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第12話






――――数日後






 カイン達一行は予定よりも若干、早くレーバストの街に到着した。

 時間にすれば約、1日早い。

 事情があるだけに強行軍となってしまったが、歩みを急いだだけの甲斐があったとも言える。

 レーバストの街はアップルヒルの町からずっと南に行った所にあり、アルカディア国内では北の位置にあたる。

 崩界全体の位置とすれば、南寄りではあるが中心の位置に比較的近い。

 アルカディアは崩界の南を治めている大国で4大国と呼ばれている国の一つで残りの3つの国もそれぞれ北、西、東と点在している。

 その中でもレーバストは崩界を代表する街であり、その規模は4大国の抱える街の中でも屈指と言われている。

 巨大な街とも言うべきレーバストは多くの人が交わり、物が集まる。

 レーバストで揃わない情報や物などは数少ないのだ。

 その中で手に入らないものを如いていうならば、B級以上のレジェンドアームくらいだろうか。

 流石に崩界最大の都市であってもレジェンドアームばかりは如何ともし難い。

 まぁ、C級の物であるアームならば幾らでも手に入るのだが……これはあくまでアームが生産されている物だからに過ぎないからだ。

 それにこの街には最大級の転送魔法が設置されており、崩界各地の主要な都市の何処にでも行く事が出来る。

 北、西、東の何れの都市にも瞬時に移動出来、崩界の主要都市からならばレーバストに戻る事も難しくはない。

 大都市であるが故に転送魔法のアクセスも良いのである。

 尤も、アップルヒルなどのような小さな町には転送魔法は設置されていないので行く事は出来ないが――――。

 何れにせよ崩界を代表する大都市であるレーバストは重要な場所であった。















「はぁ……ここがレーバストですか。凄いですね」


 レーバストの街並みを初めて見たフィーナが驚いたように呟く。

 フィーナの故郷であるクレセントも大都市ではあるが、レーバストほど大きくはない。

 見渡す限りの人や建物の多さにフィーナは驚かされるばかりだ。


「そうだね。僕はここには良く来るけど……フィーナと同じように初めての時はそう思ったよ」


 興味津々と言った様子であちこちを見ているフィーナを見ながらカインも頷く。

 カインはレーバストを拠点として各地を周る事も多く、この都市には良く世話になっている。

 旅の際は毎回のようにレーバストに足を運んでいるが、初めて訪れた時は本当に驚いたものだ。


「この街は一日中歩いて漸く周れるかと言ったくらい大きいしね」


 特に一つの街でありながら一日使って何とか周れるほどの大きさであると言うのもレーバストの特徴だ。

 どの方角に対しても距離が長く、面積も広い。

 そのためかレーバストでは行きたい区画に行けるように転送魔法までも用意されているのだ。

 裏を返せば、都市に備えられている転送魔法がなければ一日使っても回りきれない。

 もしかすると、レーバストに住んでいる人々ですら行く事が殆どない場所すらあるという。

 余りにも巨大な都市であると言うのも問題があるのかもしれない。


「さて……雑談はこのくらいにして目的の場所に移動しよう。多分、そこに行けばアルカディアがどうなっているか全部解ると思うから」


「はい、解りましたカインさん」


 とにかく、現在の目的はアルカディアの状況を調べる事である。

 クレセントから転送魔法で移動出来るはずのアルカディアに何故、人の足で行かなくてはならないかと言う事。

 また、その方法での移動を勧めたのが王子であるディオンであると言う事。

 現状、解っているのはこのくらいしかないが、それでも何かがあったと言うのは明白だ。

 クレセントから転送魔法で一瞬で移動出来るはずなのにそれを許さないとしているのだから。

 もしかしたら、アルカディアで何かが起きていてそれを隠そうとしているのかもしれない。

 何れにせよ、目的の場所に行って話を聞くしかない。

 カインは早速、全員をその場所へと案内するために足を進め始めるのだった。

















「カイン君。本当にあの方はこのような場所にいるのか?」


 レーバストの街を歩いている最中、ウォーティスが疑問があると言った様子で尋ねる。

 今、カイン達が歩いているのはレーバストの街中でも裏道に当たる所。

 大都市にしては珍しく人気も少なく、道も広くはない。


「ええ、間違いないですよ」


 ウォーティスが疑問に思っているのに対し、カインは間違いないと言う。

 人気が少ない所にその人物は居を構えているのだから。


