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そして勇者は世界を知る/やがて魔王は対峙する  作者: るい
現代日本に勇者は必要ですか?/羊と兎と濡れ烏
5/24

5話目: 勇/ 箪笥の角に小指をぶつけた時の親父の反応

どうやら予約投稿ができていなかったようです・・・。

遅れてすいません。

 リリィと遭遇したのがすでに夕方だったこともあり、服屋から出る頃には辺りは真っ暗だった。

 明日もバイトが入っていることもあり「今日はお開きにしましょうか」と切り出そうとしたところで、リリィに行く当てがないことに気が付いた。

 普段ならネカフェという超経済的ホテルをお勧めするところだが、勇者(一文無し)にはその宿代すら払うことはできず、また、俺の財布も風前の灯であった。


 そんなわけで俺はリリィを連れて自宅まで戻っていた。


 「ただいま~」


 「おかえり~」


 玄関に入り声に出して帰宅をアピールすると、一人の女性がキッチンから出迎えに来てくれた。いうまでもなく、我が麗しき母君である。小動物のような小柄さと、そのクセいまいちやる気の感じられない目元が今日もチャーミングである。

 「小柄」という言葉からわかると思うが俺と違ってデブじゃない、むしろ子供かというぐらいちっちゃ細い。

 一方親父の方は横幅が俺と同じぐらいだが、その体の8割は筋肉でできている。警察官だから鍛えているのだろうが、母君の話によると学生時代からこんな(筋肉ダルマ)だったそうな。

 頑丈さも折り紙つきで、以前箪笥の角に小指をぶつけた時の親父の反応は「お?」というものだけである、一方蹴られた箪笥はというと脚が当たった部分が丸々抉り取られているという見るも無残な姿になっており、それ以来親父の逆鱗にだけは触れないよう細心の注意を払って生きている。


 信じられるか?俺、あの二人から生まれたんだぜ。


 一時期、自分が本当にあの親から生まれたのかという疑問に悩まされたが、そこは俺の数少ない友人(一人)に励まされ、グレることもなくここまで育つことが出来ました。


 やはり持つべきものは友達である、うん、京都ちゃんマジ天使。

 そういや京都ちゃんなんて言って励ましてくれたっけ?たしか「大丈夫、それただの突然変異だから」だった気がする。

 あれ、これ励ましてなくね?


 「おじゃまします」


 ふと俺の後ろから聞こえた声に、母君が応じるために顔を向ける。


 「珍しい、お客さんがいるのね。・・・って、あら?」


 そして、母君はやる気のない目を少しだけ見開いた。


 「外人さん、どうしたのこのこ?」


 「京都の知り合い、旅行でこっち来たらしいんだけど財布を無くしたらしい」


 母君の疑問に、俺は流れるような嘘でごまかした。


 「ふぅん、それは災難だったわね」


 まったく疑わないその無関心さ、相変わらず素敵すぎます、そして俺の心は罪悪感に苛まれてます。


 「そうなんだ、本当ならそこら辺のホテルに泊まる予定だったんだが、金がないから泊まれないし、かといって京都んとこは結構離れてるし少しの間家においてくれないか?」


 「いいわよ~、ただし自分の部屋に泊めてね」


 知らない人間が家に上がりこむというのに二つ返事で了承である、実にやりやすいことこの上ないが、少し聞き捨てならない言葉も聞こえた気がする。


 「いやいや流石に俺の部屋はまずいだろ、年頃の男女だぞ?」


 「仕方ないじゃない、空いてる部屋なんてないし」


 「そんな馬鹿な、兄貴の部屋はどうしたよ?」


 「義輝よしきの部屋は今物置よ、一人で片付けれるならそこでもいいけど~」


 哀れ思春期時代を共に過ごした兄貴の部屋は、今や物置になっているらしい。この女鬼ではなかろうか、いや、自宅の一室が物置となったことにすら気づかない俺もどうかと思うが。


 ちなみに、客間が物置であることは知ってました、はい。

 客間の惨状を知っている身としては、あれを一人で片づけるのはそれ相応の覚悟が必要になってくる。個人的には絶対にやりたくないレベル。


 「ヨシフミ、私は構わない、贅沢をいっていられる状況でもないしな。母上殿、名乗るのが遅れてしまい申し訳ない、私はリリィ・オートというものです、どうか少しの間この家で暖をとらせてはもらえないだろうか」


 「いいわよ~、よろしくねリリィちゃん。じゃあ私は夕飯の続きに戻るから、出来たらまた呼ぶわね」


 俺が片づけへの葛藤していると、それに見かねたのかリリィが助け船をだし、母君は相も変わらず二つ返事で了承してしまった。

 さらに話は終わりだとばかりに母君はさっさとキッチンに戻ってしまったので、いまさら撤回することもできない。


 俺たちは玄関に取り残された。


 「な、なんか悪いな」


 「状況が状況なだけに最悪野宿も覚悟していたんだ、そう考えると比べるのもおこがましいくらいだ。それとも、ヨシフミがいやなのか?」


 「そんなことはないけどさ・・・・」


 「なら決まりだ。迷惑をかけるがよろしく頼む」


 そういってリリィは笑う、俺に手を差し出しながら。


 「そうか、なら俺ももう何も言わない。こちらこそよろしく」


 俺はその手を少し眺め、一度大きく息をついてその手握り返した。そして半ば自棄になってそんな返事をしたのだった。


 それからはリリィを部屋に案内し、部屋に布団を持ち込んだ辺りで親父が帰宅してリリィを発見。外人美女に狂喜乱舞し錯乱気味に俺に初孫を要求、それにリリィが照れ笑いを返し(訴えれば勝てると思うぞ)、親父が落ち着きを取り戻したあたりでみんなで夕食を食べ、順番に風呂に入って(なぜか親父は最後に入りたがった)就寝となった。


 どちらがベッドでどちらが布団かの悶着は起きなかった、いくらベッドとはいえ普段自分が使っているものを女性に使わせるのはどうかと思うし、リリィはリリィで布団に興味を持っていたからだ。


 そして現在、ベッドの下からは規則的な寝息が聞こえる。もちろんリリィの寝息である、電気を消して五分ほどで聞こえてきたあたり相当寝つきがいいようだ。


 俺はと言えば、そこらの一般男子宜しく寝息が気になって眠れずにいた。なんどか寝返りを打ち、最終的に寝ることをあきらめて京都にメールすることにした。


 『美女が隣で寝てる件について』


 返事はすぐにかえってきた。


 『ごめんだけど、取り込んでるから返事できない』


 つれない返事が・・・。


 「はあ・・・」


 気を紛らわせるすべを失い、ため息をついて天井を見つめた。

 今日いきなり日常が消え去って、非日常と共に美少女が隣で寝てる。正直な話、いまだに実感がわかない。

 かといってこれが夢かと言われれば、間違いなく現実なわけで。


 「なんなんだろうな、この状況」


 思わず漏れた俺のつぶやきに、当然ながら返事はないのだった。

ようやく一日目が終了です、ですので夜に「やがて魔王は対峙する」も投稿する予定です。

よかったそちらも読んで頂けると嬉しいです。

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