第一話 「探偵」
目覚める直前、深い眠りの中にいることを「私」は意識した。
暗い闇の中、うっすらとした光が徐々に光量を増していく。
広がっていく光をみつめる。
『目の前』に、自分の影が在る。
「私」はこれが夢であることに気づいた。
暗闇が光に飲み込まれていくのに反比例するように、影は濃さを増していく。
「私」はその影に手を伸ばし──
目を開けると、それまで以上の眩しさを感じ、思わず目を細めた。少しずつ、ゆっくりと光の世界が輪郭を帯びていく。朧気だった輪郭は、ゆるやかにその形を取り戻す。
目の前には、白い天井。視線を下げれば、白いシーツ。窓の外には、雪と街が作り上げる白い世界が広がっている。ここは──病院?
目を覚ましたのは病室のベッドの上。部屋には誰もいない。右に目をやると、ナースコールのボタンが見えた。手を伸ばそうとし、身体が言うことを聞かないのに気付いた。手だけではない。足も、首を動かそうとしても鈍い痛みが走る。
未だ眠りから醒めていない肉体に少しずつ力を加えていく。指先に力を込め、手を握る。次に手首、腕と意識を移していく。ようやく右手が動かせるようになると、額には汗が滲んでいた。横になったまま、右手をボタンへと動かす。鈍い痛みは一向に収まらない。一体、これは──
ようやくボタンに手が届いた。力を込め、それを押した。
すぐに扉の外から騒がしい足音が聞こえてくる。スライド式の扉が開き、眼鏡をかけた中年の医師が血相を変えて飛び込んできた。医師は私と目が合うと、「何か」を叫んだ。それが何か、聞こえなかったわけではない。ただ、「それが何を意味するのか」が分からなかった。
そしてようやく、「私」は気付いた。瞬間、背筋が寒くなる。それまで抱えていた鈍い痛み以上の悪寒が「私」にのしかかってきた。
ここは、病院。目の前にいるのは、中年の医師。それは分かる。
では、「私」は──?
「私」は──誰なんだ?