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第3話



「フィーナを助けてくれて感謝する」


 カインとフィーナの2人が落ちついた後、1人の男性が感謝の言葉を伝える。

 この男性の身につけている物や雰囲気などから察するとフィーナの護衛に同行している騎士だろう。

 年の頃は晃一よりも少し年上と言ったところだろうか。

 年齢相応の落ち着いた空気を身に纏っている。


「いえ、当然の事をしただけです。それに……人を助けるのに理由なんていりませんから」


 カインは騎士からの感謝の言葉に対して当然の事をしたまでと返答する。

 人を助ける事に理由なんてない。

 それはカインの剣士としての在り方であり、信条だった。

 カインは見返りなんて全く求めてはいないのだ。

 人を助けるために自分を捨てる事が出来る――――。

 カイン=ウィルヴェントと言う人間はそんな人間だった。

 12歳と言う年齢で成人を迎えたばかりであるカインが竜退治を頼まれるのもそう言った在り方であるからこそかもしれない。


「ふっ……そう言った部分は相変わらず変わらないか」


 カインの態度に騎士が笑みを浮かべる。

 相変わらずだと口にしたと言うことは――――この騎士はカインと面識があると言う事だ。

 事実、カインは数年前にクレセントの街を訪れた時にこの騎士と出会っている。


「これが僕ですから。……御久しぶりです、ウォーティスさん」


 カインが騎士の名前を呼ぶ。

 ウォーティス=クレセント――――これが騎士の名前であった。

 彼はフィーナの族兄にあたり、水の騎士と謳われる有能な騎士である。

 ウォーティスは水のレジェンドアームである、水の剣『ウォーレティス』に選ばれたほどの人物でその力量はカインをも大きく上回る。

 同じくレジェンドアームを扱う晃一よりもその力量は上だろう。

 多彩な水の魔法を使いこなし、魔物を圧倒する剣術の双方を極めたウォーティスは有数の戦士である。

 特にレジェンドアームに選ばれていると言う点がそれを証明している。

 ウォーレティスもまた、扱う事が出来るだけの力を持っていなければ選ばれる事はないのだから。

 対、竜に関してだけで言えばカインの方が本職ではあるが、純粋な実力においてはウォーティスの方が上であると断言しても良いだろう。

 尚、フィーナは同じクレセントの名前でもウォーティスとは他の家系に属しているため、実の兄妹と言うわけではない。


「しかし……何故、貴方がフィーナと一緒にこんな所に?」


 懐かしい再会を喜びつつ、カインはウォーティスに尋ねる。

 フィーナやウォーティスは滅多に南の地を訪れる事はない。

 水の都であるクレセントの影響力があるのはあくまで北の地であるからだ。

 それにも関わらず、2人が南に来ているのは唯事ではないとカインは判断した。


「その事に関してだが……」


 しかし、ウォーティスはカインの質問に言葉を濁す。

 何か答えにくい事情があるらしい。


「……ウォーティス。カインさん達になら話しても大丈夫だと思います」


「解った」


 フィーナに促され、ウォーティスは頷く。

 族兄とは言え、ウォーティスはあくまでフィーナの騎士だ。

 守るべき対象であるフィーナが伝えても良いと言っているのならばそれに従うのみ。


「……実はフィーナをアルカディアの国へと送り届ける途中なのだ」


 フィーナの言葉に従い、ウォーティスは正直にカインと晃一に事情を伝えるのだった。

















「アルカディアに……?」


 思わぬウォーティスからの言葉にカインは驚く。

 アルカディアにフィーナが出向くなんてある意味で異常な事態だ。

 そもそも、アルカディアとはクレセントとは反対に位置する南の大国であり、崩界の中でもトップクラスの国の一つなのだ。

 しかし、北にあるクレセントはアルカディアとは大きな接点はない。

 それにフィーナは水の都・クレセントの統治者の家柄の人間であり、アルカディアとは何の縁もない。

 北の大都市であるクレセントは北の大国であるヴァンデルスと深い関わりを持っているため、どちらかと言えば其方に赴くのが妥当だろう。

 態々、アルカディアへと赴くなんて考えにくい。


「ええ、実はアルカディアのディオン様に招かれて……行く途中なんです」


「ディオンに!?」


 フィーナの口から出てきたディオンと言う名前にカインは更に驚く。


 ディオン=アルカディア――――。


 ディオンは南の大国であるアルカディアの王子。

 武芸に秀で温厚な気質を持つ若き王子とその評判は高い。

 その評判は国内外に問わず聞こえており、カインも旅先でよくその名前を聞いていた。

 因みにカインは父親と共に旅をしていた頃からディオンと面識があり、今でも顔を合わせる事が多い。

 今でも友人としてディオンとは交流しており、付き合いがある。

 カインがディオンの名前を呼び捨てにしているのはそう言った経緯があるからである。


「そう言えば、ディオンはもうすぐ成人の儀を行うと聞いたけど……それが関係しているのか?」


「はい」


 カインと同い年であるディオンはまもなく、成人の儀を迎える頃だ。

 アルカディアの王子であるだけにそれは大々的に行われる予定である。

 そう言った事情であるならば決して不可解な事ではない。

 国から招かれた賓客と言う立場であるならば出向くのは当然の事であるからだ。


「しかし……ディオンに招かれたとは言え、どうしてこんな手段で向かっているんだ?」


 だが、フィーナ達が徒歩でアルカディアに行かなくてはならないと言う事が不可解だとカインは感じる。

 崩界には転送魔法と言う物が存在し、いち早くアルカディアに向かう事も出来るからだ。

 そのため、転送魔法は一定の都市や国へと瞬時に移動する事が出来る便利な手段であり、使わない理由がないとまで言われている。

