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第五話 「探偵」

 その男から連絡があったのは昨日のことだ。

 下半身が動かないという理由からか、この病室では携帯電話の使用が許されていた。といっても、私の携帯電話は事故の際に破損していたようで、見慣れない古いタイプの携帯電話を、医師から渡された。

「あなたにどうしてもご用事のある方だそうです」

 医師はそれだけを言うと、病室から出ていった。誰からだろう、と考えても知り合いはおろか、自分の記憶すらないのだ。とりあえず出てみるかと思い、保留になっていた携帯の通話再開ボタンを押した。


「もしもし」

 自分が何者かわからない状態でも、相手の分からない電話は不安になるものだな、と私は少し可笑しくなった。少し間をおいて、男の声が向こう側から聞こえてきた。

「伊原と申します。捜査の依頼をお願いしたいのですが」

 捜査──。依頼──。何のことだ?

「あなたは、一体…」何を言っているんだ、と言いかけたところで、伊原と名乗る男が話を遮った。

「私は、ある事件で娘と、妻を亡くしました。その事件の犯人を見つけていただきたいんです。探偵である、あなたに」

 探偵……伊原と名乗るこの男は私を探偵だと言う。しかし、私にはその記憶が無い。本当に──?いや、しかし──。

「警察も捜査をしていますが、一向に進展がありません。自分で調べるのにも限界があります。知り合いからあなたの話を聞いて、それで──」

 伊原は暗く、重い声色でまくしたてる。知り合いから聞いた、ということは私は以前にも同じように探偵として活動していたということか。探偵という仕事をどの程度行っていたのか、優秀であったのか、一人だったのか、複数名のグループだったのか。気になることは多くあるが、医師から聞き出すことが出来ない自分に関する情報をこの男は持っているのだ。ならば──。

「そうですね。電話ではなんですから、直接お会いして伊原さんのお話を伺いましょう。私は今、理由あってK病院に入院しています。病室まで来て頂いてもよろしいですか」


 そして今日、伊原圭介が病室を訪ねてきた。

 伊原圭介は、悲しいであるとか、怒りであるとか、そういう自分の感情を一切交えず、事件の概要を私に伝えた。胸の痛くなる事件ではあったが、それ以上に、非常に無感情に話す伊原圭介に対し、私は驚いた。娘を殺され、センセーショナルな事件の報道過熱の果てに妻が自殺。警察も頼りにならず、尽くす手の無い状態が、彼をそうさせたのだろうか。あるいは──。

 多少の戸惑いもあったが、彼、伊原圭介からの捜査依頼を私は引き受けることにした。

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