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第7話





 カインとフィーナが宿に戻った後、夕食の時間となった。

 テーブルにはガラットの作った料理がずらりと並べられている。


「「頂きます」」


「……頂く」


「じゃ、遠慮なく」


 全員が席に着き、準備が整ったところで挨拶をするカインとフィーナ。

 晃一とウォーティスも各々の判断でガラットに声をかけ、食事に手をつけ始める。


「美味しい……」


 まず、山菜と野菜のサラダを一口食べたフィーナがその味に思わず呟く。

 山菜はアップルヒルの周辺で採れたばかりのものらしく新鮮である事がはっきりと解る。

 恐らく、野菜も収穫されたばかりの新鮮なものを使っているのだろう。

 それに味付けとしてサラダにかかっているドレッシングが更にその味を引き立てる。

 山菜と野菜とドレッシングと全てが絶妙なバランスで噛み合っていると言っても良い。

 そのサラダの味にフィーナは思わず感動する。


「これは……確かに素晴らしいな……」


 フィーナに同調するかのようにウォーティスも手をつけた料理の味に感嘆する。

 ウォーティスが口に入れたのはメインディシュとも言うべき肉料理。

 ほどよい焼き加減と肉を切り開いた時にあふれ出る肉汁が食欲をそそる。

 それに味付けには独自にブレンドしたスパイスを使っているのだろう。

 肉料理からは独特の香りがしている。


「ほっほっほっ。そう言って貰えると腕の振るいようがあるわい」


 この宿では初めての客であるフィーナとウォーティスの反応にガラットも満足する。

 自分の腕を振るった料理で喜んで貰えるのならば料理人冥利につきると言うものだ。

 カインも晃一もガラットの料理を食べる機会が多いためかその反応は普通だが、何時も美味しそうに食べてくれている。

 顔馴染みとなってもその料理は満足出来るものであるらしい。


「すいません、ガラットさん。これの追加をお願い出来ますか?」


「うむ、解った」


 勢いよく料理を食べているカインが更に追加に要求してくる。

 育ち盛りと言う事もあってかまだまだ食べる余裕があるらしい。

 ガラットはその様子に喜びを覚えながら応じる。

 久し振りにガラットの料理を口にするカインの食べっぷりは見ていても気持ちが良い。

 それは晃一の方も同じで勢いよく料理を口にしている。

 ガラットは食事をする一行が喜んでくれている事を実感しながら奥へと戻って行く。

 今夜は賑やかな夜になりそうだ――――。

















 ――――次の日










「さて、次の目的地だけど……」


 賑やかな夜を迎えた次の日、カイン達は旅立ちの時を迎えていた。

 昨日のガラットの手料理を存分に堪能し、疲れを癒やした一行。

 気力も魔力も充実している。

 ガラットの作る料理はそれほど美味しく、量も充分なほどだった。

 アップルヒルと言う山の中にある町にも関わらず、後を絶たず人々が訪れるのも納得出来るものだと言える。


「次はレーバストの街へと行こうと思う」


「レーバストか。……アルカディアでも最も大きな都市だったな」


「はい」


 カインの告げた目的地の名前にウォーティスも覚えがあると言った様子で頷く。

 レーバストの街はこの崩界でも有数の大都市であり、多くの人が集まっている。

 その大きさは街の全てを周るのに何日経過するのか解らないほどだ。

 アルカディアの都市の中でも最大の規模を誇り、人の集まりも非常に多い。

 もしかすると、アルカディアの主都よりも反映しているかもしれない。


「レーバストならアルカディアの状況も改めて確認出来ます。それに……」


「……なるほど、あの方がいると言われている場所か」


「……ええ」


 ウォーティスの含みのある言葉にカインも頷く。

 レーバストにはある一部の人間しか知らないとある場所がある。

 ウォーティスはその場所に顔を出したわけではないが……それを知っている一部の人間の1人だった。

 カインはアルカディアで行動している時は主にレーバストを拠点に動く場合が多く、父親と共に世話になっていた経緯からその場所を知っていた。

 そのある場所のいる1人の人物は崩界の事の多くに通じる人物でそれほどの知識量を持つ人間は世界を探してもそうはいない。

 カインもその人物に教えられた知識はもう数えられないほどである。

 そのお陰でこうして、旅をしていられるというのもあるのだが。


「あの人ならもう、フィーナとウォーティスさんの事も掴んでいると思いますし、アルカディア国内の情報も知っていると思います。

 まずはレーバストで話を聞いてから、アルカディアへと向かうのが良いと僕は考えているのですが……」


「反対する理由はない。私達が取るべき行動は君の言うとおりだろう。フィーナもそれで良いか?」


