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第6話






「そうか……フィーナは僕がいなくなった後に水の巫女になったのか」


「はい」


 カインとフィーナはそれぞれ今まで過ごして来た時の事を話す。

 フィーナはカインがクレセントを後にしてから正式に巫女の立場となったらしい。

 巫女とはこの崩界において水、火、風、地をそれぞれ掌る魔力を持つとされる女性の事を指している。

 要するに生まれながらにして自然の中に存在する魔力による祝福を受けた女性であると言えば良いだろうか。

 その中でも特に魔力に優れ、証となるレジェンドアームに選ばれた女性だけが巫女になる事が出来るのだ。

 無論、レジェンドアームに選ばれるには数多くの試練があり、優れた資質も要求される。

 その上で努力を惜しまず、自らを高める事に余念がない人格者でなくてはならない。

 悪しき心を持たず、自然の属性に身を委ねられる――――そんな人間が巫女として相応しいとされている。

 そのため、巫女となる人間は例外なく、心優しい。

 因みにフィーナは水の巫女にあたり、水のレジェンドアームに選ばれた人間である。

 レジェンドアームには正しい心とそれを受け止めるだけの器が必要だ。

 そう言った意味ではフィーナが巫女として選ばれたのは汚れなき純粋な水の魔力を持っていたからと言うべきだろう。


「だけど、その水の巫女であるフィーナがクレセントを離れてアルカディアに行く事になるなんてね」


「意外、ですか?」


「ああ……意外だと思う。アルカディアには火の巫女がいるはずだから」


 カインの言うとおり、アルカディアには火の巫女が存在している。

 同じ地に巫女が2人同時にいると言う事態になるのは異常であるとも言えた。

 巫女が各地に散らばっているのは世界各地における水、火、風、地の『自然四属性』と言われる魔力に由来しているからだ。

 自然四属性とは主に自然の魔力の事を指しており、崩界においては尤も浸透している力でもある。

 魔法を遣える人間は自然四属性のどれか一つを操る事が出来、魔力のある人間ならば誰でも扱える。

 その中でもフィーナは飛び抜けた魔力を持っており、水に関する魔法ならば殆ど遣えるとさえ言われているほどだ。

 フィーナが水の巫女として選ばれたのは伊達ではないと言っても良いかもしれない。

 そもそも、クレセントに水の巫女が存在している理由自体が彼の地が尤も、水の力が強いからである。

 崩界全体を通して言えば、自然の力の強い場所は北に水、南に火、西に風、東に地――――と分かれており、巫女もそれに伴って散らばっている。

 アルカディアに火の巫女がいるのも同じような理由であった。


「でも、君はディオンに招かれてアルカディアに向かっている。そう言った事情は関係ないんだろうと思うけど」


「はい。カインさんの考えているとおりです。私はディオン王子の妻になるために行くんですから」


「……違いない」


 尤も、実際には巫女がその力を強く持っている地を離れても大きな問題はない。

 あくまで巫女自身は何も変わらないからだ。

 強いて言うならばレジェンドアームを持つ人間が他国へと移るという点が問題と言うべきだろうか。

 特に巫女は崩界において、重要視されている存在であり、国の重鎮でもある。

 それが他国へと嫁ぐとなれば各国の力関係が大きく変わってしまう。

 対外的に見れば非常に大きな事であるが、カインは問題視するような事ではないと思っている。

 フィーナは純粋にアルカディアの王子であるディオンと結ばれるために行くだけなのだから――――。











「僕の方はずっと旅をしてきたけど、父さんが亡くなってからの方が修行の色合いが濃くなったかな……。

 自分の身とこの剣一つで竜と戦って、魔物と戦って……時には盗賊や山賊とも戦ったよ」


「そうですか……。カインさんはそうやって自分を磨きながら各地をずっと転々としていたんですね……」


 別れてからのカインがどのようにしていたかの話を聞いて、フィーナは驚きを覚える。

 フィーナと出会ったばかりの頃のカインは父親と旅をしているだけと言う少年だった。

 しかし、旅の最中で父親が亡くなった後はまだ幼い年齢であるにも関わらずに独力で旅を続けていたと言う。

 そんなカインの話にフィーナは吃驚するばかりだった。

 剣一つのみで竜と戦い、魔物と戦う。

 また、異形の姿のものだけでなく、時には賊といった者達とも戦う。

 これはフィーナから見ても異常なほどのものに見えた。

