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第八話 圭介

 事件から一週間が経った。未だに警察は犯人を捕まえることができないようだ。圭介は、犯人らしき男を目撃している。圭介の話をもとに警察が描いた犯人の似顔絵は、その男が犯人であるという十分な証拠がないため、公開はされていない。

 警察は一体何をしているんだ。一刻も早く、娘を殺した犯人を捕まえてくれ。とは思っていなかった。殺された優花の葬儀の際にも、担当刑事である三村がやってきて、焼香とともに捜査に進展がないことを謝罪してきたが、圭介も、妻の美咲も、下手に犯人が警察に捕まることを望んでいなかった。

 顔は分かっている。なんとかしてあの男…額に大きな傷のあるあの男を見つけ出す。警察ではなく、俺達夫婦で。優花を殺した報いは、この国の刑罰ではなく、俺達が受けさせる。もし見つからなかったとしても、娘を殺した後にわざわざその父親に会いに来るような挑発的なことをする犯人だ。必ずまた何かしてくる。圭介と美咲はそう決意していた。


 圭介は仕事を辞めた。どのみち、復讐が完遂すれば仕事も必要ない。圭介と美咲はマンションを出た。度重なる嫌がらせと、近隣住民の家や車にまで被害が出始めたからである。真っ先に被害にあったのは大神婦人だ。圭介と美咲は心からの謝罪をしたときも、大神婦人は

「伊原さんたちは何も悪くないのよ。優花ちゃんだって何もしてない。悪いのは犯人と、事件を悲しむふりをしながら、毎日ニュースに取り上げてるマスコミよ。何も気にすることはないわ」と言ってくれた。

 

 ホテルに生活の拠点をおいてそろそろ一週間になるというころに、それは起こった。

 目を覚ますと美咲がいない。ベッド脇の時計を見ると午前六時。この一週間、こんなことはなかった、という思いが圭介を不安にさせた。優花のときと同じだ。優花が殺され生きる支えを失った。復讐という、生きる為の新しい足場を創り上げた。圭介は今、その足場がもろく崩れ去っていく幻想を抱いていた。携帯を手に取り、美咲に電話をかける。手が震えているのがわかる。コール音が繰り返し、圭介の鼓膜を震わせる。その音が徐々に強くなっていくような気がして、圭介は電話を切った。とにかく、探さなければ──しかし、どこを?圭介の前には一歩を踏み出すための足場がない。そのとき、手に握ったままの携帯が鳴った。画面には『三村』と表示されている。優花の事件の担当刑事だ。恐る恐る、通話開始のボタンを押す。聞こえてきた三村の声は、圭介に最後に残された生きる希望が、踏み出すことはおろか、今自分が在る地点までもが、崩壊していくことを告げた。


『伊原さんですか? その……誠に申し上げにくいのですが、奥様……美咲さんがご自宅のマンションから、投身自殺を──』

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