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そして勇者は世界を知る/やがて魔王は対峙する  作者: るい
現代日本に勇者は必要ですか?/羊と兎と濡れ烏
4/24

4話目: 勇/ サンタ帽をかぶったパンダさん

 古今東西女性の買い物は長いと聞くが、それは異世界の少女も同じの様で、服屋についてからかれこれ二時間がたとうとしていた。

 入店当初はリリィのゴテゴテした格好にドン引きだった店員も、今ではリリィに慣れたのか普通に服を勧めているし。普段女性ものの服屋に入ったことのない俺も、最初こそキョドっていたが今では置物に徹することができている。


 だって女性客と目が合うだけで、絶対零度の視線が返ってくるんだもん、店員に至っては俺の顔見た瞬間電話を手にしていたし。リリィが近くにいなかったら、サンタ帽をかぶったパンダさんが来ていたかもしれない。

 むしろ確実にそうなるヴィジョンが見えた、どうやら俺は未来予知ができるらしい。

 そして再び対峙するおじさん警官、その瞳にもはや光は宿っていなかった・・・。


 そんな不幸な未来を回避するべく、俺に何かできることはないかとあたりを見回し、突き刺さる視線に心を砕かれ、そして動いてはいけないということを学んだ。


 コツは思考すら止め無心を極めることだ、もしくはただ数字を数えることに没頭する。それにより視角情報に惑わされることがなくなるのだ、ここであと四時間過ごせと言われても今の俺ならば造作もないだろう。ためしに今から実演してやろう。

 羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、スヤァ・・・。


 「なあヨシフミ、・・・ん、あれ?ヨシフミ?お~いっ」


 「へぁっ!?」


 いつの間かリリィが俺を呼んでいた、無心を極めすぎて気づかなかったらしい。

 危ないところだったぜ。


 「そ、そんなに驚くとは、なんかすまん・・・。一応、何度か声はかけたんだぞ?」


 そういってイスに座る俺を見下ろすリリィ、俺を驚かせたことを気にしているのかその顔はやや不安げだった。そのせいかその体はこちらに傾けられており、リリィの顔はすぐ傍にある。

 あらやだこの子、伏せたまつ毛がとても長い。


 「ああいや、こちらこそ悪かった。瞑想して精神を研ぎ澄ませていたんだ」


 よもや「暇すぎて寝てました」などと言うわけにもいかず、とりあえず適当に誤魔化そうとしたが、何を思ったのか逆にリリィは食いついてくる。

 さっきの不安げな顔はどこへやら、今度は嬉々とした顔を寄せてくる。


 「まさか、なにか見えたのかっ!予言が見えたのか!?」


 だから顔が近いって、乙女の鼻息がムフムフかかってきてるから。色気なんて吹っ飛ぶレベル鼻息荒くなっちゃってるからっ!。


 「見えたけど、大したことじゃなかったな。本当に取るに足らないことだったよ、うん」


 さらにごまかしながら、やたらテンションの上がったリリィをなだめる。


 一応嘘は言っていない、本当に見ている。おじさん警官の光を失った瞳を、二時間ほど前に。予言でも何でもないが・・・。

 あと予言が見えるってなんだよ、見えるのか?いや、聞こえるだろ。聞こえねーけど。


 「そうか、それは残念だ・・・。神の言葉をすぐ傍で聞ける、またとない機会だと思ったんだが」


 そう呟いて、今度は悲しげな顔をする。

 そんなリリィを見てると少し申し訳ない気がしてくるが、別問題として神の言葉は「お告げで」あって予言ではないと思うの。

 つーか、そもそも俺預言者じゃねーし。今更訂正はしないがな、バレたら何されるかわからんし!


 「それよりどうしたんだ、俺を呼んでただろ?」


 「あ、そうだった。ヨシフミ私を見てくれ、どう思う?」


 そういって両手を広げてアピールする、見るとリリィの服は先程までとは違うものになっていた。

 少し細かく言うと、襟が首の半ばまであるヒートテックの茶色いシャツの上に、袖のない白いワンピースを着ている。動きやすさを重視したのかワンピースの丈は短かく、その中に見える黒いものはスパッツだろうか。

 色合いだけを見ると少し地味だが、リリィの長い金髪と日本人離れした顔のおかげでかなり印象が変わっている。

 足元は初めからはいていたブーツのままで、膝下からひざ上までその健康的な素肌が晒されて、活発さを醸し出している。

 個人的には黒タイツ派なのだが、これはこれでいいものだと思う。


 「お~、にあってるじゃん。動きやすそうだしいいんじゃないか」


 良いものには惜しみない賞賛を、俺は思ったことをそのまま口にした。実は「すごく・・・大きいです・・・」と言いそうになったのは内緒だ。


 「そうだろう、私も一目見て気に入ったんだ。ここの店主はよい目利きだ」


 リリィは嬉しそうに店員に目を向け、褒められた店員は恥ずかしそうに照れており見ていてとても微笑ましい。

 でも知ってるか、あの視線がこちらに向くときは絶対零度になるんだぜ?

 ああ、世界はなんて非常なのだろう。そして俺がここにいるのは非常識なんですよね、ここ下着とかも売ってるし。

 でもお外寒いししょうがないよね!俺は悪くない、むしろ暖かくてベンチのあるこの店が悪い。うん、きっとそう。


 「服はそれでいいな、支払いを済ませるから少し待っててくれ」


 「わかった。本当にありがとう、この服は大切にする」


 満面の笑みを見せるリリィ、その屈託のない笑顔は咲き誇る花のようにも見えた。

 そんな笑顔に軽く手を上げて応じ、ついでにクリーム色のコートを手に取ってレジへと向かう。


 「15,700円が一点、1,200円が一点・・・・・・・」


 服からバーコードを取り外しレジに通す店員を待ちながら、先ほどの花のような笑顔を思い出し、自然と自分の口から笑みが漏れる。

 そして・・・。


 「合計で89,630円になります」


 その口からは悲鳴が漏れた。

服の値段は知人と買い物に行った時の実際の金額を参考にしています、もちろん会計は知人のものです。金額を聞いたときは、少しの間あいた口が塞がりませんでした。

ユニクロ派の自分には縁のない金額ですね。

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