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第11話




「いただきます」


「はい、どうぞ」


 フィーナの準備してくれた食事を前にしてカインは手を合わせ、挨拶をする。

 ウォーティスとの訓練の間に準備されていた朝食は野菜や玉子を挟んだサンドイッチ。

 ちょっと尋ねてみたところ、全部フィーナが自分で作ったらしい。

 旅をする時は毎回、こうしてすぐに食べられる物を準備しているとか。

 崩界においては食べ物を保存する方法は幾らでもあるため、フィーナの方法は正しい。

 カインはそう言った事はしないため、少し驚いた。


「美味しい……」


 しかも、非常に味も良い。

 フィーナは初めからある程度の時間が空く事も想定していたようで時間が経過しても大丈夫なようにしていたらしい。

 剣の訓練の分の時間を含めてもそれなりに時間が経っていたにも関わらず、サンドイッチは美味しいと断言出来るほどだった。


「ふふっ、そう言って貰えると嬉しいです。まだまだ、ありますから。どんどん食べて下さいね」


「うん、ありがとう」


 フィーナに勧められ、もう一つサンドイッチを手に取るカイン。

 未だに成長期でもあるためか、食欲はある。

 それに、フィーナの作ってくれたサンドイッチはとても美味しい。

 つい、手が出てしまう。


「ふう……ごちそうさま、フィーナ」


 幾つかの数を食べてカインは満足そうな様子で手を合わせる。

 普段は朝からそんなに多くは食べていない。

 そのため、フィーナが準備してくれたサンドイッチはちょうど良いくらいの分量だった。


「お粗末さまでした」


 カインが食べ終わった様子を見て、フィーナは微笑む。

 自分の作った食事を満足そうに食べてくれたのが嬉しい。

 身内以外の人間に自分の料理を食べて貰ったのはカインとアルカディアの王子であるディオンだけだ。

 ディオンだけでなく、カインの口にも合った事にフィーナは良かったと安堵する。

 一緒に旅をする以上、自分の作った食事を出す事になるからだ。

 正直、口に合わなかったらそれは流石に辛いものがあるが、満足そうにしているカインの様子を見てフィーナは安心した。

 これで今後も自分が食事を出す場合も大丈夫だと。

 フィーナはカインを見ながらそんな事を思うのだった。

















「さて……食事も終わったし、移動しようか」


 朝食が終わり、片付けが終わったところでカインが今日の予定について口にする。

 レーバストまでは後、2~3日くらいはかかる。

 急ぎの旅とまでは言わないが、フィーナの事情を踏まえれば早いにこした事はない。


「出来るだけ早くレーバストに到着した方が良いと思うし。アルカディアがどうなっているのかの情報も得られるだろうから」


 それにフィーナの事だけではない。

 カインには別に気がかりな事があった。

 現在のアルカディアの状況である。

 フィーナの話を聞いた限りではどことなく、違和感がある事が拭えなかった。

 崩界の南に位置する大国であるアルカディアは世界の多くの場所から転送魔法によって移動する事が出来る。

 もちろん、崩界の北にある都市であるクレセントからも転送魔法でアルカディアに行く事は可能だ。

 本来ならば遠く離れた位置関係にある双方の場所からは魔法で移動するのが普通である。

 フィーナ達がこうして、自分で移動すると言うのは稀なケースでしかない。

 転送魔法の行き先として繋がっていないと言う理由があれば別ではあるが――――。

 そのような真似をするのはカインのように自分の足で崩界各地を周っていると言う人間くらいだろう。

 それか修行の旅と称して遠回りとなる道中を選んだかだ。

 しかし、これについてはフィーナの場合は既に修行を終えているし、旅をする事が目的というわけではないため理由としては考えられなかった。

 水の巫女という立場にあるフィーナのような重要な立場にある人間を無理させる理由など存在しない。


「そうですね……アルカディアの事は気になります。私もディオン様が心配ですし、大丈夫でしょうか……?」


 フィーナもカインの言葉に同意する。

 自分の婚約者であるアルカディアの王子、ディオンとはクレセントを出て以来、一度も連絡を取れていない。

 また、ディオンからも一切の連絡が来ない。

 ディオンは比較的頻繁に連絡を送ってくれる人間だっただけに音沙汰が無いとなると嫌でも心配になってくる。


「あの方はカインさんと同じで自分の事より他の事を優先させてしまうから……」