「はい。カインさんとウォーティスが決めたのなら私はそれに賛成します」


 カインの提案にフィーナも頷く。

 信頼出来る2人がそう言っているのだからフィーナには反対する理由は何もない。


「よし。なら、この方向で行こう」


 こうして、アップルヒルから次の街へと行く先が決まった。










 目的となる場所はアルカディアが誇る大都市――――レーバスト。












「……流石にこの周辺は治安が良くないな」


「まったくだぜ」


 レーバストへ向かう道の途中で現れた賊を一通り片付けたカインは溜息を吐き、晃一もそれに頷く。

 アップルヒルの周辺はこう言った賊や魔物も少なく、治安も良い。

 山の中にある町ではあるが道は整備されているし、徒歩で観光に来る人間の事も考慮されている。

 比較的、気楽に立ち寄れるように気遣いが行われているといっても良い。

 それに崩界の都市の周辺には結界が張られており、弱い魔物程度では近寄る事も出来ないのだ。

 裏を返せば、遠く離れれば離れるほど結界が弱まると言う事であり、危険も増していく。

 だから、アップルヒルから離れれば離れるほど魔物なども増えていき、治安も悪くなっていく事は無理もなかった。

 そういった傾向があるのは人の手があまり届かない所だからこそなのかもしれない。


「フィーナは大丈夫か?」


 賊を一掃したカインは剣を納めながらフィーナに尋ねる。

 その様子は全く疲れた様子もない。

 日頃から竜や魔物と戦っているカインは荒事に慣れている。

 時には複数の魔物に囲まれながら一人で切り抜けた事だってあるのだ。

 正式な訓練も受けていないような人間相手に後れを取る事はない。


「ええ、大丈夫です。カインさん」


 しかし、意外なのは落ちついているフィーナの様子である。

 こういった荒事には慣れていないのではとカインは思ったが、どうやらフィーナはそうではないらしい。

 寧ろ、普段からこう言った事に対処していたと言った様子だ。

 恐らく、竜に襲われていた時は丸腰だったから何も出来なかったのだろう。

 そう思えるほどにフィーナの振るう杖の動きは明らかに場慣れしている。

 一撃で相手の賊を吹き飛ばし、時には気絶させる。

 また、銃を向けられても瞬時に射線をずらして懐に飛び込む。

 フィーナの動きは対人戦に慣れている立ち回り方だった。

 特に相手を気絶させるだけで済ませるには力の差がなければ難しく、フィーナの力量が高い事を証明している。

 手加減や峰打ちといった芸当は戦う相手との技量の差が要求されるからだ。

 しかも、フィーナは魔法を殆ど遣っていない。

 純粋な杖術だけで賊を相手にしていたのだから見事である。

 杖を自在に振り回し、鋭い一撃で賊を撃退していく意外なフィーナの姿にカインは若干の驚きを覚えていた。


「こう見えて……私も戦う事はありましたから。それにアルカディアまで自分の足で行くんです。相応の力は持っていないと」


「なるほど、それは確かにそうだな」


 実際にそれを実践して見せたフィーナの言葉にカインは頷く。

 相応の力もなしにこうした旅なんて出来るはずがない――――。

 その事はカイン自身が身を以って知っている。

 自分だって1人で旅をするために必要とされる相応の力を身につけているのだから。

 晃一だってウォーティスだって当然、それだけの力を身につけている。

 だから、フィーナがこうして旅をしているのは決して不相応ではない。

 彼女は護衛1人だけと言う状態でもアルカディアへ旅をするに見合うだけの力を身につけているのだから。


「だったら、僕も気兼ねなく戦える。君になら後ろは任せられそうだ」


 フィーナの力を認めたカインは彼女に後方支援を任せられると判断する。

 元より、剣しか得物を持っていないカインでは戦闘では前に出るしかない。

 後ろが不安と言う事であれば立ち回り方も随分と難しくなる。

 だから、フィーナが充分な力を持っている事は有り難かった。

 自分の身を守るには全く不足しないだけの立ち回りを心得ているフィーナは魔導士としては間違いなく優秀だ。

 後方と言うのは信頼出来る仲間じゃなければ守れないだけに尚更そう思う。


「はい、任せて下さい!」


 フィーナもカインが認めてくれた事を嬉しく感じる。

 カインが再会して間もない自分をここまで信頼してくれているのだ。

 友人としてもそれは嬉しい事である。

 それにカインとはこのままアルカディアまで行動を共にするのだ。

 変にぎくしゃくしてしまっては元も子もないし、足を引っ張るなんてもっての外でしかない。

 だから、カインが信頼してくれているのが嬉しかったのである。

 今のフィーナは足を引っ張るだけの存在じゃないと認めてくれたのだから――――。
















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