3話目: 勇/ コスプレオプション可!!(料金別)
朝一で緊急の仕事が入り、お昼までに戻れそうになかったため代理投稿してもらいました
歩きながらこの世界、主にこの国についてリリィと話した。話してわかったのは、やはりリリィは異世界から来たんだろうな、という漠然としたことだけだった。だって文化が違いすぎるし、文明も2、3世代ほど遅れてそうだ。
ようするに、何言ってるかわかんない。ただ、話したことに意味はあったようで、いつの間にか会話も弾むようにはなった。
自己紹介の時の気まずさが嘘のようである。
外(異世界)人、金髪美女と会話を弾ませる俺、まじリア充。
でも次は、新しい問題に気付いたわけで。
勇者と街に繰り出してからというものの、俺たちは道行く人の視線を集めていた。
ただその視線は美少女を引き連れていることの羨望ではなく、軽めとはいえ鎧をガチャガチャ言わせながら歩いている美少女への恐怖の視線である。
でも逆に考えると、そのおかげでいつもは歩きにくい街中の人ごみも、今日は真ん中をゆったりと歩くことができる。だってリリィの格好を見たら道を開けてくれるんだもの。
さながらモーゼにでもなったようで、実に気分がいい。見ろ、人がゴミの様だガハハ。
あ、おまわりさんがこっち見てる。
「君たち、ちょっといいかな」
はい、目が合う前に顔をそむけたけどダメでした。
諦めて立ち止まった俺たちに、いい感じにハードボイルドなおじさん警官が話しかけてきた。君たち、とは言ったもののおじさん警官の視線はずっとリリィに向けられている。
この視線にいやらしさが混じっていれば「おまわりさんこいつです」でも発動しようと思ったけど、残念ながら視線には警戒と疲れの色しかない。多分疲れてるのはもとからだと思うけど、あとよく考えたらこいつおまわりさんです、俺の秘策通じねえ。
「何してるのか教えてもらえないかな。彼女の方、中々珍しい格好してるけど」
とりあえずジェスチャーでしゃべらないように伝えて、おじさん警官の前に出る。
かといってどうすればいいんですかねこれ?
コスプレです、なんてわざわざいう必要はない。おそらくは向こうもそう思っているはずだからだ、その上で声をかけて来たとなると多分身元の確認ぐらいはされるだろうし、そうなるとリリィは逮捕待ったなしだ。なにせ先ほど世界を超えてきたばかりだ、パスポートの準備はおろか存在さえ知らないだろう。
かといってここで逃げたら、今後この付近には近づくことができなくなるし、撃退したら指名手配のおまけまでついてくる。
あれ、これ詰んでね?
つーか人が俺たちを避けてた時点でリリィの格好について気づくべきだよね。何俺気分よくなっちゃってんの、人がゴミの様だガハハて俺はアホか。
実のところリリィが捕まっても俺が不利益をこうむることはないが、その場合、おそらく一緒にいた俺も捕まることになる。さすがにそれは御免こうむりますんで、まじめに考えることにする。
とりあえずどうすっかな、街中で外人がコスプレしててもおかしくない場所ってどっかあったっけ?あ、あったわ。
「えっと、この格好はですね・・・その~・・・・」
わざとらしく、俺は口ごもりながらある場所をチラ見する。その先にはある程度の規模の町には大抵ある風俗の看板、そこには「60分15000円」という文字とその下には「コスプレオプション可!!(料金別)」と書いてある。
わざとらしい俺の視線に気付いたおじさん警官は、一度そちらに目を向けて再びこちらを向き直る。向き直ったその眼には先ほどよりも色濃い疲れが滲んでいた。
「ああもういいよ、大体分かった」
「あはは、時間とらせちゃってすんません」
「ここは公共の場なんだから、少しは周りに気を使いなさい」
「へーい」
そういって去ってゆく警官に、俺は愛想笑いをしながら見送った。去り際の警官は疲れのせいか、ふらついてるようにも見えた。
「なあヨシフミ、さっきの人はなんだったんだ?なにやらほかの人とは違った格好をしていたが」
おじさん警官がさったあと、リリィが俺にそんなことを尋ねた。自分の事は棚に上げたままで。
「あの人は警察っていう職業をしている人の格好だな」
「警察か、あの服を着ていたということはまさに仕事をしていたんだろう?仕事中に私たちに声をかける暇があるのか?」
