1話目: 勇/ デブだからってバカにすんな!
だいぶ前に放置してたものですが、書き溜めたんで再び投稿しようと思います
「お疲れ様でした~」
今日もしっかり定時上がり、一際明るく挨拶をして俺の帰宅を宣言する。
社員突き刺さる憎らし気な視線を優雅に跳ね返し俺は職場を後にする。
バイトって楽でいいね!というか、親のスネかじりが最高です。
そして帰宅。玄関を開けて荷物を放り、そしてそのままVモンキーで外へ出た。
アルバイトは社員と違って時給制のため、残業はほとんどない、少し暇を持て余すのがたまにキズだけど。
そんなわけで、暇を紛らわすために散歩をする。
友達からは「定職に就けよ」と馬鹿にされたりもするが、それでもこの生活を辞める気はない。ガチ切れはするけど。つーか友達の人生馬鹿にするってどうなの?そもそも人の人生にケチつける奴って友達って言えるの?
なんか、考えてたら腹たってきた…。
いっそエンガチョしてやろうかとも思ったが、ほかに友達がいないので今回は見逃してやることにする。
『プル…もしもし山下久しぶり、どうしたの?』
その代わりに電凸することにした。つか出るのはええよ、友達いねーのか。
いや、それは俺だ。
…虚しい。
「ハァ…」
『いきなりため息!?』
「いや、気にすんな」
『お、おうっ。それで、どうした?』
「うん、特に用はない」
『…切っていい?』
「だ・め♪」
『………』
呆れて物も言えないようだ。フフン、ざまあねえぜ!ってあれ、この流れはまずくない?
「ハイストップッ!冗談です、切らないで!」
『…それで、どうしの?』
「仕事終わって暇だったからさ、散歩しながら電話でもと思って」
『ホントに何の用事もなかったの!?』
そうツッコミを入れつつも、電話は切らないでいてくれる。なんだかんだと意外といいやつだった。
「そういやカズは仕事終わったのか?」
『さっき家に帰り着いたところ、そもそも仕事中は電話でないから』
「それもそうか。あ、ところでさ…」
俺たちは散歩しながら他愛ない会話を楽しんでいた。
いつの間にか、人気のない河原に来ていた。長電話するときはいつもここに来る、流れる水を眺めてると心が落ち着くよね。いつもなら。
『…山下?聞いてる?』
そう、いつもは。
「わり、聞いてなかった。」
河原はいつもどおりだったが、今日は水辺に人がいた。
『なにかあったの?』
俺の困惑が伝わったのか、電話の向こうから俺を心配する声が聞こえてくる。
公共の場、人気はないが人がいることはあるのだ。ただ、今いるのは。
「なんか、変な人がおる…」
鎧を着こんだ人物が河原で仁王立ちをしていた。
『変な人?』
「なんか、鎧着込んでる。」
『変な人というか変質者じゃん!え、なにやってんのその人?』
「すっげえキョロキョロしてる。あ、目があった」
バッチリ目があった、残念ながら人気もなく勘違いではないらしい。
『ちょ、マジで?やばくね?』
そして変な人はますぐに歩き始めた、俺と目があったままで。
「どど、どっ、どうしよう、こっちきたんだけど!?」
『逃げて、全力で逃げて!そしてさよなら!』
「なんでお前まで逃げるんだよ!」
『そりゃ変な人と関わりたくないし!じゃあね、頑張って!!』
うわ、マジで切りやがった。てかあいつはどこに逃げるんだよ。
いやいやそんな場合じゃねえ!、さっさと退散しねえと。まだ距離はあるし、全力ダッシュでなんとかなるか。そして俺は足に力を込め、軽やかに走り出す。
「君、ちょっといいかな」
すぐにバテていた、時間でいうと20秒くらい?そして俺は思ったね。
私の体力、低すぎぃ!。
「ゼェ…ゼェ…」
つーか、俺がデブだったのを忘れてた。
決して隠してわけじゃないからな!ただ焦ってただけだからな!
「大丈夫か?」
「ゼェ…ゼェ…ゼェ…」
てか俺変質者に心配されてね?実際はただビビって直視できないだけだよ。安心していなくなってください!
「そんなに苦しいのか?」
これあれだよな、デブのくせに無茶するからそうなるんだよ。とかそういう意味だろ、変質者にすら心配される俺ってどうなの?
虚しさ通り過ぎてなんか惨めになってきた。
「な、なあ…?」
「うるせえな大丈夫だよ!デブだからってバカにすんな!」
「ひゃっ!?」
とりあえず変質者に威嚇という名の鬱憤をぶつけたところ、思いのほか可愛らしい声が帰ってきて思わず顔を上げた。
鎧はゴツくはあるが丸みが目立つフォルム、多分女物。ということはこいつ実は女?ふと気になって顔確認してみた。
「金髪…美女だと!?」
驚愕の新事実、変質者は美女だった!しかも金髪。そして外人!・・・多分。
「美女、かな?」
あ、こいつ照れてる。ちょっとイラっとした。
そして髪なげえ、腰ぐらいまであるじゃんなぜ気付かなかった俺。まあよく考えてればこのご時世だ、鎧着てたからって逃げるほど危険なわけでもない。大方ただのコスプレだろう。
変質者に変わりはないけどな!
「ところで、本当に大丈夫か?」
そして美女は再び同じ問を繰り返した。
「体力には自信がないからな」
もはや、開き直って答えてやった。
「そうか、なら本題に入ろう」
流された、トラウマになりそう。
まあいい。どうせ近くでコスプレイベントでもあって、迷子になったというところか。道を教えるのは当然として他に余興の一つでもしてやろう。こちとら伊達に消費型ブ…オタはしていないのだ。
俺は乗るぜ、このビックウェーブに。
「お前は魔王を知っているか?」
金髪美女に割り込んでこちらから切り出した。
「・・・・・・・」
唖然としている。あれ、ちょっと予想と違う。予想ではノリノリでかぶせてくると思ったんだがむしろ引かれたっぽい。鎧姿のこいつに引かれるとかかなり腹立つんだけど、どうするよ。
などと考えていたら、金髪美女は満面の笑みを作った。
どういうことなの。
「君も魔王を探しているのか!?」
時間差で食いついてきた、焦らせんな。いや多分無理してこちらに合わせたに違いない。そうだよな、見ず知らずの人間に道を聞こうと声をかけたら中ニワードが返ってきたのだ、そりゃフリーズもする。
そう考えると少し不憫に思えた、俺が…。
「そうするとこの世界にいる君は預言者なのだな、いや本当に助かった。この世界の言葉がわからないので魔法を使ってみたのだがそれでもなかなかうまくいかなくてな、途方にくれていたのだ。」
うんごめん。せっかくだけどそこまではついていけないわ。テンションたけえよ無理すんな。
しまいには剣まで抜いたし、もう日は落ちたのにやたらテカってる。いやダメだろこれ、おまわりさん呼ばれたらアウトだろ、どう見ても金属にしか見えないし。鎧もガチャガチャうるせーし、コスプレってかただの不審者じゃん。
「さあ、この剣に誓おう。共に魔王を倒すと」
いや剣をこっちに向けられても。どないせいと。
てかこの剣、真剣じゃね?
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