「ある意味、人気が多いところじゃ逆に不味いですしね」


「……確かに」


 それにカインの言う通り、人気が多過ぎる場所に住んでいると言うのは都合が良いとは言えない。

 今から会いに行く人物は特赦な背景に何かを持っているからだ。


「まぁ、少し大通りから外れているくらいの場所ですから不自由はしませんよ。本人もそう言っていましたし」


「……なら、良いのだが」


 交流のあるカインがそのように言っているのならばウォーティスも納得する。

 当人が問題ないと言っているのならばそれで良いからだ。

 関わりが深くない者が詮索するのも良くはない。

 ならば、これ以上は何も尋ねる事はない。

 ウォーティスは一先ず、カインとの会話に一段落はついたと思った。






 2人の会話が終わり、一行はレーバストの街を歩いていく。

 フィーナは興味深そうに街並みを見渡しながら歩き、晃一は特に変わった様子もなく歩き、ウォーティスは周囲を確認しながら歩く。

 カインは道案内をしながらもウォーティスと同じように周囲を警戒しながら歩く。

 レーバストは決して治安が悪い都市ではないが、余りにも広いため万全とまでは言えない。

 ましてや、今は人気の少ない道筋を選んで移動しているのだ。

 質の悪いゴロツキなどに襲われても決して可笑しくはない。

 それにディオンがフィーナに普通とは違うルートで来るようにと言ったのは何者かが探しているからと言う理由の可能性も考えられる。

 他国からの人間が嫁ぐという事はアルカディア国内でディオンの妃を望もうとしている家からすれば都合が悪いからだ。

 アルカディアは不平貴族とも言うべき家柄のものは存在していないはずだが、カインが知らないだけという可能性もある。

 何れにせよ、人為的な問題がある事を含めて警戒するにこした事はない。

 不測の事態が起きてからでは何もかもが遅すぎるからだ。


「きゃっ……!?」


 警戒しながら目的の場所に移動していると不意に大きな地揺れが起こった。

 フィーナが小さな悲鳴を上げ、思わずカインにしがみつく。


「大丈夫かい?」


「あ、はい……すいません」


 地揺れが治まったのを確認してフィーナはゆっくりとカインから離れる。

 少しだけ申し訳なさそうにしながら。


「……珍しいな。この辺りで地震だなんて」


「ああ」


 たった今、起こった地震についてカインと晃一は疑問を覚える。

 アルカディア方面は殆ど、地震なんて起きない安定した土地だ。

 はるか南に火山こそ存在はしているが、あれの影響による地震が起きた事は一度たりともない。

 それは現在地であるレーバストも例外ではない。

 アルカディア方面で地震が少ない以上、レーバスト付近でも地震は滅多に起きないのだ。


(やはり、何かが起きている……?)


 カインは今の地震でそう思う。

 この地震は何かの前触れではないのかと。

 考えすぎであるとも思えなくもないが、普段はない事が起きている今、不吉な予感がしてならない。


(もしかすると、ディオンが言おうとしていたのは――――こういった事なのか?)


 ディオンがフィーナに遠回りで来るように促したのはこれを見越しての事かもしれない。

 フィーナが来る前に原因をつきとめる――――そのつもりの可能性が高い。

 だから、ディオンはフィーナに転送魔法で来ないように言っていたのだろう。

 急いで来られてはフィーナも巻き込まれてしまう。

 それにカインがレーバストを拠点にしていたのは僅かに半月ほど前。

 その時はまだ、目立った地揺れなどは特に起こっていなかった。

 だとするならば、現状のようになってしまったのはつい最近の事だと解る。


(とにかく、話を聞いてみないと)


 だが、地揺れだけでは状況を断定するには早過ぎる。

 偶然の可能性だって十二分に考えられるからだ。

 地震というものは自然現象でもあるし、如何に少ないとはいえ発生する可能性は零ではない。

 北、西、東の国でも地震が起きる事は稀にあるからである。

 最悪の事態を予測したいとは決して思わないが、悪い予感がする時は案外、当たる。

 根拠がない事を突き詰めても仕方がないのではあるが――――現状では確認する術がない。

 カインには地の属性の力を使う事が出来ないため、地脈を見たり、感じたりする事は出来ないからだ。

 勿論、晃一にもフィーナにもウォーティスにもそのような真似は出来ない。

 本当ならば今すぐにでも知りたいところなのであるが――――。

 逸る気持ちを抑えながらカインは目的の場所へと足を進めるのだった。
















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