「警察の仕事の中に街の平和を守る、というものがあるんだよ。だから怪しい人間を調べるのも仕事の一環なんだ、さっきのも仕事の一環だよ」
公務員とはいっても、巡回してる制服警官の待遇はブラックといっても過言ではないかもしれない、俺の親父も昔はあんな感じだった。
以前バイト先の先輩が白黒のパトカーをサンタ帽をかぶったパンダ、などと表現していたが、俺にはあの黒色が隈かなにかを表しているようにしか見えない。
お勤めご苦労様です、いやホント。
「なるほど、やはりどの場所にも秩序を守るための役職はあるんだな。ところでヨシフミの話の通りだとすると、私たちは平和を乱す疑いをかけられたということになるが・・・」
そう言って、思案顔で首をかしげるリリィ。やっぱ気づいてなかったか。
「さっき歩きながら話したけど、この世界は比較的平和だ。少なくともこの国に戦争はなく、食べることにすら困る人間はそうそういない」
「そうだったな、初めて聞いた時には驚いた。この国の偉人たちは実に聡明な人たちだったんだろうな」
「昔の人たちに関してはある程度同意するとして、今はそのことはおいておこう。なんにせよ、ここは戦争の無い国だ、そんな国に戦うための道具は必要ないだろう?」
「なるほど!たしかに、必要のない物を持っているのは怪しいな」
「そういうこと」
戦争をしないというこの国の方針に感銘でも受けたのか、リリィはしきりに感心している。そして剣をどこかにしまった、いやホントどこにしまった。
俺も国の住民として、それらしく抗弁を垂れてみたものの疑問を感じないわけではない。
確かにこの国に戦争はないが、争いがないわけではない。ご近所さんがみな仲良しということもなければ、個人的に嫌いな人間だっている。
現に俺は仕事が嫌いだ、働きたくないでござる!絶対に働きたくないでござる!!違う、そうじゃない。
まあ話を戻す。武器の所持を禁じるということは、ほかならぬ自衛権の剥奪であると俺は思う。十人十色というように人には個性がある。温和な人間、気さくな人間、果ては気性の荒い人間と、内面だけ見ても多種多様である。それはもちろん外見にも通じるもので、小柄な人間、大柄な人間、筋肉質な人間、俺のようなデブといろいろである。
そこで一度過程の話をしてみる。大柄な人間が小柄な人間を襲ったとして、はたして小柄な人間は自分の身を守ることができるのだろうか?
もちろんこの国の決まりにのっとって、お互い素手であるとするし、小柄な人が実は武術の達人でしたなどという茶目っ気もない。だとすると小柄な人間は、自分の身を守ることはできないだろう。
だが国としてはまた考えが違うのだろう、そもそもこの国の法律は、争いが起きないことを前提としているように思う。そしてそのために警察機関があるのだろうが、これらは実際にことが起きなければ動かない。
今殺されそうな人の求める助けに対して「じゃあ、あなたが死んだら犯人捕まえますね」と言っているようなものなのだ。
まあそれが嫌ならこの国でてけ、という話なんだが。
「ところでヨシフミ、この国での衣服というものはどれほどの価値を持っているのだろうか?」
そして俺の哲学(笑)は、リリィの声によって中断された。
見るとリリィの困り顔がそこにある。
「悪い、考え事してた。どうした?」
「この国で私の格好が悪目立ちすることは分かったが、かといって他の服を持っていないのだ。かといってお金もないし、この国は物々交換には応じてくれるだろうか」
「いや物々交換て・・・」
もしかしてこの子、今着てる服を脱いで交換してもらうつもりかしらん?古着屋ですら断られるのが関の山だと思う。
持ちかける相手によっては喜んで応じてくれるかもしれないが、かといってそれをさせるのも酷だろう。リリィ本人がそれをどう思うかはわからないが、そこに立ち会うことになるであろう俺自身が嫌だ。
まあそうなると、どうするかは決まっているわけで。
「多分物々交換は無理だと思うから、今回は俺が何とかするよ」
「本当か!?」
「良くないからって、流石にそのままってわけにもいかないだろ?」
「ありがとう!この借りは必ず返すからっ!」
「守ってくれるんだろ?ならそれでチャラってことで、じゃあ行こうか」
そんなわけで、俺たちは服屋に行くことになった。
服屋で通報されないことを切に願う。