 崩界おいては移動手段のメインであり、基本的には遠出をする時は転送魔法を使用する事が多い。

 使い方は魔法陣が対応している場所の中で行きたいと思う場所を念じ、転送魔法の術式の描かれた魔法陣に乗るだけ。

 たったのそれだけで距離がどんなに離れていようと1秒とかからずに望んだ場所へと行く事が出来るのだ。

 これほど便利な移動手段もそうは存在しない。

 だが、転送魔法にも欠点がある。

 転送魔法は魔法陣によって行ける場所が決まっており、何処へでも行けると言うわけではない。

 そのため、転送魔法で行けない場所も多く存在する。 

 一瞬で遠くにまで行ける反面、使い難い部分もあると言う事である。

 だが、クレセントからアルカディアにと言うように北と南で正反対に位置する大都市間であっても転送魔法で移動する事は可能だ。

 それはフィーナもウォーティスも良く理解しているだろう。

 まともにクレセントからアルカディアまで徒歩で行くとするならば経過する時間は尋常ではない。

 どんなに急いでも恐らく、1ヵ月前後はかかってしまうだろう。

 その点を踏まえれば恐らく、途中までは転送魔法で来ているのだろうが――――。


「実は、私はディオン様と祝言をあげるためにアルカディアへと向かっているのですが……これはディオン様の指示なんです」


「ディオンからの?」


「はい。転送魔法を使うのは止めて欲しいとの事で」


「だから、フィーナと私はこうして、自分の足でアルカディアに向かっていると言うわけだ」


「……なるほど」


 フィーナとウォーティスの言い分でカインはある程度だが状況を把握した。

 ディオンが態々、転送魔法を使用せずにくるようにと言ったのは何か理由があるに違いない。

 自分の婚約者を危険に晒すような真似をディオンがするとは思えないからだ。

 それに王子であるディオンだけでなく、アルカディアの国王夫妻も息子の婚約者を陥れるような真似をする人間ではない。

 また、徒歩で行くと言う条件をクレセントが飲むはずがない。

 フィーナはクレセントにおいても大切な人だからだ。

 それにも関わらずが転送魔法の使用を禁止されているとは何か理由があるのではないかとカインは思った。


(……コウイチ)


(解ってる)


 カインは思案し、晃一とアイコンタクトを交わす。

 現状はカインも晃一も大きな目的があるわけではない。

 それにこのような所で2人と出会ったのも何かの縁なのかもしれない。

 カインと晃一はフィーナ達の話を聞いて今後の方針を決めるのだった。

















「その、あんたらの話なんだが……俺達も同行させて貰って良いか? ウォーティスの腕を疑ってるわけじゃないが……流石に1人じゃ厳しいだろ」


「む……」


「ウォーティスさん、僕達の事情は考えないで下さい。友人の力とその大事な人の力になるのは当然の事です」


「カイン君、コウイチ君……」


 2人の提案にウォーティスは感謝の念を覚える。

 カインと晃一の力を借りる事が出来れば、アルカディアまでの道中は随分と楽になるだろう。

 特に先程の飛竜との遭遇で助けられた事でそれを実感した。

 もし、あの場で2人に会わなければフィーナの身に何があるか解らなかったからだ。

 それに2人はウォーティス以上に旅に慣れており、道中でのいざという時の対処法も理解している。

 アルカディアへ徒歩で向かわなくては行けないと言う現状では2人の力は必要となるに違いない。

 フィーナを無事にアルカディアのディオンの下へ無事に連れていく――――それが任務であり、達成しなくてはならない事。

 ならば、ウォーティスには断る理由が存在しない。


「すまない。君達の力――――頼りにさせて貰う」


 2人の言葉に頷くのみだ。

 カインも晃一も信用に足る人物であるのだから。

 晃一とは面識を得たばかりではあるが、話を聞いてみて彼もまた信用の出来る人物と判断出来た。

 気さくでノリの軽い人間に見える晃一だが、レジェンドアームに選ばれているだけあってその心は真っ直ぐだ。

 カインが友人として付き合っているのも頷ける。


「ああ、任せときな」


「僕の力でよければ」


 カインと晃一がウォーティスの言葉に頷く。


「……感謝する」


 カインと晃一の瞳に偽りの光がない事を認めたウォーティスは感謝の言葉を伝える。

 単独でフィーナを守る事は出来ても、1人では後がない。

 それに行く手を阻む相手が多数となればウォーティス1人でフィーナを守りながら戦うのは至難の業だ。

 ウォーティスの力ならば並大抵の相手でも後れをとる事などはないが――――それでも確実とは言い切れない。

 しかし、カインと晃一が一緒ならばその心配も殆どなくなる。

 晃一の力量は確かなものだし、銃の使い手として彼は若さに見合わないだけの修羅場をくぐっている。

 本来なら報酬などを払わなくてはいけないような人物である。

 それに対してカインも成人の儀を迎えたばかりとは言え、単独で竜を撃破出来るほどの剣士だ。

 竜殺しのカインとでも言えばその名は剣士の中でも評判になっている。

 若干、12歳と言う若さで竜殺しを中心とした活動をし、何の見返りも求めずに人を助ける――――。

 余りにも真っ直ぐで生真面目で。

 若いのに、力も技も心もある――――と。

 まだまだ若いとはいえ、同行者としては申し分ないくらいだ。

 それに何より、フィーナと同い年であり友人同士と言うのも大きい。

 フィーナにとっては慣れていない旅の道中においても精神的な支えになってくれるだろう。

 ウォーティスは2人が特に理由もないにも関わらず、同行してくれる事を感謝をするのだった。






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