら人の気配が、かなりの量している。
「そしてこの領主の館にはデーモンがおる」
「へ? それも噂かよ」
「ちゃうぞ。わしは大賢者じゃ。わしの目に見通せぬものなどないのだ。今は西の塔の最上階で、これは魔術を用いた儀式の準備をしておるな」
「なんだよそれ、やばすぎだろ」
「ここに集められた者たちを生贄にする気じゃな」
「なら早く逃げようぜ」
「どうやってじゃ? 」
「どうって、大賢者ならなんか便利な魔法でぱぱっと」
「無理じゃ。マジックアイテムはすべて取り上げられてしもうた。唯一あるのが」
「あるのが?」
「体に刻み込んだ緊急避難用の魔法じゃ。これならばわしの屋敷まで一瞬で飛べる」
「ならすぐに使おうぜ」
「ただし、せいぜいわしとヤマちゃんが飛ぶので精いっぱいだ」
「なんだよそれ」
「せめてげっぴーが居てくれたらの」
「なんだよげっぴーって」
「げっぴーはげっぴーじゃ。ペリカルーンらしい高貴な名前じゃろ」
いつの間にか名前が付いていたらしい。しかも鳥は俺たちが捕まった時一目散に飛んで逃げて行った。
「まぁない物ねだりじゃよ。さぁヤマちゃん、決めるのじゃ」
自分たちだけ逃げ出すかどうかを。
「お、俺たちが逃げた後改めて助けに来るのは」
「無理じゃ。屋敷とこの街で距離がありすぎる」
「最初の敵がデーモンとか無理だろ」
めっちゃ逃げたい。
この世界に来てまだ一度として戦った事はないのだ。
神から秘めた力を貰っているはずだが、まだ使い方を知らない。しかも頼むとき格好をつけてリスクをなんて言ってしまった。
「得てして人生はそういうものじゃ」
「理不尽だな」
「でもお主には逃れる手立てがある」
「けど、他の人にはそれが無い」
「見ず知らずの者たちじゃ」
「でも、それでも…」
それでも、それでもそう割り切ることはしたくない!
「思い出した」
「なにをじゃ」
「神に頼まれた事だ」
「ほぅ」
「俺は、前の世界で理不尽な目にあってばかりだと思っていた。だから神に呼ばれたんだ。理不尽に苦しむものを助けてくれと」
「それでどうするのじゃ」
「とにかく何でもいいから出来ることをやってみる」
「ふっふっふっ」
「笑うな」
「すまんすまん。しかし、それでこそ勇者じゃ」
「なんだよ改まって」
「この大賢者ジークベルグ・ロンドル・ケミトルドが勇者山田を助けよう」
「山田じゃねぇし」
「げっぴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
じじいの絶叫が牢屋中に響き渡る。
「おい、お前ら何やっている」
「じじいなにやってるんだよ、見張りが来ただろうが」
ガンガンと槍で牢屋の柵を叩きながら悪人面の兵士がこちらへとやってくる。
「ずいぶんと生きがいいなぁ。俺がちょっとかわいがってやらぶしィツ」
その兵士は猛烈な勢いで突っ込んできた何かに跳ね飛ばされ、柵にぶつかって倒れ込んだ。
「ゲギュェロギュ」
どうだと言わんばかりにふんぞり返る鳥。
「よくきたぞゲッピー。わしの杖を出しておくれ。ほれヤマちゃんもぼさっとしてないで、そこの奴からカギを奪うのじゃ」
「デーモンは任せたぞヤマちゃん」
「え、俺戦いとか無理だから」
決心はしたがそれはあくまで街の人を助ける決心だ。
「大丈夫じゃ。ヤマちゃんは神に選ばれた勇者なのじゃから」
そっと渡されたものはちょうど手で握れるサイズの棒。
「それでお主の真の力を発揮できるはずじゃ。わしは街の人たちを助ける」
手の中の物を見る。俺の手にフィットするような感触、一方の端にはクリスタルのような物が取り付けられている。
この形、見たことがある。確かに悪を切り捨てるのにはこれ以上のものは無いだろう。けれどリスクもある。
「エネルギーは多分MPだろう」
俺にどれだけのMPがあるかは分からないが、リスクとして頼んだからには無限なんてことは無いだろう。今これを使ってデーモンと戦う時にMP切れではシャレにならない。
ふさぁ
悩む俺を何かが撫でる。
「鳥…」
翼で任せろと言わんばかりに肩を叩いてくる。
普通なら馬鹿な話だが、一人で、いや、一匹でここまで来た鳥ならば。
やれるのか、とは問わない。
「たのんだぞ」
***屋敷 中庭***
鳥と俺のコンビネーションで死地を超える。
そう思っていた時期がありました。
廊下めいいっぱいまで広がったくちばしが前に立ちふさがるすべてを飲み込んでいく。
外に出たときには見て分かるほど餌袋は膨らんでおり、くちばしの間からいろいろとはみ出ていた。
それも鳥がぶるぶると頭を振ると口の中へと呑まれていき、膨らんだ餌袋も元のサイズとなっていた。
ワタシハナニモミテイナイ
「西の塔に行くぞ」
自分を鼓舞するために必死に走り出す。
兵士たちに追い掛け回されながらもようやく西の塔に着いた。
餌袋を膨らませた鳥はさすがに重たいようで遅れが目立つ。
「おい、早くしろ」
追いかけてくる兵士の足音に気持ちが急かされる。
いけ好かない鳥だが、置き去りにしては後味が悪い。
