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第四話 「探偵」

 病院のベッドの上で目覚めてから数日が経過した。昼と夕方に行われる医師との会話によって、私は自分の置かれた状況を幾分か理解し始めていた。


 なぜ病院にいるのか。

 怪我だ。目覚めた直後は意識が朦朧としていて分からなかったが、いざ分かってみるとこんなに単純なことはない。足が動かないのだ。鈍痛に耐えながら上半身を動かすことはできる。下半身を動かそうと意識することもできる。しかし、私の腰より下の肉体は、まるでベッドと一体化しているかのように微動だにしない。医師の話では、骨折した際に神経の幾つかを切ってしまったことが原因らしい。もっとも、下半身だけでなく、頭も強く打っていたそうで、意識が戻るかすら怪しい状態だったという。


 なぜそんな怪我をしたのか。

 これについては医師は最初歯切れが悪かった。交通事故によるものだと聞かされたのがつい昨日のことだ。車に撥ねられた状態で、大量の血液を失い、病院に運ばれてきたのだと。そのときの様子は担当の看護師から聞かされたが、熱を帯びたその看護師の語り口に私は適当な相槌しか返すことができなかった。それよりも、私が撥ねられたのだとすると、当然ながら私を撥ねた人物がいるはずである。それについて聞くと、看護師は急に神妙な顔付きになり、医師から聞いてくださいとだけ告げて病室を出ていった。その後医師から、犯人がまだ捕まっていないことを聞いた。


 私は誰なのか。

 目覚めたあと、すぐに医師からいくつかの質問をされた。足の感覚はあるか、頭や腕などの上半身は動かせるか、聴覚や視覚に問題はないか。私の返答はどれも彼の想定通りだったようだが、記憶がないということを医師に伝えたとき、彼はハッとし、悲観とも安堵ともつかない表情を浮かべた。

「そうですか」とだけ彼は言った。私は、日常生活に必要な情報は覚えていること、自分自身に関することは出生から事故に至るまで何一つ覚えていないことを話した。

 彼は「事故のショックによる記憶喪失、一時的なものかどうかについては検査をしていかなければなりませんが、今は体を休めることが最優先ですよ」と言い、その後は病院に関する注意事項や今後の検査の予定などを、ひどく事務的な口調で教えてくれた。

 私自身は現在に至っても、記憶がないことにこれといった感慨を持っていない。というよりは、これは誰か別の人物のお話で、私はその人物の肉体を通してそれを垣間見ているだけなのではないか。そんなふうにぼんやりと考えていた。これも記憶がないことが原因なのだろうか。自分が誰なのか。今までどういった生活をしてきたのかについて、さほど興味を持てないでいた。


 そして──

 目の前にいるこの男は誰なのか。

 私を「探偵」だと言ってくる、この男は──

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