 確かに剣士はこの崩界においても数多く存在しているが、大抵は魔法か銃も扱う。

 だが、カインは剣のみで後は闘気を遣うと言う方法だけでのりきっている。

 フィーナの常識からすれば信じられないとでも言っても良い方法であった。

 何しろ、カインの父親も同じ剣術を使うと言われていたのにも関わらず、他の武器も使っていたのだから。

 魔法も銃も崩界では一般的な手段であり、誰もが使っている武器であり、術でもある。

 それにも関わらず、該当しないカインは余りにも常識を外していると言っても良いのかもしれない。


「今では珍しいと言われているよ。やっぱり、魔法を遣えない人間が銃すらも使っていないのは貴重だって」


「それはそうですよ。ウォーティスだって剣と魔法の両方で戦っているんですから」


「僕からすればそんなに驚く事でもないと思うんだけど……ね」


 尤も、他の人間がその様に見てもカインからすれば普通の事であるため、どうも思わない。

 剣で魔物や竜と戦うのは普通だとすら思っているくらいだ。

 父親と共に旅をしていた頃もカインは剣のみでずっと戦って来ている。

 今更、他の手段なんて考えられない。

 剣術と闘気のみを磨き続けたこの身は既にそれに特化しているのだ。

 後はとことん剣と闘気を扱う術を極めるのみだ。


「まぁ……結局のところを言えば、今も昔も変わってないからね。何とも言えないかも」


「ふふっ……カインさんらしいです」


 そんなカインの様子を見て、フィーナから笑みが零れる。

 フィーナの知っているカインとあまり変わっていない事が嬉しかった。

 何時も真面目で、真っ直ぐで。

 自分の歩みを決して止めない勇気のある人。

 それがフィーナの知っているカインと言う少年だった。

 互いに成人の儀を迎えているのもあって色々と変わってしまったと思っていたが――――。

 カインとフィーナは互いの関係がそのまま続いていると言う事を実感し、喜びを覚えるのだった。











「さて、そろそろ戻ろうか。コウイチとウォーティスさんが待っている」


「はい、カインさん」


 一通りの話を終えて、2人は宿へと戻る。

 話していた間は気付かなかったが、思った以上に時間が経過していた。

 さっきまでは夕方だったはずなのに既に日が沈んでいる。

 懐かしい話に互いに思いを馳せていたらしい。

 まぁ、それも無理はないのかもしれない。

 カインとフィーナが2人で一緒だったのは今から5、6年ほども前の事であり、その日数も短かった。

 もしかするとカインはクレセントの地には一月もいなかったかもしれない。

 だが、そんな短い期間だったからこそフィーナもカインの事を逆に覚えていた。

 余りにも短すぎる出会いは少女にとっても大きなものだったのだ。

 それはカインの方にも同じ事が言える。

 父親に連れられて、崩界各地を旅してまわった身としては出会いの一つ一つが大切なものであった。

 ある土地に住んではまた離れての繰り返しの身ではそうそう友人などに巡り合えるはずもない。

 だが、幸いにしてカインは出会いと言うものには恵まれていた。

 父親が交友関係に広かったと言う事もあり、その知り合いの子供達と面識を得る事が出来たのである。

 それはカイン自身が思っている以上に大きな出会いであった。

 クレセントで出会ったフィーナ以外にもアルカディアのディオンや山馬晃一に出会ったのも父親の交友関係の広さが影響している。

 今は亡き、父が残してくれた崩界各地の人物達の繋がりは1人で旅をしてまわっている身としては大いに助けられた。

 若干12歳と言う年齢でこうしてずっと旅を続けられているのも人との繋がりが多くあったからかもしれない。

 こうして、フィーナとまた会えたのも昔に結ばれた縁があるからだとカインは思った。


「遅いぜ、カイン。ウォーティスの奴が御冠だ」


「……そんな事はない。変な言いがかりはよせ、コウイチ君」


 長い間話をしていたせいか、待ちくたびれたと言う様子で晃一とウォーティスが出迎える。

 ウォーティスは普段よりもむっとしているかの様子だ。

 晃一がそれを茶化しているが、あながち嘘と言うわけではないだろう。


「……ごめん、コウイチ」


「すいません」


 ウォーティスの様子を見て思わず謝るカインとフィーナ。

 謝るタイミングが余りにもぴったりで2人は思わず顔を見合わせる。

 そして、2人は同じ事を考えていたと言う事に気付き、微笑み合うのだった。










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