 特にディオンがどのような人間かと言う事を知っていれば尚更だ。

 ディオンと言う人間は温厚で笑顔を絶やさない明るい気質の持ち主で、多くの人から好かれるような人間である。

 表裏が無く、正直な性格をしているディオンは自然と人を惹き付けてしまうような人間とでも言うべきだろうか。

 そのため、アルカディア国内外問わずディオンは評判が良い。

 遠く離れたクレセントですらディオンの評判は良く、フィーナとの婚約が発表された時は都市中が騒いだものであった。

 また、カインほどではないが彼と同じように自分を捨てる事が出来ると言う気質も持ち合わせている。

 温厚ではあるが勇気がある人間と言っても良いだろう。

 それ故か他者のために動くと言う側面も持っており、窮地に陥るような時は常に自分が前に立つ人間だ。

 フィーナが心配するのも無理はないと言える。


「ディオンなら大丈夫だ。彼は弱い人間じゃない」


「カインさん……」


 ディオンの事はカインも何度か顔を合わせているため良く知っている。

 自身が父親と共にアルカディアに滞在していた時は一緒に修練を行ったものだ。

 ディオンはカインと同じ年齢だが、彼の戦う術はカインにも負けない。

 身の丈以上にも及ぶ巨大な戦斧を軽々と振り回し、火属性の魔法を得意とするディオンは並みの相手に決してひけをとらないような人間だ。

 自分自身が例え、窮地になっていたとしても乗りきれるとカインは思っている。

 だから、フィーナに大丈夫だと言ったのである。

 ディオンの事は大切な友人としてカインも信頼しているからだ。

 しかし、そのディオンから何の連絡も無いと言うのは些か不安が過るものがある。

 何かがあれば必ず、力になると約束していただけに尚更だ。

 だからこそ、アルカディアで何が起こっているのかを確認しなくてはならない。

 フィーナのためにも、ディオンのためにも。

 カインはレーバストへの道を急ぐべきだと言う意志を強くした。

















「おっし! んじゃあ……急ぐとするか。レーバストに」


「ああ」


 カインとフィーナの会話を傍で聞いていた晃一とウォーティス。

 2人もアルカディアで何かが起きているのだろうと察している。

 カインとフィーナよりも年長である晃一とウォーティスは2人に比べて事態を機敏に理解出来る。

 今のアルカディアが何かしらの変事が起きていると言う事を。

 だが、2人でもアルカディアがどうなっているかまでは解らない。

 そのため、レーバストに急ぐと言う選択肢は2人から見ても正解だ。

 アルカディアの状況を知るにはどうしても大都市に行く必要がある。

 小さな都市に比べても出回っている情報の量が桁違いだからだ。

 それにレーバストは崩界全体を通しても最大の都市。

 多くの人が行き交い、多くの人が集まる。

 だからこそ多くの情報が集まるのである。


「ウォーティス、コウイチさん。私の都合に合わせて貰う事になってすいません」


 2人に向かって頭を下げるフィーナ。

 アルカディアに向かうのは自分の都合だと言うのに、皆はそれに付き合ってくれる。

 しかも、急ぎたいと言うのはフィーナの意志だ。

 特に晃一の場合はフィーナと親しいわけでは無いにも関わらず、完全に巻き込む事になる。

 アルカディアに向かうのもレーバストへ急ぐのもあくまでフィーナの都合でしかないのだ。


「いや、構わねぇよ。譲ちゃんの都合に合わせてんのはついでみたいなもんだしな」


「それにカイン君にも急ぐ理由があるようだ。フィーナだけの都合ではない」


 だが、今となってはそれだけではない。

 カインにも急ぐ理由が出来ている。

 アルカディアにいるディオンはフィーナだけではなく、カインにとっても大事な人間だからだ。

 晃一は特に目的があって旅をしているわけではないし、ウォーティスはフィーナに送り届けるのが役目である。

 だとすれば、フィーナの目的以外で左右されるならばカインの目的次第となる。

 しかし、カインもフィーナと目的が事実上、一致している。

 ならば特に問題はない。

 今はとにかく、レーバストへと向かう事。

 これが今の目的であり、方針がはっきりした以上、旅の目標も解り易い。

 それにレーバストへと急ぐ理由も出来た。

 ならば、後は急いで目的地へと向かうのみ。

 全てはアルカディアで起きている変事を突き止めるために――――。















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