だというのに、あいつは恰好をつけやがった。
塔の入口にたどり着いたところでひらりと身をひるがえし、翼を大きく広げたのだ。
まるでこの先には誰一人通さないというように。
「ゲリュグゲギョギョ」
行け
そうでも言うかのような鳴き声に押されて俺は塔をひた登る。
目がやけにうるむのは埃っぽいからだ。
そしておれは、最上階に、着いた。
「よもやここにたどり着く者が居るとはな」
最上階では悪趣味なローブを羽織った野郎が一人いた。
こいつが領主で、デーモンなのだろう。
「お生憎さまだったな」
「大賢者が居たとは誤算であった。けれど、こんな小僧をよこすとは詰めを誤ったな」
「言ってろ。あんたを倒すのはこの勇者クロスロード・メギ・ザッハ様だ」
鳥のおかげでここまで戦わずにこれた。MPは満タンだ。
俺は握っていた柄を掲げる。
「俺はすべての悪をこの剣で斬り裂く。その第一号に成れることを幸運に思うのだな」
「そ、それは」
柄に集まるエネルギーに気が付いたのだろう。
しかしもう遅い。
相手のおののく表情に愉悦を抱きながら俺は剣を、MPを糧として光の剣を発動させる。
「創生の力よ、ここに集え!」
発動のキーワードによって
柄の先端、クリスタルから発せられた光が一本の柱のように空を穿つ。
その光は俺の隅々にまで染み渡るように広がっていく。
体に、力があふれてくる。
辺りはもう夜だ。
文明の発達していないこの地で夜の闇は本当に深い。
先ほどと一転、今俺は室内ではなく、外に居た。
あれ?デーモンは?
「ジュアッ」
そう思って踏み出そうとしたところで足に何かが引っかかる。
慌てって倒れないように踏ん張ると、転びはしなかったが代わりに足元から何かが崩れる音がした。
やばっ
「ジョアッ」
見ると良く出来た模型の家が崩れかけていた。
そこから一匹の蝙蝠が飛び出してくる。
角が在ったり、人っぽかったりしたけどきっと蝙蝠だ。
羽がそれっぽかったし、サイズも手のひらくらいだからきっとそうだ。
住処を壊された怒りからか、やけにまとわりついてくる。
悪い事をしたなと思っていたので最初は好きにさせていたが、あまりにしつこかったのでつい手で払い落としてしまった。
ぺちんっ
地面に落ちた蝙蝠はそのまま煙になって消えてしまった。
さすが異世界、変わった蝙蝠も居る。
…
……
………
ごめん、無理です。
これ以上自分をごまかしきれない。
なにこの力、こんな力なんて要らなかった!!
どこかの漫画のキャラ張りに言ってみても何も変わらない。
体はデーモンの攻撃をものともしないスーツっぽいものに覆われている。
なんか夜で真っ暗だっているのに遠くまで見えるし、街の中での会話まで聞こえる。
超高性能。
だけど、だけどだ。
言葉はなんか変な叫び声になる。
そしてなにより、サイズが20mを超える巨人になっていた。
俺は泣いた。
「ジョアッ」
***エピローグ 平和な街***
ピカーン、ピカーンと額が光り出した俺は慌てて街から離れて、人の目に付かない場所で元の姿に戻れたわけだが、ちょっとと思って移動した距離は実は山ひとつ越えていた。
戻ってこられたのは翌日の昼過ぎであった。
「大賢者様、ばんざーい」
いたる所で歓声が上がっている。
街はお祭りムード一色だった。
「なにこれ?」
「おお、旅の方ですか」
気のよさそうなおっさんがどうぞどうぞと俺にもビールにつまみにと手渡してくる。
「実はですね。昨夜わが町にデーモンが現れたのです。しかも領主に成り代わっていたというから驚きです」
知っているよ、そんなこと。
「そこにさっそうと現れたのが大賢者ジークベルグ・ロンドル・ケミトルド様だ」
あれ?
「自らわざと捕まって牢屋に捕らわれた者たちを見事に助け出したのだ」
う~ん、たしかにあってはいる?
「しかしだ、それに怒ったデーモンがその本性を現して襲い掛かって来たのだ。あの時はこの街はもう終わったなって思ったね。けどだ、そんな俺たちに賢者様は神は俺たちを見捨てない、救ってくださると言ってくださったのだ。そしてその言葉通り、神々しい光の巨人が現れて悪魔を一捻りに倒してしまったのさ」
…
まだ語り足りないといったおっさんを放っておいて、一番人のいる祭りの中心に向かう。
「賢者さま~お話聞かせて」
「賢者さま、あ~ん」
特設ステージではもふもふした髭の老人を若い娘たちが取り合うように囲んでいる。
その脇でひたすら運ばれてくる料理を鳥が貪り食っている。
俺は棒を力強く握りしめたのだった。
読んでくださりありがとうございます。
ノリだけで書きました。
ひどい話だったと笑っていただければ幸いです。
読めば分かると思いますが、主人公が神様に頼んだ内容はすべてかなえられています。
ただ、3つに収めるためにいろいろと歪んでいますが。
でこぼこパーティの珍道中など好きなので、そのうち長編で連載できればなんて思っています。
さて、次回は連載を更新予定なのでそちらもよろしくお願いします。
ああ~ピンチを打開するためのアイデアが浮かば無い!!