SIDE アザとー プロローグ
SIDE アザとー
はっと目を覚ますと、天井は薄明け色の、本物の空だった。何が自分の身に起こったのか、一瞬では理解できない。深い酔いが思考を妨げる。
一つだけわかっているのは、ここが東京のどこかであるということだ。
「確か昨夜は……」
私が東京入りしたのは弟の引っ越しの手伝いのためである。その日当の代わりにと飛び切りうまい酒を散々おごってもらい、終電を逃した。
泊っていけと言われたから、弟とその嫁さんと三人でタクシーに乗り込んだ記憶はある。ラーメン屋の前で降りて、酔い後の小腹を満たそうとしたところまでは連続した形での記憶があるのだが、その後のこととなると断片的な一場面を無秩序につないだ曖昧なものしかない。
「うう……寒い……」
2月にしては暖かい夜であった。それでも春先のこと『凍死しない程度』の寒さに、体の芯までが冷え切っている。
「……帰ろう」
どのぐらい寝たのか。最後の店を出たのが午前3時、夜は明けきっていない。酔いがさめるほど寝込んだわけではない。立ち上がれば、残酔で頭がぐらぐらと揺れた。
未だ酩酊。
それでも暖かい布団にもぐりこみたいと、ただそれだけを考えて、千鳥足で歩き出す。
これが事態をさらに悪化させることになろうとは――