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第13話







 カインの案内でレーバストの街を歩く一行。

 その歩みは心なしか早足だ。

 たった今、起こった地震はフィーナにも晃一にもウォーティスにも思うところがあるようである。

 普段は地震が殆ど起きない土地であるアルカディア方面。

 それなのにも関わらず、地震が発生している。

 事態としては異常であり、その事は間違いない。

 周囲もその状況を証明しているのか人通りは減ってきている。

 通常のレーバストならば道一杯になるほど多くの人が歩き、露店なども出回っている。

 人でに賑わう普段の光景からすれば現在のレーバストの街は静かになっていると言っても良いだろう。

 カインはその様子に何か異常が起きていると言う思いを更に強くする。

 レーバストはそれほどに賑やかな街なのだ。

 多くの人々が行き交い、集まるのがこの街の姿である。

 そのような思いを抱えながらも近道をするために裏道を経由しながら街中を黙々と歩いていく。

 暫くの時間歩き続けて、カインはある曲がり角で裏道へと入る。


「ここです」


 そう言ってカインが指し示した場所は月波亭と書かれた宿屋。

 ここがカインの言う目的地の場所だった。

















「ここにあの方が……」


 カインに案内された月波亭の看板を見て、ウォーティスは驚く。

 案内された場所は何の変哲もない宿屋。

 如いて言うならば、大都市の宿屋だけあって多少は大きいと言ったところか。

 だが、それ以外に他に目立った特徴はないようにも見受けられる。


「まぁ、あの人の事を知っている人からすればこの場所は驚くと思いますけど……見た目とは裏腹に月波亭はしっかりしていますよ?」


 しかし、ウォーティスの杞憂に対してカインは何でもないと言った様子だ。

 カインは何度も月波亭に出入りしているし、この宿屋が他の所とは違うと言う事も知っている。

 それに月並亭の主は普通の人間とは大きく違うのである。

 普通に宿屋を構えているとは言え、その名は崩界でも有数の人物の一人だ。

 だからこそ、普通に宿屋をしているだなんて思われないのだ。


「隠遁しているような形とは言え、アルカディア屈指の魔導士と言うのは伊達ではないですからね」


「なるほどな……」


 カインの言う通り、アルカディア屈指の魔導士と言われている彼の人物が経営している宿屋が普通のものなわけがない。

 寧ろ、宿屋と言う見かけに反して、その中身は別物とも考えられる。

 ウォーティスはカインの言い分に納得する。

 高位の魔導士は日常の風景に溶け込みながらもその実は精巧に創られた空間を形成する事も出来ると言う。

 アルカディア屈指の魔導士ともなればそれ以上の事も可能である。

 カインはそれを知っているから見た目は普通でもしっかりしていると言ったのだろう。


「それじゃあ、行きましょうか」


 ウォーティスの気にしていた事を一通り答えたカインはゆっくりと月波亭の扉を開く。

 ギギィ……と言う音と共に開かれた扉の向こう側には一人の男性の姿がある。

 年頃は20代前半と言ったところで、宿屋の主人と言うにはあまりにも若い。

 だが、主人から感じられる気配は唯の人ではない。

 カインの後ろから宿の中を除いたフィーナが思わず、びくっとしてしまうほどの高い魔力の持ち主だった。

 水のレジェンドアームに選ばれた水の巫女であるフィーナの魔力は常人に比べても圧倒的にも高い。

 同じく、水のレジェンドアームを所有しているウォーティスと比べてもその魔力には開きがあるほどである。

 フィーナの魔力はウォーティスの魔力と比べて象と蟻の差ほどあると言っても良く、クレセントでも飛び抜けて高い。

 同じくらいの魔力を持っている人間なんて同じく、巫女と呼ばれる人間に限られる。

 それにも関わらず、非常に高い魔力を持っているフィーナが宿の主人の持っている魔力に中てられてしまっている。

 この宿の主人は余程の魔力の持ち主であると言える。


「お待ちしていましたよ、カイン。そろそろ来る頃じゃないかと思っていました」


 カイン達一行が来る事を初めから予期していたように主人が出迎える。

 この宿屋の主人こそがカインの言っていた人物にして、ウォーティスが”あの方”と称した人物である。

 ウォーティスがあの方と称するこの人物。

 その名をエクスト=アルカディアと言う。

 月波亭の主人であるエクストは名前の通りにアルカディアに深い所縁のある人物である。

 ディオン=アルカディアの実の兄。

 それがエクスト=アルカディアと言う人間の立場である。

 ウォーティスが月波亭にエクストが居ると言う事を驚いたのはその立場が故だったからだ。

 アルカディアの王子が城を出て、街で宿の主人をしている――――。

 普通は驚かないわけがない。

 何しろ国を継承する身分であるはずの王子が街中に居座っているわけなのだから。


















「クレセントからの客人もどうぞ、お入り下さい」


「は、はい。ありがとうございます。エクスト様」


 エクストに案内され、一行は月波亭の中へと入っていく。

 あっさりと出迎えるエクストの様子にウォーティスは思わず戸惑ってしまう。


「そんなに気を張らなくても良いですよ。今の私は一介の宿の主人でしかありませんし」


「……解りました」


 しかし、本人が気を張らなくて良いと言っている以上、それに従うしかない。

 ウォーティスはエクストの言葉に頷き、後に続く。

 その様子を確認したエクストは月波亭の中にある酒場へと一同を案内する。

 月波亭の酒場は食堂も兼ねており、大勢を一度に招くには最も適している。

 全員で話をするには一番都合も良かった。


「それでは、カイン。貴方がここを訪れた理由ですが……やはり、アルカディアがどのようになっているかですね?」


「はい、そうです」


 案内されたところで本題を尋ねるが、エクストはカインが何を尋ねたいかを既に知っているようだった。

 エクストは魔法を極めた人間の一人にして、崩界の世界事情に詳しい。

 故郷であるアルカディアの事情に詳しいのは当然だが、崩界の各地の事にも精通しているエクストは世界でも有数しかいないほどの知識を持った人間である。

 そのエクストならば、カインが知りたいと思っている事を既に知っていても何も不思議ではない。


「……今のアルカディアは一つの危機に瀕しようといます。ある一つの存在によって」


「なっ……!?」


 だが、エクストからの答えは予想以上に深刻なものだった。

 アルカディアに異変が起きていると言う予測はカインも立てていたが、まさか危機とまで言われるほどだったとは。

 カインは驚きを全く隠す事が出来ない。


「カイン、貴方は龍と言う存在を聞いた事がありますか?」


 そんなカインの様子を後目にエクストは核心とも言うべき一つの名を尋ねる。

 エクストが口にしたアルカディアを危機に導こうとしているその存在の名――――。


















 それは『龍』と呼ばれる存在であった。


















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